第193話:世界の調整者
フイィィーンシュパパパッ。
魔境から帰ったあと、軽く昼食を取って塔の村へ来た。
えーと、燦然と光り輝くハゲ頭はどこだ?
いたいた。
「じっちゃん、ちょっといい?」
「お? おお、何じゃユーラシアか。今はエルもレイカも塔に潜っておるぞ」
デス爺はあたしが忍び寄って静かに話しかけたので驚いたようだ。
あんまりないことだからな。
普段と違うアクションもリアクションもちょっと楽しい。
「いなさそーな時間を見計らって来たんだよ。じっちゃんに相談があるんだ。ここじゃちょっと目立つから、どこか適当なところない?」
「では小屋へ」
デス爺の小屋に案内される。
「どうしたのじゃ」
「この前チラッと話した、『アトラスの冒険者』で知り合ったエルと同じ異世界人っていうのが、実は『アトラスの冒険者』の初っ端に説明してくれる女の人のことなんだよ」
「……確かチュートリアルルームとか言う? 係員が異世界人?」
「理解が早いね」
何だ、デス爺『アトラスの冒険者』のこと知ってるんじゃないか。
情報が少なかった初期に相談すればよかった。
アルアさんのパワーカード工房にコルム兄を送り込んでたことといい、デス爺は何やってるかわかんない人だなあ。
「……ちょっと待て。ということは『アトラスの冒険者』の運営母体は、エルの出身世界にあるのか?」
「うん」
この事実をどう考えるだろうか?
デス爺がゆっくり頷く。
「……さほど意外でもないの。あの転送魔法陣の技術があれば、エルを小さな実空間に閉じ込めることも容易じゃろう」
なるほどの転移術師目線だな。
「で、あたしが掃討戦の内容教えてもらった本の世界のマスター、じっちゃんやパラキアスさんが『全てを知る者』って言ってる存在のことね。彼女もどうやら同じ世界のものっぽいんだよね」
「ほう、本当なら注意せねばならんことじゃな。根拠は?」
「うちの悪魔ヴィルによると、本の世界自体は亜空間に浮かぶ独立の実空間なんだって。本の世界のマスターはアリスっていう名前の人形なんだけど、彼女に『アトラスの冒険者』って何って聞いたことがあるんだ。答えが、この世界の存在に関わることなので全てを話すことはできない、だった」
デス爺が自分のツルツルになった頭をさする。
「アリスにこの前セレシアさんにもらったリボンあげたんだよ」
「ハハハ。お主は『全てを知る者』とうまく付き合っておるのじゃな」
お肉を狩りにしょっちゅう行くところだから、仲良くしておかないとね。
デス爺が真面目顔になる。
「よく調べたの。で、本題は何じゃ?」
「向こうの世界の人がアリスに聞けば、エルの居場所なんかすぐバレちゃうはずでしょ? ところが実際にはそうなっていない」
「エルが捨て置かれているからではないか?」
「かもしれないね。ま、エルの件は別にしても、アリスはここ一〇年くらいであたし達のパーティーにしか会ってないって言うんだ。すんごいたくさん知識を溜め込んでる重要な存在なのにだよ? おかしくない?」
「……明らかに変じゃの」
「じっちゃんの考えを聞きたいんだよ。じっちゃんは『全てを知る者』について何を知ってるのかなあ、と思って」
あたしの知ってる本の世界と『全てを知る者』アリスの現状を教えた時、デス爺はどんな判断を下すだろうか?
あたし達の行動を変えねばならないかも知れないが……。
「放っておいてよいのではないか?」
「え?」
随分意表を突くじゃないか。
そーゆーのはあたしがやりたいのに。
「どうして?」
「『全てを知る者』の存在は、過去の『アトラスの冒険者』から語られたものなのじゃ。本だらけの世界に住む、万事を知識として持つ者としてな」
「マジか」
「『全てを知る者』が人形とはワシも知らなんだが」
衝撃の展開キター!
「おそらくその一〇年以上前だかに『全てを知る者』に会った者も『アトラスの冒険者』じゃぞ。本の世界はエルの世界から忘れられているのではないか?」
「えっ? でもじゃあ何で本の世界がクエストとしてあたしに振られたんだろ? 向こうの世界が全然関係ないなんてことあるのかな?」
デス爺は静かに語る。
「『アトラスの冒険者』は世界の調整者だという考え方がある。本の世界は『永久鉱山』だという話じゃろう? ここから先はワシの想像だが、本の世界は亜空間中から魔力が集まる位置にあるため、長い間放っておくと物体に埋もれて潰れてしまうのではないか。だからたまに素材や魔物の除去を必要とし、向こうの世界とは関係なく自動的に『アトラスの冒険者』のクエストとして配給されるのではないか」
石板クエストにも違和感はあった。
どのクエストも依頼が出されているわけじゃないことに。
各地の困りごとを自動的に集めてきて、ギルドで各冒険者に分配している。
本部もクエストの内容自体には関知していない。
というシステムを『アトラスの冒険者』が採用しているとすると矛盾がない。
「自動でクエスト集めるんだとすると話が通るわ。じっちゃん、ありがとう!」
「うむ、してその『アトラスの冒険者』について説明する女人とお主との関係とはどうなっておるのじゃ?」
「友達なんだよ。あたしは最初、『アトラスの冒険者』の実態を全然知らなかったからさ。クララとチュートリアルルームに押しかけて情報を得ていたんだ。今でも時々うちの子達とお邪魔して、御飯一緒に食べたりしてるの」
デス爺は意表を突かれたようだ。
やったぜ、意表は突く側じゃないとな。
「何じゃ? そやつは『精霊の友』なのか?」
「どうなんだろ? 『精霊の友』の定義は知らんけど、うちの子達とコミュニケーション取るのに不自由ないよ」
「クララ、どうなのじゃ?」
デス爺がクララに説明を求める。
「最初から精霊親和性の高い方でしたが、私達との接触からますます精霊に親しみました。今では『精霊の友』と言って全く差し支えないです」
「へー。『精霊の友』って生まれつきってわけでもないんだ?」
「精霊親和性の高低は生まれつきじゃが、『精霊の友』となれるか否かは環境も影響すると聞くな」
ふーん。
いや、元々精霊と仲良くなれるかは慣れだと思ってたよ?
だけど精霊親和性とか『精霊使い』の固有能力とか聞かされてからは、先天的なものなのかなと考えてたわ。




