第190話:に~く~はうまいな~おいし~い~な~
「かれえはマジで美味いなー。クセになるねえ、この味は」
「に~く~はうまいな~おいし~い~な~、く~って~みたい~な~ほかの~に~く~」
今日はチュートリアルルームでかれえ&お肉パーティーだ。
何という最強のタッグだろうか?
バエちゃんが戸棚をゴソゴソしている。
メモかな?
「これユーちゃんに頼まれてた、カレーに含まれている香辛料のリストよ」
「あっ、ありがとう!」
これさえあればこっちの世界でも魅惑の食べ物かれえを再現できるかもしれない。
えーと……くみん、たあめりっく、こりあんだあ?
何の呪文だ。
「クララ、わかる?」
リストを見ていたクララがいう。
「クミンは手に入ります。魔境で生えてる場所を確認しています。これは育てるのが簡単ですので、家でも栽培できますよ」
おお、マジか!
さすがクララ!
「他の香辛料も、こちらの世界の薬草図鑑に記載があるものですので、いずれ手に入れられるかと」
「やったっ、かれえイケそうだっ!」
「クララちゃん、すごーい!」
何かに気付いたようにバエちゃんが言う。
「あっ、でも待って。香辛料だけわかってもカレーになるのかどうか……」
「いや、味のベースは見当ついてるんだ。トマト・タマネギ・ニンジンを煮崩したペーストに、トウガラシと香辛料加えればそれっぽくなるはず」
「ユーちゃん、すごーい!」
「米も作ってって頼んでるところだから、来年は多分試作ができる。これでかれえライスが実現できそうだよ」
「姐御の食い意地は半端ねえからな」
「こらアトム、もっと褒めていいんだよ」
ダンテがヴィルを膝の上に座らせている。
……案外絵になるじゃないか。
ヴィルも居心地良さそうだ。
まーバエちゃんにも関係のあることだ。
話しておくか。
「今日、ギルドに来た新人連れて魔境に行ったんだよ」
「んーどんな子?」
「『威厳』って固有能力持ちの緑髪の男の子だった」
「ああ、はいはい。ひょろっとした子よね。ラルフ君」
「新人なんて人数いないでしょ。しっかり仕事しなよ」
「ごめーん。ラルフ君はユーちゃんやソール君と違って、最初の一回しかチュートリアルルームに来なかったのよ。あんまり印象がなくって」
ラルフ君はマジで順調だったんだな。
あとはスキルスクロール買う時しか、チュートリアルルームには用がないかもしれない。
「ラルフ君なんだけどさ。今後の方針で悩んでたみたいで」
「そうなの? あっ、ちょっと完璧主義なところがあるかなとは私も思ったわ」
「完璧主義か。ちょっとわかるな。良かれと思ってレベル上げしてあげたんだけどさ。ショック受けちゃったみたいで。余計なことだったかなー」
バエちゃんが笑う。
「いいのよ。あの子あんまり苦労してなかったはずだから」
『アトラスの冒険者』って、システム上最初苦労するようにできてるのにな。
いや、ラルフ君は低いレベルでギルドに来たなとは感じてたけど。
やっぱり『威厳』で舐めくさってブイブイ言わせてたのか?
「元々剣術を少し教わっていて、丸っきりの素人ではないの。自分よりレベルの低い魔物に対しては『威厳』が効くから、簡単に魔物を倒せてたのよ」
「だよね。ラルフ君楽してる気はしてたんだ」
「ちょっとくらい衝撃受けた方があの子のためだと思う」
「バエちゃんにそう言ってもらえてよかったよ。リタイアしちゃうとバエちゃんの給料が減っちゃうのかな、と思ったから」
バエちゃんの表情切り替わるのが早いこと。
「リタイア? ちょっと困るわ! ユーちゃん、どうしよう?」
「うーん、もうできることないんだよね。レベルが倍になったことを前向きに受け止めてくれればいいんだけど」
バエちゃんの目が丸くなる。
「レベルが倍?」
「うん、レベル七でギルドに来てたから、魔境で一四まで上げた」
「ほぼ中級冒険者クラスじゃない」
「まあね。ラルフ君ソロだったから、ステータス的に仲間がいないとこの先厳しいでしょ? レベルさえ上げときゃ『威厳』の効果でいい仲間がすぐできると思ったんだよ」
「そうね。辞めちゃうんだったら仕方ないわ」
あれ、コロッと意見が変わったな?
「才能があっても向いてない人はいるのよ。ユーちゃんに手をかけてもらったのにダメならダメだと思うの」
「うーん。教育って難しいなー」
アトムがお酒を飲んでいる。
もうやめときなという目で睨むと、うへえという顔をした。
懲りないやつだ。
「ごちそーさま。おいしかった。そろそろ帰るよ。今日はかれえの再現が可能そうってわかったことは収穫だった」
「ユーちゃん、結構カレーに拘るよね。どうして?」
「食べたことないおいしさで香りが強いでしょ? 商品価値が高いんだよ。手頃な値段でかれえ屋やったら絶対流行るね」
バエちゃんが笑う。
「いやだ、ユーちゃんったら商売人みたい」
「あたしはあたしに都合のいい世界の実現を目差しているのだ。その一環で商売もやりたいんだけど?」
「またー冗談ばっかり」
冗談でも何でもないんだが。
「今は故郷と周りの村々が発展するといいなーと思って、力を尽くしているんだよ。バエちゃんに教えてもらったまよねえずも試作品を作ってみてさ。いずれ売り出そうと思ってるの。これはあたしが売るわけじゃなくて、お隣の村がだけど」
バエちゃんにここまで話したことなかったな。
「えっ、マジなの?」
「マジなの」
「マジぬよ?」
ヴィルは黙ってなさい。
ちょっと面白かったけど。
「冒険者は?」
「片手間」
突然バエちゃんが泣き出す。
「ユーぢゃーん、冒険者やべだいでええええ!」
「ほらほら泣き止んで。冒険者辞めるなんて言ってないじゃん」
「ほんどう?」
バエちゃんが上目遣いで見てくる。
そーゆーのは男の人に向かってやりなさい。
「本当。『アトラスの冒険者』を辞めると、転送魔法陣使えなくなっちゃうんでしょ? もったいなくてあり得ないから」
「よがっだああああああ。今私、ユーぢゃんのおかげでずっごくお仕事の査定がいいのおおおおおお!」
……お互い結構ロクでもない理由だな。
しかしあたしが最速で魔境行けるようになったこともあって、バエちゃんの成績はいいらしい。
つまりあたしはこのまま魔境生活を楽しめばいいとゆーことだ。
「じゃあ、また来るよ」
「うん、またね」
転移の玉を起動し帰宅する。




