第187話:ラルフ君
「有名な精霊使いユーラシアだよ。あんたは?」
ギルドの武器・防具屋で話しかけてきたのは、ひょろっとした背の高いハンサムだった。
年齢はあたしと同じくらいか、それとも少し上か。
鮮やかな緑の髪が非常に特徴的だ。
雰囲気からして冒険者なのだろうが、装備品も持っていないので、前衛なのか後衛なのかすら判断がつかない。
あたしの中のお笑い感知器が作動する。
コイツからは玩具臭がするぞ?
「ひょっとしてカラーズ緑の民の出身の人?」
「いえ、自分自身はレイノスの出身です。しかし祖父母の代に、緑の民の村からレイノス郊外に移り住んだと聞いております」
伝承によると、緑の民はエルフの血を引くらしい。
典型的な緑の民は、その名の通り珍しい緑色の髪が特徴的だ、と聞いたことがある。
交流ないからあんま見たことなかったけど、今後はカラーズ緩衝地帯で会うようになるかもな。
……目の前のこの子は、うちのダンテからふてぶてしさを除いて、色味を緑と白に寄せたような感じかな。
しかしレイノス出身か。
「レイノス出身だと商売とか営んで真っ当に暮らしてる人が多いイメージだけど、あんたは冒険者になるんだ?」
「実家へ『地図の石板』が送られてきまして、父親が面白そうだ、いい経験になるからやってみろと。父は元々『アトラスの冒険者』を知っていたんです」
なるほど。
『アトラスの冒険者』を知っていたなら、息子に勧めることはあるだろうな。
危険以上にメリットが大きいから。
「もののわかった親御さんだねえ。あたしもなってみるまで知らなかったけど、『アトラスの冒険者』はとてもお得だと思うわ」
「ですよね。魔物を最初倒した時は大変だと思いました。しかしその後は色々な経験ができると気付きまして」
「レイノスであの転送魔法陣を並べられるとなると、かなりの土地持ちお金持ちなのかな?」
ハンサム緑は慌てて手を振る。
「いえ、レイノスと言っても郊外なんです。まあレイノスは人口だけはありますから、ものは売れるんですよ」
「ということは、実家は商売やってるんだ? 賢いなあ。爺さん婆さんの時代なら、まだレイノス郊外なんて余裕で土地確保できただろうし。で、あんたは実家にいれば安泰だろうに、何を目指してるの?」
スタンスというものは大事だ。
真面目に冒険者活動で生計立てている人と、あたしみたいにエンターテインメントとお肉のために動いてる人間とでは違うと思うから。
ハンサム緑ははにかむような笑顔を見せる。
「両親ではないですけれども、面白いものが見られればと。見聞を広め、様々な経験をしたいです。商売のネタでも見つけられれば万々歳です」
「うん、わかる。やっぱ冒険者の醍醐味は未知との遭遇だわ」
「ユーラシアさんは冒険者でずっとやっていくわけではないので……?」
「どこまでが冒険者活動に入るかにもよるな。あたしは面白いことをやりたいんだよ。君と一緒だね」
不自由ないくらいに強くなって移動が自由にできてエンターテインメントが勝手に転がり込んでくるなら、あたしが冒険者に拘ることはないだろう。
でも肉狩りが冒険者活動の内ならずっと続けていると思うよ。
ハンサム緑はとまどったような声を出す。
「え? で、でもユーラシアさんと言えば、サクセスロードを驀進中の若手冒険者として話題の中心で……」
「ふーん、伝説ロードを驀進中のつもりだったけど、あたしもまだまだだな」
「えっえっ?」
美少女精霊使いの煙に巻く言葉!
ハンサム緑は混乱している!
「そろそろ名前を教えてちょうだい。あたしの頭の中であんたの固有名詞が『ハンサム緑』に固定しそうなの」
「あ、これは失礼しました。自分はラルフ・フィルフョーと申します」
「で、ラルフ君はあたしに何か用かな?」
「い、今更ですね」
ラルフ君はどことなく遠慮気味というか腰が引けてるというか。
そーゆーとこだぞ、玩具臭がするのは。
「あたしは自分の聞きたいことを先に聞いただけだよ。だからラルフ君も言いたいこと言いなよ」
「なるほど、これが精霊使いユーラシアの話術か」
変なところで感心してる。
「ようユーラシア、ラルフ、あんたら知り合いだったのか?」
いいところで現れたのは、能天気で軽薄な情報屋ダンだ。
面白そうなことがあるとすぐ嗅ぎつけて来るな。
ダンの嗅覚には舌を巻かざるを得ない。
「ダンさん、こんにちは」
「ダンが敬称付きで呼ばれるとすげえ違和感あるんだけど」
「その内『様』付けなしでは恐れ多くて落ち着かなくなるぜ」
あたしとダンが笑っているのに、ラルフは真面目な顔をしている。
何故だ?
今のは笑うとこだぞ?
「あっ、ダン、あんたラルフ君に何か吹き込んだでしょ?」
「よう、ヴィル。今日も御機嫌だな」
「こんにちはぬ!」
露骨に話題を変えようとするダン。
「こいつ、悪魔なんだぜ。でもすげえ可愛いよな」
「あ、悪魔?」
「この子はあたし達の連れで、好感情の好きないい子だよ。普通の悪魔みたいな嫌がらせしないから心配いらない」
「いい子ぬよ?」
「見かけたら可愛がってやってね」
ヴィルのことはいいわ。
ダンはあたしをどういう扱いしてたんだよ。
ユーラシアは我が儘で逆らうと玩具にされるから気をつけろくらいのこと、ラルフ君に言ってるだろ。
違うわ、逆らわなくたって玩具にするわ!
「自分はまだドリフターズギルドに来たばかりなんです」
ソル君の次の『アトラスの冒険者』の後輩かな?
ラルフ君の前にもう一人くらいいたかも。
脱落しちゃったんだったら可哀そうだな。
「戸惑っているところを、ダンさんに声をかけていただいたんですよ」
「おお、ダンやるじゃない。先輩冒険者っぽい感心な行動だね。で、ラルフ君はあたしのどんな悪口を聞かされた?」
じろりと睨んでダンが言う。
「人聞きが悪いな。ラルフは何とかギルドまで辿り着いたけど、今後どうしようかって考えてるみたいなんだよ。だから冒険者として乗りに乗ってるユーラシアに相談してみろって言ったんだ。あんたの言葉は勇気出るからな」
「ええ、お気楽なユーラシアの話聞けば悩んでるのバカバカしくなる、あの毒舌に耐えられれば大丈夫だと……」
ニュアンスが全然違うじゃねーか。
ダンが面白がってるのがわかるわ。
ヴィルがダンから離れないからな。




