第183話:アリスとヴィル
魔境ガイドオニオンさんが聞いてくる。
「……ユーラシアさんは冒険者になってどれほどになりますか?」
「えーと、五〇日弱かな。先月の一日にチュートリアルルーム行きの転送魔法陣が庭に設置されたんだ」
「普通じゃ考えられない日数です。素晴らしい!」
レベルアップのスピードは速いかもしれんけど、冒険者としての経験はまだまだなんだってば。
何を褒められてるんだかわからないよ。
「スキル屋のペペさんが贔屓にしてるのはこういう冒険者かと、ワタクシ感動しているところです」
「いや、あたしはペペさんほどデタラメじゃないからね?」
「ペペさんの最年少マスタークラスの記録、楽々抜けるでしょう」
「記録のために冒険者やってるわけでもないんだけど」
「そういうところですよ」
どういうところだってばよ?
ともかくペペさんを引き合いに出すのはやめておくれ。
あたしは勝算があるから冒険者とゆー商売に精を出しているのだ。
ペペさんみたいな天然アーチストじゃない。
「ペペさんも同じですけど、余裕があるというかガツガツしてないというか、突き抜けた個性が大物っぽいですよ」
「おゼゼ稼ぎにガツガツしてるし、ペペさんと同類扱いされるのには強く異議を申し立てたいけど、大物っぽいってのは気に入ったから許す」
「ありがとうございます」
オニオンさんったら、何故かスッキリした顔してるな。
「現役で積極的に活動中の上級冒険者って、実はあんまりいないんですよ」
「この前の掃討戦に参加した上級冒険者がいなかったもんねえ。何となく察してたよ」
「ユーラシアさんは注目度も高いです。楽々壁を越えて行ったとなったら、冒険者全体の希望になります。期待していますよ」
「うーん、期待だけされとく。それよりソル君に目をかけてやってよ」
オニオンさんの目が興味深げになる。
「ソル君というのは『スキルハッカー』持ちの冒険者でしたか?」
「そうそう。白魔法使えるアーチャーと雷・氷の二系統使える魔法使いの、二人の後衛を連れてるんだ」
「ほう、パーティーバランスもなかなか」
「すごいやつになる予感がするんだよね」
「正直話を聞いただけでは何とも。いや実際に会ってもワタクシにはすごさが理解できないのかもしれませんが、ユーラシアさんが推しているパーティーとして記憶しておきますよ。魔境にいらっしゃるのが楽しみです」
ソル君はいつ頃魔境に来るかな。
まあ普通に経験積んだ方がためになると思うから、早けりゃいいってもんじゃないんだけど。
「じゃ、帰るね」
「今日は早いお帰りですね?」
「うん、晩御飯のお肉を狩りに行くんだ」
オニオンさんが驚く。
「えっ、今からですか?」
「魔境で取れるお肉はおいしくないって教えてもらったから」
「言われてみれば。しかしバイタリティありますね。あ、ちなみにワイバーンの卵はとてもおいしいんですよ」
「そうなんだ? ありがとう、覚えとく!」
ワイバーンが生息しているのは、オーガ帯より一つ内側だったか。
オーガよりはうんと強いんだろうな。
オニオンさんは、うちのパーティーならワイバーン帯で有利に戦えるだろうとは言ってたけど、楽に戦って圧勝したいし。
ベースキャンプから遠いとゆーこともチャレンジを躊躇させる理由だ。
まあいい。
転移の玉を起動しホームに戻る。
◇
「うん、似合ってるよ」
コブタ狩りに来た本の世界で、アリスの頭にリボンをつけてやる。
青の民の族長セレシアさんが最高の技術と言い切った逸品だ。
複雑な意匠がアリスのクラシックな装いにマッチして、なかなかいい。
「可愛いよ、アリス」
「て、照れてしまいますわ」
「可愛いよ、アリス」
照れてやがる。
人形が赤くなるの、どういう仕組みなんだろうな?
「狙い通りだよ。アリスの格好はお嬢様っぽいから、リボンは合うと思ったんだ」
「ありがとうございます、本当に……」
「お礼だからいいんだってばよ」
アリスへのお礼は宿題残しちゃったみたいで気になっていたのだ。
喜んでもらえて本当によかった。
「じゃ、帰るね」
「あ、ちょっとお待ちになって」
何だろ?
「いえ、いいんです。引き留めてごめんなさい」
寂しそうな顔をしてる気がする。
ずっと一人(?)だもんな。
「アリスはここから動けないの?」
「ええ。私は本の世界のマスターですから……」
やはり本の世界限定の存在か。
ならば……。
「ヴィルカモン!」
「何ですの?」
「召喚の呪文みたいなものだよ」
「召喚?」
しばらくの後にヴィルが現れる。
「天が呼ぶ地が呼ぶ御主人が呼ぶ、ヴィル参上ぬ!」
「え? え?」
混乱してるアリスに紹介する。
「この子もうちの子なんだ。悪魔のヴィル」
「悪魔……?」
「悪魔だけどいい子だよ」
「いい子ぬよ?」
「そ、そう」
ちょっと落ち着いてきたかな。
ヴィルのことは知らんみたいだ。
「ヴィル、彼女はアリス。この本の世界のマスターだよ」
「こんにちはぬ!」
「こ、こんにちは」
「アリスはここでずっと一人なの。あたしも時々ここへ来るけど、ヴィルも時々来て遊んであげてくれる?」
「わかったぬ!」
「ヴィルも元々一人だったんだよ。人間と仲良くしたかったけど、悪魔だからなかなか信用されなかったみたいで」
「そうだったの……」
自分の境遇と重ね合わせてるのかもしれないな。
ヴィルもあちこちに紹介したいんだが、何せうちのパーティーのレベルはヴィルよりうんと低い。
ヴィルがピンチになるような場面では救ってあげられない可能性が高いので、慎重に相手を選んでいるのだ。
アリスなら特に問題あるまい。
「ヴィル、アリスをぎゅーしてあげなさい」
「わかったぬ。ぎゅー」
「あ……」
ヴィルに抱きしめられるアリス。
「悲しくないぬよ。御主人もヴィルもいるぬ」
「うう……」
アリスの目に涙が浮かぶ。
本当に人形なんだよなあ、どうなってるんだろ?
「……ありがとう、もういいわ」
ヴィルがアリスを離す。
「心配しなくてもまた来るからね。本の世界にお肉がある限り。とゆーか、ここってあたし達しか来ないの?」
「ここ一〇年で来たのはあなた達だけね」
「マジか」
おいおい、どんだけ放置されてるんだよ。
「じゃあね、この可愛いやつめ」
「ではまた」
「バイバイぬ!」
「ヴィルもホームに来てくれる?」
「わかったぬ!」
転移の玉を起動し帰宅する。




