第1788話:黄の民の問題
――――――――――二七九日目。
「メッチャわさってる」
「メッチャわさってますねえ」
「メッチャわさってやすね」
「メッチャわさってるね」
「メッチャわさってるぬ!」
うむ、見事な五段活用だ。
言わずと知れた灰の民への村の通り道、湧き水の出るところのクレソンの生育状況についてだが。
「クレソンおいしいんだけど、量を食べようと思ったらどうしたらいいのかな?」
メッチャわさってるからにはメッチャ食べるべきだ。
でもメッチャサラダじゃ飽きるわ。
大体サラダってメッチャ食べるもんじゃないわ。
「すり鉢が欲しいですねえ」
「えっ?」
クララにアイデアがあるらしい。
拝聴しようじゃないか。
「煮て柔らかくしたタマネギとクレソンを磨り潰して骨スープと牛乳で割り、塩で調味したらおいしいと思いますよ。ジャガイモやニンジンを入れてもイケます」
「なるほど。クリームシチューから派生して小麦粉を使わない発想か。やるなクララ」
「えへへー」
「赤の民のショップですり鉢売ってそうだね。牛乳と合わせて買ってこよう」
「「「了解!」」」
すり鉢はかれえを作る時にも使うので、いずれ買う予定ではあった。
いろんな食べ方ができるのもまた食文化の発展だ。
食いしん坊ってゆーな。
楽しみが増えたなー。
◇
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「やあ、いらっしゃい」
JYパーク灰の民のショップにやって来た。
サイナスさんも機嫌がいい。
野菜やお弁当の売れ行きがいいのかな?
「お肉とクレソン、フィフィの本、それからゲッケイジュの枝をサイナスさん家に置いてきたからね」
「ありがとう。ゲッケイジュの枝とは?」
「昨日言い忘れたけど、魔境で取ってきたんだ。葉っぱを乾燥させたものが香辛料として使えるそーな。煮込み料理に必須とまでヴィクトリア第一皇女に言われたから、ドーラでも増やそうかと思って」
「ほう、有用な植物か」
「うん。実から油も取れるんだって」
マルチに使える植物は利用価値が高いね。
「魔境に生えてることはちょっと前から知ってたの。ただお腹が膨れるものではないから保留してたんだよね」
「必須と言われて考え方を変えたと」
「そゆこと。クララによると育てるの難しくないし、今挿し木にいい時期なんだって」
「わかった。試験的に増やしてみよう」
「お願いしまーす」
よしよし、いいだろう。
香辛料やハーブの類も少しずつ増やしていくのだ。
「ところで黒の民って特にトラブルないよね?」
「黒の民? いや、聞いてないが。何かあったのか?」
「何かあったってことではないな。酢や醤油の生産に支障が出てるんじゃなければ、そう問題はなさそう。ピンクマンがしばらくギルドに来てないって話を聞いたからさ。チラッと気になってただけ」
「カール氏が? 彼、次期黒の民の族長だろう?」
「多分ね」
「現在のカラーズの状況は極めて好調なんだ。揉め事は困るぞ?」
揉め事じゃないから心配することはないって。
「サイナスさんが知らないことならいいんだ。多分ラブい話だから」
「ええ? 決めつけるなあ」
「あたしのこの手のカン、外れないんだぞ?」
「放っとくのか? 君ラブい案件大好きじゃないか」
「我慢する。もうちょっと熟成させた方が面白くなる気がするんだ」
「エンタメの追求がひたすらにえぐい」
アハハと笑い合う。
まだ手持ちの醤油が結構あるからな。
もう少し減ってから、買い物がてら様子見に行きゃいいや。
「君今からどうするんだ?」
「すり鉢と牛乳を買いに行く。クララが新しいスープを思いついたんだ。帰りに寄ってニンジン買ってくから、少し取っといてよ」
◇
「ふんふーん。あれ、フェイさんこんにちはー」
「こんにちはぬ!」
すり鉢と牛乳を買って灰の民のショップまで戻ってきたら、黄の民の族長フェイさんがサイナスさんと話してた。
フェイさんが出張ってくるの珍しいな?
いつも大体黄の民のショップでどんと構えてるのに。
「活躍は聞いているぞ。世界を股にかけて活躍しているそうではないか」
「世界があたしを必要としちゃってるの」
アハハ。
で、フェイさんはどうしたの?
「ユーラシアに伝えておきたいことがあるようだぞ?」
「何だろ?」
「うむ、二つあるのだ。一つは開拓地北の森を魔物から解放し、移民居住区に組み入れる件だ」
「あっ、聞いてる聞いてる。『アトラスの冒険者』に協力してもらって、いっぺんにやるよ。『アトラスの冒険者』を巻き込む方はあたしに任せて。二ヶ月くらい先になるけど」
「カラーズから手伝いを出すべきか?」
「手すきの輸送隊員は魔物退治訓練を兼ねて協力して欲しい。それ以外はいらないんじゃないかな。掃討戦の時とは参加する冒険者のレベルが段違いだから、人数は余裕で足りちゃうと思う」
「いや、事後の焼き肉パーティーの手伝いだが」
「いるいる、メッチャいる!」
さすがフェイさんだった。
もう一つのあたしに伝えときたいこととは?
ためらいがちのフェイさん。
「我が黄の民のことなのだが」
「あれ、何かトラブル?」
「御主人が嬉しそうだぬ!」
「こらヴィル、本当のことを言ってはいけません」
大笑い。
あたしはトラブルを待ち望んでるわけじゃない。
面白いことが好きなだけなのだ。
トラブルは面白いことの範疇なんだろうって?
細けえことはいーんだよ。
「簡単に言うと、インウェンとの婚姻の件で、精霊使いは俺の一族から反感を買ったであろう?」
「それってまだ引きずってるんだ?」
有力者の娘二人との縁談を壊してインウェンとくっつけたことか。
半分忘れかけてたぞ?
「インウェンの件とは関係のないことで、俺の一族が問題を起こしてな。いや、正確にはまだ問題が表面化しているわけではないのだが、時間の問題だと考えている」
「要するに、どうにもなんなくなってあたしのとこに話が来るってことだね?」
「そういう段取りに持っていく」
あたしが問題を片付けて恩を着せ、黄の民族長一族と和解してくれってことらしい。
だから話を聞かれないように、わざわざ灰の民のショップまで来たのか。
最初からあたしに解決させるなんてことになると、総反発食うに決まってるから。
「少し先になるが、よろしく頼む」
「オーケー、任せて。じゃーねー」
「バイバイぬ!」
おっと、ニンジンを買っていかねば。




