第176話:結果にコミットする
ベースキャンプから外に出た。
「これが魔境か。何だか空気が重く感じるね」
「ビコーズ、ボスがビビってるからね」
「何だとお!」
ビビってないわ!
あたしをビビらせたら大したもんだわ!
「確かにどんよりしています。魔力濃度の関係ではないでしょうか?」
「ほらほら、クララ先生がこう言ってるだろーが!」
「モンスターがいるね」
「わかってるけど、ちょっと遠慮しようか」
ビビってるわけじゃないわ!
ただこう、もうちょっと魔境の空気に浸りたいだけだわ。
まずは大人しくアイテムの回収からだ。
「共闘できるったって、ある程度ベースキャンプから遠くに行けるだけの腕がないと、他の冒険者に会えねえよなあ」
「だよねえ」
ベースキャンプから少し離れたところ、魔境観点ならば辺縁部であろう地域で素材や薬草をナップザックに放り込む。
ま、ベースキャンプ自体も魔境の中では魔物の弱い地区にあるはずだから。
「確かに素材は多いな」
「でもありふれたものですよ。高価なもの珍しいものは、魔力濃度の高いところじゃないと取れないのかもしれません。あ、これクミンです。実から香辛料の取れる草ですよ。場所覚えておきましょう」
思ったよりクララが楽しそうだ。
有用な植物があるみたいだな。
となると秋も深まってくる今の時期は惜しい。
初夏くらいに来たかったもんだ。
「姐御、アイテム狩りもいいでやすが、そろそろ一当てしやしょうぜ」
「オーガ一体ね」
「行ってみようか」
強いことは強いだろうけど、大したプレッシャーは感じない。
レッツファイッ!
ダンテの実りある経験! あたしのハヤブサ斬り・改! 『あやかし鏡』の効果でもう一度ハヤブサ斬り・改! アトムのマジックボム! よーし勝った!
「ボス、イージーなビクトリーだったね」
「一ターンで倒せたもんな。でもマジックポイント消費が大きいわ」
「オーガは会心攻撃を頻発する危険な魔物です。今の戦い方でいいと思います」
「三回戦ったら回復しに戻りやしょう」
会心持ちの魔物に、溜め技で攻撃が後手になる『雑魚は往ね』は使いづらい。
いや、魔境の強力な魔物に、おそらく『雑魚は往ね』は通用しないと思うのだが。
「よし、単体のオーガを主目標に今の戦い方で。三回戦ったらベースキャンプに戻る」
「「「了解!」」」
三体目のオーガを倒しベースキャンプへ帰ろうとした時、一体の白っぽい風変わりな魔物を見つけた。
「……人形系のレア魔物?」
「クレイジーパペットです。ヒットポイントは八」
「やっぱり素早くて、モタモタしてると逃げちゃう?」
「はい、そうですね」
クララが答える。
ヒットポイント八か。
二ターン目にかかっちゃうと多分逃げられてしまうだろう。
以前考えてたやり方を実行してみるいい機会だ。
「戦ってみよう。一ターン目、あたしとアトムは『経穴砕き』、ダンテは『実りある経験』、クララは『勇者の旋律』使ってくれる?」
「『勇者の旋律』?」
アトムが首をかしげる。
「攻撃力が上がったところで人形系には……いや、姐御には何か策があるんでやすね?」
「このスキル、ちょっと引っかかってることがあるんだよね。人形系が相手じゃないと答えが出ないんだよ」
レッツファイッ!
クレイジーパペットのフレイム! 結構なダメージを食らった。相当魔法力高いんだろうな。クララの勇者の旋律! ダンテの実りある経験! あたしの経穴砕きで三ダメージ! やっぱりそうかっ! もう一度経穴砕きで三ダメージ! アトムの経穴砕きで三ダメージ! よーし倒した!
「結構『フレイム』がキツかったな。ドロップアイテムは、藍珠と透輝珠! やたっ! お金持ち!」
「ユー様……」
「あっ、ごめんよ。油断はいけないね。リフレッシュ!」
全員のヒットポイントを回復させる。
近くに魔物もいない。
よし、オーケー。
「ユー様、今の『勇者の旋律』の効果は……」
「『経穴砕き』は一ダメージしか出ないはずなのに、三ダメージだぜ?」
「ミステリーね」
あたしは説明する。
「ペペさんはね、あたし達に相応しいスキルしか寄こさないんだよ。いかにペペさんオリジナルじゃないとはいえ、ただの攻撃力アップ支援スキルって地味過ぎて変だなーって思ってたんだ。ロマンの欠片もないじゃん?」
「ロマンと言われりゃあ確かに……」
「ユー様、『勇者の旋律』はどういうスキルなのです?」
もったいつけたいけど、クララがマジだしなあ。
『勇者の旋律』は『魔法スキル大全』にも載っていないスキルと、クララは以前言っていた。
正体を知りたいんだろう。
「ペペさんは『物理攻撃による与ダメージを上げる』バトルスキルって言ってたんだ。普通に使えば攻撃力が上がる支援スキルと変わらないけど、文字通り解釈すれば人形系魔物に対するダメージだって増えるはずでしょ?」
「『勇者の旋律』は人形系魔物へのダメージも増やす?」
「正解だったね。今まで検証する機会がなかったけど、今日正しい効果を解明できてよかった」
普通『攻撃による与ダメージを上げる』効果と説明されれば、攻撃力を上げるものだと考える。
しかし『勇者の旋律』は違う。
与ダメージという結果に直接コミットする特殊なスキルなのだ。
「ペペさんは野暮な説明を省いてこのレアスキルをくれた。精霊使いユーラシアのパーティーに相応しいスキルとしてね。必ずあたし達がその真の効果に気づくと信じて。アートでロマンでドリームでしょ?」
「ファンタスティックね!」
ダンテが珍しく感情を顕わにする。
「このスキル、私のレベルかステータス値が上がると、もっと与ダメージ上がるかもしれませんねえ」
「とするとデカダンスみたいなヒットポイント多めのやつも、簡単に倒せるようになるんじゃないかな」
「ひょっとして、通常攻撃でもダメージ入るんじゃ?」
「あるいはそーかも。でも通常攻撃じゃ元々人形系魔物にはダメージゼロだから、結果にコミットしても『経穴砕き』よりヒットポイント削れると思えないんだよなあ」
余裕のある時検証してみたいもんだ。
「ファンタスティックね!」
コーフンがまだ収まりきってないようだ。
ダンテってロマンチストだったんだな。
知らなかったわ。
「十分な結果を出せたね。新たな知見も得られた。さて、一旦ベースキャンプに戻ろうか」
「「「了解!」」」




