第175話:魔境ガイドのオニオンさん
「ねえカカシ、ついにあたしら魔境に挑む冒険者だってよ。すごく偉そうだよねえ。どう思う?」
「一流冒険者の仲間入りじゃねえか。まあユーちゃんはやる女だって知ってたぜ?」
「照れるなーもー」
我が家の畑番を務めている涅土の精霊カカシは、戦闘メンバーではないがあたし達の戦力増強に貢献してくれている。
ステータスアップ薬草を栽培できるってマジですごい。
薬草栽培以外にも畑仕事をかなりの部分引き受けてくれてるので、メッチャありがたい存在なのだ。
「行って魔物が手強くても恐れることはないんだぜ? オイラの作るステータスアップ薬草があるんだ、時間が経てば経つほど強くなるのは確定している」
「うん、頼りにしてるよ」
「こっちは任せとけ! オイラもやりがいがあるぜ」
アルアさんの言っていた、少しずつ攻略が基本っていうのと通じる気がするなあ。
相手はいよいよ魔境の魔物達だ。
慎重にというのがもっともな気がする反面、うちのパーティーのやり方じゃない気もしてる。
さて、そろそろ行くか。
現地を見なきゃ何とも言えないわ。
うちの子達に声をかける。
「出かけるよー」
「「「了解!」」」
いざ、魔境へ!
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「ここが魔境か……ってあれっ?」
建物の中だぞ?
ちょっと予想外。
ギルドのお店ゾーンよりは広いな。
青い魔法陣と赤い魔法陣が並んでいる。
おそらくはステータスパネルであろう、魔道の装置が備えられており、その前にいる人が話しかけてくる。
「いらっしゃいませ。ワタクシ、ドリフターズギルド所属魔境ガイドのペコロスでございます。お見知りおきを」
「こんにちはー」
小柄で頭が大きく、眼鏡をかけており、黄色みがかった髪をアップにしててっぺん近くで結っている。
一瞬男性か女性かわからなかったが、声からすると男の人だな。
全体の印象からすると、丸っきりタマネギみたいな外見だ。
「魔境は初めてでいらっしゃいますね? ギルドカードを拝見いたします。ユーラシア・ライムさん、と」
「そうそう、ユーラシアだよ。うちの子達は精霊ね。こっちからクララアトムダンテだよ。よろしく」
「ああ、アルハーン掃討戦の御活躍は聞き及んでおります。あれ? 掃討戦って、中~低レベルの冒険者が参加でしたよね。今レベル三四っておかしくないですか?」
「掃討戦のボスがデカダンスっていう人形系レア魔物だったんだ。そいつを倒した経験値がごそっと入ってレベルが跳ね上がったんだよ」
「中級冒険者がデカダンスを倒したというのはすごい! 素晴らしい才能です!」
「いや、皆の助けがあったからだよ。あたし達だけじゃとてもとても」
「いえいえ、デカダンスは魔境でもドラゴン帯に生息する魔物ですよ? 強力な魔物と相対する勇気がそもそも尋常じゃありません! す、すいません。コーフンしてしまいまして……」
よく褒めてくれてすげー気分がいいなあ。
でもテンション上がり過ぎてない?
あたしみたいな超絶美少女を目の当たりにして舞い上がるのはわかるけど。
少々空回り気味の小男を制し質問する。
「ねえ、タマネギに似てるって言われたことない?」
小停止する小男。
なかなか侮れないな。
今の動きはカラクリ人形みたいで面白かった。
「い、いやワタクシ陰でタマネギと呼ばれてるのは存じてますけれども、面と向かって言われたことはないです」
「タマネギさんって呼んでいい?」
「できればペコロスと……」
「できないから頼んでるんだよ。もーあんたの顔見た瞬間から脳みそがタマネギに占拠されて名前が入ってこない。ムリならオニオンさんでもいいんだけど」
「で、ではオニオンと」
「ありがとうオニオンさん!」
いやあスッキリした。
オニオンさんいい人だ。
気を削がれたか、大分落ち着いた様子のオニオンさん。
「では説明を続けさせていただきますね。こちらは魔境トレーニングにおけるベースキャンプになります。回復魔法陣とギルド直通の転送魔法陣がありますので、御自由にお使いください。ベースキャンプは聖なる結界によって守られているので、魔物に襲われることはありません」
「なるほど、回復魔法陣完備の安全地帯ってことだね? 危なくなったら逃げ込みゃいいのか」
回復魔法陣があるのは非常に大きな利点だ。
お腹減ったり不要なアイテム手に入れたりしたら、ギルドへ行きゃいいんだな。
直通の転送魔法陣が心憎い。
「最初の内は全力で戦って、すぐベースキャンプに戻ってくるという方法を取られる方が多いです。ベースキャンプからあまり離れないのがよろしいですね。もっとも何度も出撃される方はいませんが」
うむ、至極真っ当な意見だな。
魔境初心者のセオリーなんだろう。
魔境『トレーニング』の意味がわかった。
「それからユーラシアさんのパーティーにおかれましては、ドリフターズギルドよりら禁止事項が設定されております」
「禁止事項?」
何だろ?
心当たりがない。
「オリジナルスキル屋を営んでいるペペさんから『デトネートストライク』なる非常に高威力の魔法を購入されておられますが、魔境での使用を禁じます。例えば遠くの魔物に向かって『デトネートストライク』を放ち魔法陣で回復、というのを繰り返せばレベルは上がるでしょうが、ここは他の冒険者のトレーニング場でもありますので、危険行為に該当するとのことです」
なるほど、賢いやり方だ。
ペペさん方式だな。
封じられてしまったが。
「他の冒険者もいるんだ?」
「はい。しかし魔境に来られるほどのハイクラス冒険者となると、人数は多くありませんね。もちろん共闘も可能です」
「共闘か、楽しみだなー」
「素材も経験値も稼げるエリアではありますよ」
「よし、バリバリ稼ぐ。注意点はそれくらいかな?」
「はい。ユーラシアさんの方から何か質問があれば」
いいのか?
あたしに質問させて。
遠慮なくガンガン言っちゃうぞ?
「オニオンさんはいい関係の異性の人いるのかな?」
「えっ? い、いやおりませんが」
「ギルド依頼受付所のおっぱいさんどう思う?」
「えっ? す、素敵な女性だと……」
ふーん、わざわざサクラさんって言わなくても、おっぱいさんで通じるじゃん。
「ありがとう、行ってくる!」
「えっ? えっ?」
混乱しているオニオンさんを放置してユーラシア隊出撃。




