第1737話:言わずもがなお肉
「ワイルドボアの飼育が行われているのはこちらです」
「うわ、広い場所だな!」
エルフの里集落周辺特有のデカい木ごと柵で囲ってるのが、ダイナミックというかエルフ流というか。
エメリッヒさんも感心してるわ。
「ああ、魔物除けと無縁なこれだけの広さの土地があれば、十分ブタの復活は可能だ」
「ブタとは何ですか? 言葉の端々からお肉の匂いがしますけれども」
「アビーは敏感だな。これカナダライさんにも知っててもらいたいことなんだ。あとで話すね」
カナダライさんは、と。
いたいた。
「やあ、ユーラシア殿」
「カナダライさん、こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「そちらの御仁は?」
ちょいと説明がややこしいが、カナダライさんには皆話しとかないとな。
何たってカナダライさんもエメリッヒさんも、ブタ復活のキーマンだから。
「エメリッヒさんだよ。最初から話すね。今は絶えちゃったけど、昔帝国でブタっていう高級家畜が飼育されてたことがあったんだ」
「ブタというのは?」
「ワイルドボアと近縁のイノシシの魔物、アールファングを家畜化したものだよ」
「ほう?」
「エメリッヒさんは、ブタをかつて飼育していた地区を現在治めている領主の血縁なんだ。その地区ではブタを復活させるのが悲願なんだけど、魔物が多いところらしくて魔物除けが必須みたい。となると邪気あるものの多頭飼育ができないから、現在の状況だとブタ復活がちょっと難しい」
「ふむふむ」
「ただ過去のブタ飼育の断片的な資料なんかを、かなり持ってるみたいなの。それ見せてもらえると、かなりワイルドボア家畜化が捗ると思うんだ。共通部分も多いだろうから」
「ふむ、正直今のワイルドボア飼育は手探りですな。貴重な資料を見せてもらえるならありがたい」
「だから提携結ぶことにしたんだ。もしブタの復活に成功したら、帝国ではその地区に真っ先に導入させてあげる。代わりにブタ飼育の資料見せてって感じ」
「全く損はありませんな。で、今日は様子を見にいらしたというわけですな?」
「うん。どう?」
「順調ですぞ」
おお、割と可愛い。
一〇頭以上おるやん。
「一二頭です。やはり若い個体は若干邪気が少ないですな」
「アールファングの近縁種だとすると、完全な幼獣は身体に縞模様があるんじゃねえか?」
「おお、さすがによく御存じですな。完全な幼獣は母親の乳で大きくなりますので、飼育が難しいです。縞が消えたくらいの個体を捕らえてくるのです」
「なるほどな」
ちょっと専門的な会話で興味をそそられる。
「あくまでブタのケースだが、性成熟するまで一年かからねえんだ」
「とゆーことは、来年にはこの子達の子、さらに邪気の少ない個体が生まれるのか」
「また別の場所に隔離しましょう。おそらく三代も累代飼育すれば、魔物除けを嫌がらなくなると思いますぞ」
マジで順調やんけ。
しかしカナダライさん浮かぬ顔。
「思った以上にエサの確保が大変なのですな。虫も食べるようですので、ある程度動物質のものも与えた方がいいようですが……」
「そこでじゃーん! エサになりそーなものを持ってきました!」
「実に助かります。何ですか?」
「魚粉だよ!」
「「「魚粉?」」」
うむ、これだけではわかるまい。
「魚人は油を魚から取ってるの。魚粉は魚から油を搾り取った残りかすを粉にしたもの。食用にもされるんだけど、何せ大量に出るからえっらい安く買えるんだ」
「ほう、つまり安くて魚の栄養がほぼ丸ごとですか」
「食用なんですね?」
「カナダライさんとアビーは食いつくとこ全然違うのな」
面白いけど。
「食べてみる? クセがあるけどまあまあおいしいよ」
つまんで食べるアビーカナダライさんエメリッヒさん。
「あっ、キノコと炒めればきっとおいしいです!」
「ふむ、悪くない」
「おう、魚だな」
感想がバラバラでちょっと愉快。
問題はワイルドボアが食べてくれるかどうかだが。
柵の中へ。
「気をつけてくだされ」
「うん、大丈夫だよ。でもいっちょまえに向かってくるねえ。魔物だけのことはあるわ。可愛いやつめ」
「可愛いやつだぬ!」
突進してきた子を止めて落ち着かせ、魚粉をあげてみる。
「どうどう、栄養たっぷり魚粉だよ。おいしいぞ? 食べてみ?」
「ぶひ?」
おお、ガツガツ食うやん。
あっという間になくなった。
喜ぶカナダライさん。
「バッチリです! 早速魚人と交渉してみましょう」
「ただあんまり動物質のものばっかりやってると、肉質が不味くなっちゃうみたいなんだよね」
「ええっ? それは一大事です! 不味い肉は肉にあらず!」
「アビーの言うことももっともなんだけどさ。最初は育てること増やすことが目的だから、味は後回しになっちゃうな。おいしくするコツについては、ブタ飼育の資料が見られれば書いてあるんじゃないかと思うんだ」
何てったってかつてのブタは高級肉とされていたらしいから。
不味いお肉が高級なわけはない。
「もう一つ。これは食べてくれれば儲けもんくらいの期待度だけど」
「ああ、クレソンか」
「「クレソン?」」
「ちょっとピリッとしたアクセントがあるけど、人間も食べられる美味い野菜だよ。水辺に植えとけば、特に何もしなくても勝手に増えるんだ。特にこのクレソンは魔境に生えてた特別製で、冬でも繁殖するやつ」
ワイルドボアにやってみる。
どうだろ?
あっ、食べるやん。
「イケるな。カナダライさん、これも増やしてよ」
「わかりましたぞ!」
しかし難しい顔のエメリッヒさん。
「……秋以降のエサはイモがあるとしても、腹持ちのいい穀物がねえと厳しいな」
「そうだねえ」
エルフも小麦くらいは作ってるが、自分達が食べる分だけだろうしな。
大体今からじゃ収穫まで丸一年かかっちゃう。
「今から種蒔いて、秋の収穫にギリギリ間に合うとすりゃあトウモロコシだが」
「うーん、今年は移民一杯来るじゃん? あたしらも穀物全然足りてないんだよ」
「帝国から種買えねえのか?」
「あっ、どうだろ?」
その手があったか。
エメリッヒさん賢いな。
今年蒔く予定の分はないだろうけど、食べたり輸出したりする分はありそう。
エメリッヒさんとギレスベルガー家領行く時買ってこよ。
「よーし、今日の予定は終わり! 海の王国にお肉食べに行くんだ。アビーも行かない?」
「言わずもがなっ!」




