第173話:さすクラ!
クララがおっとりと提案する。
まああたしのことを一番よくわかってる子だから。
「女王様の説明を聞いてから決めればよろしいのでは?」
「実にもっともなことだね。さすがクララ」
明らかにホッとした様子を見せる女王。
「躊躇なく即答されたからどうしようかと思うたぞ」
「冒険者ってのは瞬時の判断が求められるもんなんだ」
「おお、もっともなことじゃの。おんしは優秀な冒険者じゃから」
何をもって優秀と判断してるんだろうな?
美少女オーラ?
「ではつづらについて説明するぞよ。大小どちらのつづらにも素材が入っていることに関しては変わりがない。が、大きいつづらにはコモン素材がたくさん入っており、小さいつづらにはレア素材が一つだけ入っているという違いがあるのじゃ」
「うんうん、なるほど面白い」
「どちらも売買価格の総額は似たようなものじゃと思う。どちらか一方を礼としてプレゼントしたい。好きな方を選んでたもれ」
「どっちかっていう趣向だったか。理解したよ」
「普通そうだよなあ」
アトムがボソッと呟き、ダンテが頷いている。
常識に囚われちゃうのが、あんた達の未熟なところだぞ?
ゴリ押して通っちゃうことだって少なくないんだから、とりあえず押してみろ。
それがあたしのスタンスだ。
「じゃあ小さいつづらをもらう」
あたし達にはアルアさんの工房での交換ポイントのシステムがある。
たくさんの素材で得られるポイントは、確実なメリットになることはなるのだ。
だから素材たくさんの大きいつづらは確かに惜しい。
でも海底のレア素材ともなると、今後手に入れる機会すらないものかもしれないしな?
「ではこれを受け取ってたもれ」
「ありがとう」
女王の侍者が持ってきた奇麗な箱を受け取る。
意外と重い……。
これ大きいつづらだったら、大勢の衛兵が担いでくるとかだったのかなあ。
持って帰るのすげー大変だったんじゃないか?
「じゃあ今日は帰る。また来るよ!」
「うむ、息災での。楽しみに待っておるぞ。特に肉をな!」
とりあえずコブタ肉は女王に気に入ってもらえたようだ。
フルコンブ塩と相性ピッタリで実に美味いもんな。
転移の玉を起動して帰宅する。
◇
お土産にもらった小さいつづらを開けたのは、夕食の薬草入りたっぷり粥を食べたあとのことだった。
箱自体の装飾が美しく、眺めていて飽きないということもあったのだが、単純に開け方がわからなかったのだ。
側面がパカッと外れるのに気付いたのは、かなり遅くなってからだった。
魚人のつづらって皆こういう仕組みなのかな?
「これは何だろ?」
薄緑色したただの石みたいに見えるが、それにしては軽い。
「何だ、つづらが重かったのか」
「バット、ボックスがプレシャスかもしれないね」
「奇麗だもんねえ。一応取っとくか」
クララが首をかしげる。
女王がくれたレア素材とされるものは、クララですら正体のわからないもののようだ。
「……『龍涎香』に似ていますが違います」
『龍涎香』とはクジラの体内に生成される香料だという。
バエちゃんにもらった本の内の一冊『珍奇な素材とその効力』を読み込んでるクララが知らないとなると、比較的最近になって発見された素材なのかもしれないな。
じーっと見ていたアトムが言う。
「鉱物ではありやせんぜ。おそらく生物由来のものでやす」
ふうむ、生物由来?
クララも頷く。
『龍涎香』に似ていると言うしな。
「確かに樹脂みたいな感じがする」
「考えても仕方ないね。ドワーフのオールドレディに聞くべきね」
「よし、明日アルアさんに聞こう。今日は寝ようか」
◇
――――――――――四六日目。
雨が上がったぞ、やったぜ!
たまに水が必要なことはわかっているけど、あたしのような元気美少女にとっては退屈だからな。
雨でも遊べる転送先がいくつか欲しい。
精霊カカシの指導の下にステータスアップ薬草の株分けをする。
これで最初の四倍の株数になった勘定だ。
「これだけ株数があれば十分だろう。六日後にはまた株分けできるが、その分は数日かけて食べればいいと思うぜ」
「わかった、ありがとう! カカシはやるねえ!」
「照れるぜ、ユーちゃん」
毎日少しずつステータスアップ薬草をいただいて、無限ステータスアップモードに入る予定だ。
マジで薬草栽培パワーアップができるかと思うと、感慨深いものがあるな。
おそらく世界で誰もやってないことだろうから。
「ボス、おニューの転送魔法陣のデスティネイションをチェックすべきね」
「そーだった」
昨日雨の中拾ってきた『地図の石板』がある。
行先はチェックしとくか。
東の区画、一二個目の転送魔法陣の上に立つ。
魔法陣から立ち上る赤い光、フイィィーンという小さくやや高い音。
頭の中に事務的な声が響く。
『魔境トレーニングに転送いたします。よろしいですか?』
ヤバそうなのキター!
「魔境ってばあの魔境? 高レベルのモンスターがたくさんいるという?」
『その魔境です』
「えーと、しり込みします」
腰も引けるわ。
どーして素人冒険者が魔境?
ってよく考えたら、あたし達レベル上は上級冒険者なんだった。
「おーい、皆。今度の転送先魔境だって!」
「「「魔境!」」」
魔境。
一般にはドーラ大陸の中央にある、岩壁に囲まれた台地のことを指す。
あたしも魔境に詳しいわけじゃないが、ドラゴンやら巨人やら、最強クラスの魔物がわんさか溢れているとゆー認識だ。
冒険大好きなはずのアトムが深刻そうに言う。
「魔境かあ、来るとこまで来やしたな」
「うん、ただ転送先の名前は魔境トレーニングなんだよ」
「トレーニング?」
「でも魔法陣は、高レベルのモンスターがたくさんいる魔境だって言ってた」
『魔境』はともかく、『トレーニング』ってのはどーゆーことだろ?
どうやらギルドは、上級冒険者レベルなら魔境オーケーと考えているらしい?
クララが立ち上がる。
「ユー様、行きましょう。私達は常に前進してきたんですから」
「おークララ男前!」
「その通りだぜ!」
「ザッツライト、オールライト!」
クララはニッコリ笑ってこう続けた。
「でも魔境行きの前にアルアさんの意見を伺いましょう」
パワーカード工房へは行く予定だったのだ。
人生経験の長いアルアさんなら魔境のこともかなり知ってるだろうしな。
うーん、さすクラ!




