第167話:自己紹介しとこうか
「ところで女子トークになっちゃってるけど、ジンとハオラン大人し過ぎない?」
「いえ、あの、初対面ですし、皆さんすごい実績を挙げていらっしゃるので……」
「気後れする」
ジンの言い分はわかるけど、ハオランのふてぶてしい『気後れする』はあたしツボだなあ。
しかしジンとハオランこそ今日初対面なんだから、どんな人だか知りたいんだけどな。
「すごい実績って言っても……」
「一番長いユーラシアでも、冒険者稼業はまだ二ヶ月くらいじゃなかったか?」
「一ヶ月半だね」
ジンが驚愕する。
「一ヶ月半? ユーラシアさん上級冒険者ですよね?」
「よく知ってるね。レベル三〇以上っていう定義なら上級って言えるけど、でもまだ駆け出しだよ? 言われるほど経験積んでない」
「ユーラシアはずうずうしいのに、おかしなところで謙虚だな」
「ずうずうしいとかゆーな。しっかり奢らせるぞ?」
レイカが笑うが、レベルは経験値ドーピングの結果だから事実なのだ。
レベルが高いほどやれることが多いというのは常に思ってることで、持論を否定する気はない。
でも上級冒険者って胸を張れるほどでもないってのは、その通りなんだってばよ。
誰だ、張れるほど胸がないなんて言ってるやつは。
「皆で自己紹介しとこうか。エルやレイカもよく知らないことあるし」
「じゃあボクから……」
「何で謎経歴の大トリが最初からしゃしゃり出ようとするんだよ! エルは最後!」
「そ、そうかい?」
満更でもなさそうなエルと、謎経歴に興味を持ったらしいレイカ。
異世界人であることに関して、エル自身は秘密にすべきことと考えていないようだ。
ただデス爺が向こうの世界の許可なくこっちに召喚したみたいだから、エルを取り返せっていう気運が向こうの世界で高まってもおかしくはないと思う。
大っぴらにすべきではないけど、レイカパーティーにはエルの謎を共有してもらってもいいだろう。
「前座のジンからどーぞ」
「ぜ、前座。はい。レイノス出身のジンです。実家は商売をやっております」
「しめた!」
「どうしたユーラシア?」
「カラーズの各村同士が交易を始めたの。すぐにレイノスと商売したいって話が出てくると思うんだ。でもレイノス商人関係で下っ端の知り合いがいなくてさ。無茶振りするかもしれないけどよろしく」
「下っ端……無茶振りって。実家は紙屋ですよ?」
「何屋であっても、商売上の繋がりはあるだろーが」
「いや、まあ、はい。僕にできることでしたら」
よおし、ジンいい子!
レイノスに一つ伝手ができたぞ!
いつか役に立ってくれるといいな。
「ジンはどうして冒険者に?」
エルの真っ当な質問に笑って答える。
「素材やアイテムの目利き、ある程度の武芸と腕っ節、知らない世界の見聞、人脈を広げること。いずれも僕の人生に必要だと思ったからですよ。もっとも実家には理解されず、ほぼ無一文で飛び出してきましたけど。多分、音を上げてすぐ戻ると思われてます」
「音じゃなくて腕と名を上げて実家と和解しなよ。レアアイテムでも土産にさ」
エルとレイカの目がキラキラしている。
ユーラシアが粋だなんて思ってるのかもしれないけど、別に格好いいこと言いたかったんじゃないから。
せっかく繋がったレイノス商家との細い糸を切りたくないだけだから!
「次、ハオラン」
ハオランがのっそりと立ち上がり、訥々と話し始める。
「塔の村とカトマスの中間辺りにある自由開拓民集落の出身。生まれは……カラーズ黄の民の村」
「黄の民っぽいなとは思ってたわ。フェイさん知ってる? 今、族長代理やってるんだ」
ハオランが少しニコッとした。
「フェイの兄貴には、小さい頃よく遊んでもらった。黄の民の村は貧しかったから、転機を求めて開拓民になった、と親には聞いてる」
実際には他の理由もあったのかもしれないが、根掘り葉掘り聞くことじゃないしな。
「どうして冒険者に?」
「食っていくのが大変だった。塔の村が成功すれば、街道沿いのオレの村にも恩恵があるかもと思った」
うむ、しっかりした理由だ。
今後塔の村の発展に伴って、西域街道の物流は活発になるに違いにない。
街道沿いの自由開拓民集落にとっても、ドーラ全体にとってもいいことだろう。
「レイカはこのジンとハオランを、別々にスカウトしたの?」
「いや、つるんでたぞ」
「へー、性格真逆な二人がどうしてつるんでたか、気になるな」
ジンが軽く手を振る。
「いや、大したことじゃないんです。僕はレイノスを一人で出てきたんですよ。西域街道の果てまで来るのに、さすがに木刀一本連れもなしでは心細くてですね。どうしたものかと思案してたところでハオランと出会って。朴訥さが信じられると思ったんです」
「白魔法使いは貴重だ」
「何となくジンが記憶に残らなさそーで良さげなことを言ったと思ったら、ハオランは実利重視だな」
「記憶に残らなさそうで良さげなことって」
まんまだとゆーのに。
対照的な二人の意見が笑える。
「ハオランがこんなに喋るの聞いたのは初めてです」
「女の子多いと軽口になっちゃう?」
ハオランが仏頂面になる。
無口な子なんだな。
ただ何となく信じられそうというのは、あたしもわかる気がする。
「いい子達を見つけられてよかったねえ」
レイカが照れ臭そうに笑う。
「次あたし、ユーラシアでーす。『アトラスの冒険者』で、レイカとは先のアルハーン平原の魔物掃討作戦をともに戦った戦友なのだ」
「精霊使いユーラシアの名はレイノスで聞きました。ユーラシアさんの活躍は、僕が家を出た直接の原因かもしれません」
おおう?
自分の行動には自分で理由付けしなよ。
「で、ひょっとしてなんですけど、『精霊様騒動』って……」
「うわー!」
あたしは頭を抱える。
こんな西の果てでそれを聞くとは!
「「何だ? どうした?」」
「うちの白い精霊クララとレイノスに買い物に行った時、亜人だって絡まれたんだよ。実に面白くないじゃん? 精霊様に失礼だろレイノス吹き飛ばすぞって脅してパニックになったあと、無害で奇麗な魔法を見せて精霊様のお慈悲じゃー皆の者祈れーって煽ってきた」
「メチャクチャやってるな」
「激しく同意」
レイカとエルが呆れた目で、デンジャラス精霊コケシが尊敬の目で見てくる。
いや、ジンに確認しておかねば。




