第1656話:スキルがわかる
「ふあああああああああっ!」
何じゃ?
ドレッセル子爵家邸の応接間でお茶をいただいていたら、背後から謎の叫び声が。
振り向くと明るめグレーのやや地味なドレスに身を包んだ、小柄な女の子がいる。
これが今日の主役ビアンカちゃんか。
じゃあせめてあたしはヒロイン役をなんちゃって。
艶のある紫はあまり見ない髪色だな。
エルの髪色を濃くしたような感じだ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「ど、どうも御機嫌よう」
何をオドオドしてるんだろうな? この子は。
ウルピウス殿下の話からは、花も恥じらう淑女が登場するのかと思ってた。
随分と印象のかけ離れた子が出てきたぞ?
ルーネが嬉しそうに話しかける。
「ビアンカ様、この方どなただと思います? ドーラの冒険者ユーラシアさんですよ」
「えっ、ヤマタノオロチ退治で有名な? どうしましょう!」
どうもせんでいい。
ワタワタすんな。
でもこの子何に驚いて声を上げたんだろ?
あたしとヴィルを見ているが、あたしが来るということを知らなかったみたいだし。
視線からすると、必ずしもヴィルが高位魔族と気付いたわけでもなさそう。
……どうやらレアな固有能力持ちと思われる。
何かを感じ取ったのかな?
「あんたがビアンカちゃんだね?」
「ふあああああああああっ! 喋った!」
「喋るわ! ってかさっき挨拶したろーが」
反応は一〇〇%素だ。
あんまり貴族の令嬢らしくない、変わった子だなー。
でもウルピウス殿下が気にする理由もわかる。
とゆーか気にしたくなる子なのだ。
「で、ビアンカちゃんがあたしを見て驚いたのは何でなん?」
「えっ、いや、あの、ユーラシアさんを見て驚いたわけでは……」
「わかるとゆーのに。あたしとヴィルを等分に見てただろーが」
「見てたぬよ?」
ものすごい勢いで目を泳がすビアンカちゃん。
メッチャ愉快な個性だなあ。
見てるだけで飽きないわ。
面白い子と知り合えてよかった。
ウ殿下に感謝。
「え、ええーっと、それは内緒なのです!」
「ビアンカ様、ズルいじゃないですか!」
「まー言いたくなければ言わなくてもいいけど」
「ユーラシアさんはビアンカ様について、何がわかります?」
「お? ルーネもエンターテインメント的なフリというものがわかってきたね。偉い偉い」
「偉いぬ!」
「ありがとうございます!」
アハハ、ビアンカちゃんが置いてきぼりだわ。
さて、ビアンカちゃんを見てわかることか。
「ルーネと初めて会った時、ビアンカちゃんは叫び声上げてた?」
「いいえ。普通に挨拶を交わしましたよ」
「じゃあ極度の人見知りで、会ったことない人を見ただけで驚くっていう可能性は否定されるねえ」
「はい」
絶対にあたしに興味があるはずなのに、必死で目を逸らそうとするビアンカちゃん。
だからもうあんたが面白い子だというのはわかったとゆーのに。
「部屋の入口の結構距離のあるところから、あたしの後ろ姿見ただけでビックリしてたじゃん?」
「はい」
「ビアンカちゃんは何かの固有能力持ちだよ。結構レアなやつだと思う」
「「えっ?」」
ルーネはともかくビアンカちゃんが驚くのはどーしてだ?
自分で固有能力持ちだとわかってなかったってこと?
「見抜く系の固有能力を持っていて、あたしやヴィルを見たから驚いた、ってことだと思うんだ」
「ユーラシアさんを見て驚く……とすると『鑑定』ですか?」
「考え方はいいね。でもあの距離だと『鑑定』は効かないはずなんだ。『サーチャー』でレベルを見たことも考えられるけど、もっとレアな固有能力だと思う」
あたしがわかるのはそこまでだ。
ようやくビアンカちゃんと目が合ったな。
「この展開で種明かししないのは、エンターテインメント的になしだぞ?」
「なしだぬよ?」
「私は……人の持っているスキルが見えるんです」
「へー、結構な効果だな。見抜く系の固有能力はいいなあ」
「すごいじゃないですか!」
敵の手の内がある程度わかる有用な能力だ。
相手が人間だと裏をかかれる危険もあるが、魔物を相手にする冒険者ならばかなり使える。
「と、思うんですけど……」
「何で自信がなくなっちゃうのよ?」
「あまりスキルを持っている方っていらっしゃいませんでしょう? 自分が見ているものが真実なのか妄想なのか、判断する術がなくて……」
「聞いてみりゃいいじゃん。あなたのスキルは何てーのって」
「そ、そんな不躾なことはとても……」
「鑑定士に見てもらったこともないんだ?」
「ないです」
うん、まあ帝国人貴族の令嬢じゃ、相手がどんなスキル持ちかを知る固有能力持ってたとして、役に立てる機会がないかもな。
また薄々自分が固有能力持ちと気付いていても、わざわざ調べるまでもないと思ったかもしれない。
ルーネが言う。
「ビアンカさん、私が何のスキルを持っているか当ててみてくださいよ」
「『ウインドカッター』ですよね」
「正解です! では、ユーラシアさんはどんなスキルをお持ちなんですか?」
「見たことのないスキルをたくさんお持ちなので、ビックリしてしまって……」
「あたしやヴィルを見たらそう思うかもな」
「ユーラシアさんは『雑魚は往ね』『ロック&デス』『大魔道士の祝福』『ランニングショット』などなど、聞いたこともない強力なスキルを数多くお持ちのようです」
「うん、合ってるよ。自分の能力に自信持ちなさい」
ペペさん作の『ロック&デス』『大魔道士の祝福』は、その辺のスキル本に掲載されているスキルではない。
またあたし自身一度も使ったことなくて存在すら忘れてた『ランニングショット』の名が挙がるところを見ると、心を覗き見る類の能力でもない。
対象の持つスキルを把握できる能力で間違いないな。
「何という固有能力なんですか?」
「いや、わかんない。あたしも聞いたことない固有能力だわ」
ビアンカちゃんが嬉しそうに言う。
「でもよかったです。私の見ているものが幻ではないってことがわかって。ずっとずっと悩んでたんですよ」
「誰かに相談すればよかったじゃん」
「できませんってば。頭のおかしい子だと思われたら悲しいじゃないですか」
「頭のおかしい子じゃないとは一言も言ってないけれども」
「一言も言ってないんだぬ!」
「そんなあ!」
アハハと笑い合う。
あ、ヴィルがビアンカちゃんのとこ行った。




