第163話:レイカを救い出せ
「ふいー、今日も疲れたね」
今日は海の王国でたくさん御馳走になってしまったので、夜は軽くスープのみだ。
「姐御、『アトラスの冒険者』って少し変じゃないでやすか?」
「少しじゃないわ。目一杯変だわ。常識に外れとるわ」
「ユー様が言うならその通りですねえ」
「おいこらクララ。あたしを常識に外れた子扱いすんな」
皆で笑いながらスープをすする。
「シーのクイーンが、『地図の石板』がいつの間にかあったとセイしたのも、アンビリーバボーな話ね」
「うーん、海岸にもいつの間にか流れ着くみたいじゃん? むしろ誰かがくれる方が当たり前のよーな気もするけど」
異世界の未知の技術であちこちの人に持たせてある『地図の石板』が、ギルドで融通してるやつ以外にあるんだろ。
あんまそこ考えても仕方ないような気がする。
ちなみに女王にもらった石板でできた転送魔法陣の行き先は、やっぱ海の王国だった。
間違えようのない名前で大変よろしい。
「いつの間にか石板が存在していたのはあり得るとしても、『アトラスの冒険者』の知識が刷り込まれるのはわかりません」
「いや、あたしも初めて『地図の石板』を拾った時に、『アトラスの冒険者』って言葉が頭に流れ込んできたんだよね。全然知らない人が石板を手にしたケースで、注意喚起する機能なんじゃないかな」
クララが首をかしげる。
「ユー様、注意喚起なんてこと言ってましたっけ?」
「あの時は大波に襲われて溺れそーだったせいで、アナウンスあったこと忘れてたわ」
「あ、そうでしたか」
まあ『地図の石板』と『アトラスの冒険者』のわけわからなさは、今に限ったことじゃないしな。
とにかく今日も盛りだくさんの一日だった。
海の女王と青の族長セレシアさん。
二人の重要人物と知り合えたことも大きい。
「ボス、トゥモローはコブタ狩りしてから塔の村ね?」
「うん。コケシと一緒にエルを遊んでやらないと」
「姐御、可哀そうだと思いやすぜ」
「本当のコケシは真面目で思いやりがあるんです……」
いくらクララの言うことでも、信じられるわきゃないわ。
コケシは真正の嗜虐者に違いない。
◇
――――――――――四四日目。
「雑魚は往ねっ!」
朝から本の世界に来てコブタ狩りにいそしんでいた。
一〇トンを塔の村に届けるクエストのためだ。
「これで一〇体です」
「よーし、帰ろうか」
本の世界のマスターである金髪人形アリスに挨拶していこう。
アリスにも重要な情報もらったり世話になってるし、何かお礼をしたいんだけどな。
「アリスって何か欲しいものある?」
「何ですの急に」
「アリスは可愛いから、何かプレゼントしたいの」
おーおー照れて赤くなったぞ。
どういう仕組みで人形が赤くなるのか知らんけど。
「ええと、お気持ちだけで……」
「うーん、でもアリスは食べ物もらっても困っちゃうよねえ」
「食べ物は……そうですね」
案外難問だぞ?
最近うちのパーティーのお土産というと、お肉が定番になっちゃってるからな。
肉々しさが通用しないとなると……アリスには可愛い系の飾りが無難そうだ。
でもクラシカルなアリスの服装に合わせるってハードル高い。
実用重視であるあたしの得意分野じゃないんだよな。
「ごめんね。考えとくよ。じゃあまたね」
◇
フイィィーンシュパパパッ。
塔の村にやって来た。
デス爺の輝くハゲ頭はあそこか。
「じっちゃーん、コモさーん。約束通りお肉持ってきたよ! あれ?」
デス爺とコモさんが立ち話をしてるシチュエーションは、前回塔の村に来た時と一緒なのだが、今回は何やら深刻な様子?
どーした?
「何かあったの?」
「ユーラシアか。いいところに来た。実はレイカのパーティーが塔に入ったが帰ってこないのじゃ」
「へー、レイカはパーティー組んだんだ。いいじゃんいいじゃん」
ほぼ初心者の二人、剣士と拳士を仲間にしたのだという。
ただ二人とも固有能力持ちで、剣士は白魔法が使え、拳士はクリティカルを頻発できるのだそうな。
クリティカル頻発というと、アトムと同じ『獣性』持ちだろう。
「ここの塔は『永久鉱山』だからか不思議なところがあってな。まず入ったフロアにスライム等最弱クラスのモンスターがいる。この入り口フロアは自由に出入りできるんだが、上へ行くと五階ごとにしか脱出魔法陣がねえんだ」
「ほうほう」
連れていたのがビギナーなので、入口フロアで訓練を兼ねて戦っていると思っていたら、どうやら上に登って帰ってこないということらしい。
レイカも大概上昇志向だからな。
上昇志向って上の階を目指すって意味じゃないが。
「上の階の魔物は強いの?」
「入り口階に比べりゃ強いっちゃ強いが、レイカの実力なら問題ないくらいなんだ。ただ今日は足手まといがいるだろ?」
「レイカ自身も上階は初めてのはずじゃ。トラブルがあったのかもしれん」
「他の冒険者はいないんだ?」
「塔に入ったことのない者ばかりだな。塔から帰還した者も、一日に二度潜れるほどの実力は持っておらん」
二人とも憂慮の色が濃い。
「あたしが行って様子見てこようか?」
「……頼めるか? 依頼料は増えぬが」
追加依頼料なしと聞いてあたしは悩んだフリをする。
いや、冗談だからね?
あたしは塔のダンジョンを主戦場にする気はないけど、一度入ってみたいとは思っていた。
ちょうどいい機会なのだ。
「行ってくるよ。お肉お願い」
「うむ、任せたぞ」
バカでかい塔の内部へ、ここが入口フロアか。
スライムや大ネズミなど、確かに言われたように最弱クラスの魔物がいる。
ちっ、やはり残念ながら洞窟コウモリはいないわ。
もっとも『永久鉱山』であるここの入口階で、お肉こと洞窟コウモリが簡単に狩れるなら、レイカがオーバーワークになることもなかったろうしな。
上の階へ行くには、と。
ん? 『一階へ』と書かれた階段がある。
とすると今いるこのフロアは〇階扱いか。
脱出魔法陣が五階おきという関係上、便宜的に〇階スタートにしとくのがわかりやすいのかもな。
「我々のミッションはレイカのパーティーを発見し、五階の脱出魔法陣から脱出することにある。いいなっ!」
「はい!」「了解!」「ラジャー!」
しまった。
ノリがいつもと違ったから返答がバラバラだ。
「ま、いっか。行こうか」
「「「了解!」」」




