第162話:あの手この手
「ありがとう、じゃーねー」
「あっ、ちょっとお待ちになって!」
青の民の族長セレシアさんに呼び止められる。
何だろ?
買うもの買ったし、もう用はないんだけど。
「サービス分くらいは意見を聞かせてくださる?」
「おお、しっかりしてるね」
あたしの意見でいいなら。
交易が盛んになるのはあたしも望むところだしな。
協力できるところは協力してやりたい。
「世界を見ているユーラシアさんだからですよ。このカラーズ間交流売買を企画されただけでなく、あちこちで有益な意見を披露しているという噂は聞いてます」
「買い被りだよ。でもレイノスで店を出したいというなら、伝手以外にも足りないものがあるくらいはわかるよ」
「そ、それは?」
「店員の教育と店構えと目玉商品」
図星だ悔しい、涙が出ちゃう、だって女の子だもんみたいな顔すんな。
さっきから思うけど、商売人にしては表情豊か過ぎるぞ。
言い方変えると、この青の民の族長はあたし好みの性格の人だなあ。
玩具にしたろ。
「て、店員の教育は時間さえあればどうにかなりますけど、他は……」
「こっち来てみ?」
黄の店の前に連れていく。
「準備期間同じ、どっちの店が立派かわかるね?」
「くっ……」
黄は家具店でさほど売れているわけでもなさそうだが、店構えはダントツでナンバーワンだ。
黄の民の村行った時にわかってたけど、やっぱ木の扱いに慣れてるなあ。
パワーもあるから仕事も早いんだろ。
「食料品は露店でもいいけど、服はそーゆーわけにいかないでしょ? 特にセレシアさんはファッションに凝った女の子向けの服売りたいみたいだし。となると店構えもある程度格好つけないと、バランスが取れないと思うよ」
「じ、実はワタシも思っていたことですけれども。だから黄の民に勝てるくらいの店を作らないとダメだということ?」
あたしは首を振る。
「黄の民に勝てるくらいというか、青の民の服を売るのに相応しい店が欲しいね」
「一緒のことではないですか?」
「違うよ。黄の民は服売る上でのライバルじゃないじゃん。青の民だけで格好いい店を作れないなら、黄の民に作ってもらいなよ」
「えっ?」
カラーズ緩衝地帯で店を出そうというのは、単なるものの売買だけのためではなくてさ。
自分の得意不得意を自覚して、相手の得意分野を利用するようになってもらいたいのだ。
「レイノスで出店するんでも、向こうの大工に相談するより頻繁に打ち合わせできるし、ずっと安上がりになるかもしれないよ」
「確かに……」
「あたしのやりたいのはコラボや協業なんだよ。自分に足りないところは誰かに任せるの。皆で儲けられるよ」
「……」
「次行こうか」
黒の民の店に行く。
「どういうことですの! ワタシの店とはコンセプトが真逆ですのよ!」
こらこら、まるっきり売れてない店の前で騒ぎ立てんな。
「わかってるって。でもここの店の呪術グッズは本物なんだよ」
「本物、とは?」
「服飾店ならいずれアクセサリーも扱うでしょ? 例えば本当に確実に効果のある、幸運のアクセサリーなんてものがあったらどう思う?」
「詳しく!」
よし、食いついた。
ドクロの何かの飾りを売ってる黒の民の店員に聞く。
どーしてこいつらドクロが好きなんだろうな?
「運のパラメーターが五上がるペンダント、いくらで作れる?」
「意匠にもよるけど、まあ四〇〇ゴールドだな。コアだけなら二五〇でいいぞ」
「聞いた? こんなドクロで壊滅的にセンスがないから売れないけど、ここより安く呪術グッズ製作請けてくれるところなんかないよ。セレシアさんのデザインならレイノスで売れるんじゃない? 他の店には売ってないであろう、本当に効果のあるアクセサリーなんだから、確実に客寄せになるよ」
真剣に考え始めたな。
もう一押しか。
「ここの商品の品質は『アトラスの冒険者』のギルドも認めてて、すぐ売れるくらいに人気商品なんだ。ものがものだけに量産はできないから、話つけとくなら早めがいい」
「そ、そうね」
「はい、今日はここまで」
「えっ?」
呆然とするセレシアさん。
「だから商売人たろう者が、簡単に口車に乗せられちゃダメだってば」
「えっ? いや、だって……」
「あたしは本心でここの呪術グッズは売れると思うし、絶対に当てる腹案もあるよ。でもセレシアさんの店で当たるかはわかんない。どういう店にするか、家賃と人件費、客層、価格帯、盗難リスクその他もろもろ全部考えてから話し合いしないと。ちょっと冷静になるべきだわ」
「は、はい」
黒フードの店員に声をかける。
「例の沈黙無効・マジックポイント自動回復のやつ、すぐ売れたって武器・防具屋さん喜んでたよ」
「ああ、今追加分を作ってるところだ」
「これはピンクマンにもう一度確認してもらったほうがいいけど、基本八状態異常と即死を全て無効にするアイテムだったら三万ゴールドで引き取ってもいいって言ってたぞ。やる気出る?」
「マジか!」
黒フードの目に生気が宿る。
いや、フードが邪魔でよくわからんけど何となく。
「効果の安定性をすっごく評価されてたから、品質は注意ね。あとここにいる青の民セレシア族長から依頼が行くかもしれない。その時は相談に乗ってあげてよ」
黒フードが顔を上げる。
「どこの別嬪さんかと思ったら、青の族長だったのか。まあ精霊使いの紹介では無下にもできないな」
「ありがとう、じゃーねー。またよろしく」
青の店に戻る。
「どう? 少しは参考になったかな?」
「ええ、それはもう、もちろん」
「サービス分くらいは働いたから帰るね」
「あ、あの、どうしてここまで一生懸命やってくれるの?」
ふむ、疑問か。
「今のレイノス一強のドーラをどう思う?」
「えっ?」
思いもよらぬ質問だったか、言葉が出ないセレシアさん。
「カラーズは古い入植地だから、各部族はそれぞれいろんな技術を持ってるでしょ? なのに各部族が協力し合うこともなく、せっかくの技術を生かさないのってもったいないじゃん。ひいてはドーラ全体の発展の足を引っ張ってる。もうちょっと頑張れると思うんだよね」
ドーラ全体の地力の底上げが必要なんじゃないかってことだ。
こちらを見つめたままのセレシアさんに最後の言葉をかける。
「あたしは前に進むのが好きなんだ。セレシアさんも好きでしょ?」




