第160話:海の女王と『アトラスの冒険者』
「ほう、亜人差別。今レイノスはそんなおかしなことになっておるのか」
海の一族の城で食事をいただきながら話をする。
女王は外の話は何でも興味を持って聞いてくれるのだ。
自分が話し上手になったみたいで気分がいい。
「亜人以外でも、同じ町に住む住民同士が差別したりされたりしてるんだよね。別に功績があったとか身分が高い貴族とかいうんでもないから、かなり嫌な雰囲気になってるの」
「ふむふむ」
「で、うちのクララがバカにされてあったまに来たからさあ……」
精霊様騒動について語り聞かせる。
これ地上で話すとあんた何やってんだ、事件起こすんじゃねえよって言われるから、あんまり言いたくないのだ。
ノーマル人社会とほとんど関わりがないだろう女王になら構わんだろ。
「あはは、ユーラシアは面白いの。しかしその『精霊のヴェール』なる魔法には興味がある。わらわも長いこと生きておるが、精霊専用の魔法とはついぞ見たことがないのじゃ。見せてもらうわけにはいかんかのう?」
思わぬところに食いつかれたぞ?
上を見上げる。
この城天井が高いからイケそうだが?
「クララ、どう?」
「大丈夫だと思います」
「ではクララ先生いっちゃってください。美しき精霊専用白魔法を御覧あれ!」
クララが『精霊のヴェール』を唱える。
ビロードのような光のひだと虹に似たグラデーションが映し出された。
「おお、これは美しいの……」
「何分間かはこのままだよ」
女王が感嘆の声を上げ、宙を見つめている。
本当は青空だともっとずっと映えるのだが、海底では望むべくもないので黙っておく。
「素晴らしいものを見せてもらったぞよ。確かに本来の効果も強力なのだろうが、美しさを利用するのも大した機転じゃの」
「いやいや、大したことあるよ。じまーん!」
「礼をしたいのじゃが」
「お礼されるほどのことはしてないな。そうだ、昔のことを話してくれる?」
「む? 何が聞きたいのじゃ?」
年齢からくる経験のせいかあるいは魚人のゆえか。
あたしには読み取れない表情を向ける女王。
「ヒバリさんと女王との間に結ばれた協定を、正確に教えて欲しいな。今、漠然とレイノスだけは船が入っていいって言われてるんだけど」
「ヒバリか、懐かしいの」
女王は遠くを見るような目になる。
本に書いてあることが絶対正しいとは言えないから。
女王の言質を取っとけば問題ないだろ。
「昔はドーラ近海は我らの領域での。何者をも近付けさせなかったのじゃ」
「うんうん、聞いたことある」
ドーラが暗黒大陸と言われていた時代だな。
「一二〇年ほど前じゃったか。海の一族間の王位継承のゴタゴタで支配力が弱まった時、ノーマル人の船がドーラ大陸に辿り着き、今のレイノス辺りを植民地にしたのじゃ」
クララが目をキラキラさせて聞いている。
やっぱり本に書いてあることより、当事者の語る事実の方が生き生きしてるんだろうな。
「わらわの王権も確立されておらず、敵対勢力もまた強かった。そこでヒバリの知恵と力を借りての。わらわは海の一族の間に覇を唱えることに成功した。その時ヒバリに礼として財宝を渡そうとしたのじゃが、やつは笑って受け取らず、レイノスと何とかいうノーマル人の帝国との間に船が自由に行き来できることを望んだ」
先を見据えていたヒバリさんすごい。
ドーラの発展のためレイノスからの航路を確保したとゆーより、ドーラの発展自体がヒバリさんの楽しみだったんじゃないかな。
何となくそんな気がする。
「条件としては、外海からレイノス港へ海岸のラインに対して大体垂直に入るならオーケーじゃ。ただ我らにとっても現在、敵対勢力がないわけではなくての。警戒を解くことはできぬ。我らの支配領域に入った者は、パトロール隊によって問答無用で攻撃されるぞよ。パトロール隊は頭が弱くて融通が利かぬ。今日迎えに遣った近衛兵のように話が通じぬ。わらわにも事後報告しかなされぬゆえ、取りなしてやることすらできぬのじゃ。衝突せぬよう気をつけるのじゃぞ」
「おおう、そんなシステムだったとは。わかった、ありがとう。岸から魚取るくらいはいいのかな?」
「陸に足がついているのなら構わんぞ。引き潮で水がなくなるところは陸扱いじゃから、その範囲なら水に入って遊ぼうが舟を浮かべようが自由じゃ」
「厳密に決まってたことにビックリだよ。聞かなきゃ全然わかんないことだった」
女王が笑みを浮かべたように見える。
「互いの理解は必要じゃの」
「ヒバリさんって、どんな人だった?」
「ふむ、おんしに似とるわ」
女王は嬉しそうだ。
「わらわにはノーマル人の顔形はよう区別がつかん。じゃから顔が似てるという意味ではないのだが、無遠慮というか隔意がないというか。懐にフッと入ってくるようなやつではあったよ」
あんまり褒められてる気がしねえ。
「もっともヒバリは精霊連れではなかったの。ドワーフとエルフ、獣人を連れておった。パワーカードとかいう、変わった装備を使っとったぞ」
「ヒバリさんって、パワーカードの使い手だったんだ?」
女王にあたしのカードを見せる。
「おお、おんしもか!」
「いや、精霊は普通の武器や防具を装備できないから、必然的にこうなるんだよ。ヒバリさんはどうしてパワーカード使ってたんだろうな?」
「面白がっとったぞ? ヒバリのパーティーのドワーフの先生筋がパワーカードを生み出したんじゃったかな? 細部が事実と異なるやもしれぬが、大体そんな話じゃった」
思わぬ情報キター!
ヒバリさんを知ったことも収穫だが、パワーカード黎明期の使い手だったとは。
「今、パワーカードを使ってる冒険者あまりいなくてさ。ルーツとかも知らなかったんだ。今日ここに来てよかったよ」
「おお、そう思うてくれるか」
「これから顔出しとかなきゃいけないところがあるから、今日は帰るね。今度来るときはどうしたらいいかな?」
女王は難しそうな顔をした、多分。
「こちらに侵入した者を一方的に排除している以上、こちらの者をしばしば地上に派遣するのは諍いの元であろうしの。どうしたものか。せめておんしが『アトラスの冒険者』であったなら……」
驚いた。
どーしてここで『アトラスの冒険者』が出てくる?
女王も『アトラスの冒険者』の関係者なのか?
『アトラスの冒険者』の謎の部分です。




