第158話:魚人戦士
――――――――――四三日目。
朝から海にやって来た。
今日はカラーズ緩衝地帯で各色の村が出店し、交流を開始する歴史的な日だからね。
ぜひ見物に行かないといけないので、やることは早めにやっちゃわないと。
素材回収のあと、メインイベントである改良型最強魔法『デトネートストライク』の試し撃ちだ。
どーしてそのままでも威力が強過ぎて使えない魔法を、さらに効率を良くしてデンジャラスにしようと思うのか。
発想がクレイジー極まりないけど、ペペさんのやることだから。
ペペさんの説明によると、二割方パワーアップしているらしいとのことだ。
おまけに以前試し撃ちした時に比べてかなりレベルも上がってるから……。
ダンテよ。
わかってると思うけど、間違っても海に当てるんじゃないぞ?
「はーい皆さんご注目。笑いあり涙あり津波あり、ダンテ君の人生背負った一発芸の時間がやってまいりました。準備はよろしいですね?」
今日は最初から敏捷性強化効果のあるパワーカードは起動済み。
さらにクララはすぐに『ヒール』をかけられる準備をしている。
「カウントダウン開始! 五! 四! 三! 二! 一! ファイアーッ!」
「イエス、ボス!」
魔力が凝縮される。
以前試し撃ちした時よりも明らかに大きい魔力塊!
これはレベル上昇に伴い魔法力のパラメーターが上がっているからだろう。
一瞬後にはダンテの制御下を離れ、前方上方に放たれる。
白い光が炸裂し、海面が凹状にたわむ。
「ヒール!」
「これなら津波は起きないだろうけど、一応高いところまで逃げるよ!」
「「「了解!」」」
ゴワババババババーーーーーーンンンンン!
数瞬遅れた音と衝撃に背中を押されながら、小走りで防砂林まで駆ける。
「そこな者、しばし待たれい!」
後ろから声をかけられる。
誰だ?
えっ、後ろは海じゃん。
どういうことだってばよ?
とゆーのはともかく……。
「危ないから待たない! あんたがこっち来て!」
チラッと後ろを見ると、槍を持った戦士らしい男がいる。
どこから出てきたんだよ。
初めてのどっかんの時みたいに海に直撃させてないからマシとはいえ、結構な大波は来るはずだぞ?
油断してると死ぬぞ?
「ぜひもなし。しからば!」
ぜひもくそもあるか。
男もこちらへ走ってくる。
最初からそーしなよ。
よーし、余裕で逃げ切った。
防砂林から海を見渡す。
波は荒いけど、海面に直撃させなければ問題ないな。
所見を得られたのは収穫だ。
「今回はよかったね。大した波もなかったし。威力も測れたし」
「ユー様。私の飛行魔法で逃げる手もあったのでは?」
「もう咄嗟に飛行魔法を発動させられる?」
「はい」
「クララは練習熱心だな。次は当てにしてるからね」
「トゥデイはナイスデイね」
「グッデイナイスデイ。さて帰ろうか」
「いやいやいやいや、それがしの話を聞いてくだされ!」
どこからか現れた謎戦士のことを忘れてた。
ぎょぎょぎょっ!
戦士なのは間違いないが、暗青色の肌によく見ると鱗がびっしり。
魚人だ。
ということは海の一族か?
「えーと、あたし達に何か用かな?」
「何かではござらん。一ヶ月ほど前に、今の魔法を海に撃ち込んだであろう!」
「ごめんなさい」
確かにあたし達です。
申し訳ありません。
申し開きもできません。
「迷惑かけちゃってたらごめんね。あたし達も今の魔法は海岸でしか試し撃ちできないんだ。この前は海面に当たっちゃって、大変なことになったのは謝るよ」
「我ら海の一族に対する敵対行為ではないのですな?」
「違う違う! 今日の見たでしょ? 海になんか撃ち込んでないから」
「ふむ、いかにも」
「この前は津波が起きちゃってさ。お魚が一杯取れました。海の恵みに感謝しまーす」
魚人兵士はにこやかな顔になる。
「我らが首脳部の見解も偶発的な事故であろう、とのことであった。ならばそれがしとともに海底に招かれて下さらんか」
「何で『ならば』なんだかがよくわからないんだけど」
「女王陛下が貴公らに興味を持っておるのだ」
「そーゆーことだったか。いいよ」
「えっ!」「くわ?」「ワッツ?」
うちの子達が口々に言う。
今日はカラーズの交易開始の日だ。
緩衝地帯も見に行く予定ではあったけど。
「ユー様、何が待ち受けているかわかりませんよ?」
「やつらの魂胆が知れねえ」
「ベリーデンジャーね」
「危険を心配してたのか。まあまあ、あたし達にはいざとなればこれがあるし」
転移の玉を見せる。
もっともあたしは、海の王国があたし達をどうにかしようと考えてるなんて思っていない。
そんなことするくらいなら、航路で嫌がらせするだろ。
どうせ女王が暇を持て余したかなんかで、あたし達を呼ぼうとしているに違いない。
「あたしは海の一族の国を見るの。昔から夢だったんだー」
「ユー様がそんなこと言うの、初めて聞きましたけど」
「うん、あたしも初めて言ったわ。クララは記憶力がいいね。よしよし」
「えへへー」
「おいクララ、煙に巻かれてんぞ」
こらダンテ、処置なしみたいなポーズ取るな。
「じゃあよろしく。でもあたし達泳げないんだ。海底にはどうやって行ったらいいのかな?」
「少々お待ちくだされ。クジラ船を呼んでまいりますゆえ」
「クジラ船?」
どうやら海の王国へ行ける乗り物があるらしい。
魚人兵士がいなくなったところでクララに聞く。
「『海の王国史』は読んでる?」
「はい」
「よし、頼りにしてるよ」
『海の王国史』は以前、バエちゃんにもらった本の内の一冊で、他の本に比べると薄い小冊子的なものだ。
「一〇〇年と少し前に海の王国で代替わりに伴う内乱があり、その際にノーマル人率いる冒険者パーティーがウミウシの女王の難題を解決し、レイノス近辺を中立地帯とする協定が結ばれたといいます。当時の女王は人間に対して好意的で、現在でもまだ海の王国に君臨し続けているはずです」
クララの言うことは史実に近いだろう。
あたしもドーラ近海の事情をちょっとは知ってるけど、どこまでが史実でどこからが伝説かは知らないのだ。
「かつて海の王国は悪魔と争ったことがあります。ヴィルの紹介は慎重になった方がよろしいかと」
「わかった」
うちの幼女悪魔ヴィルはいい子だが、悪魔自体を嫌っていることもあり得る。
初対面から争いのタネは持ち込むべきじゃないしな。




