第1571話:VSトサ様
「ふん、トサ様は女子供でも容赦しねえぞ!」
「カラスはいくら鳴いても怖くないぞ?」
「威勢がいいのは今だけだ! 吠え面かくなよ!」
「今のセリフ、そっくりそのままお返しするよ」
トサ様は三流チンピラのセリフを正しく理解しているなあ。
観客も盛り上がる盛り上がる。
トサ様がタルガの辺境開拓民の主だってのは本当みたいだな。
マッチアップの相手がウルトラチャーミングビューティーだとゆーのに、声援が半々くらいだわ。
『訓練生』持ちスティーヴが恐々聞いてくる。
「だ、大丈夫なのかよ?」
「何が? あ、賭け事の良し悪し? タルガの法律は知らない」
「じゃなくてよ」
「誰が見てもわかりやすいように決着つけるから、勝敗は揉めないぞ?」
「話が通じねえ!」
何がどうだったろ?
ともかくレッツファイッ!
すかさず距離を取るトサ様。
開戦直後にいきなりあたしが何かを仕掛けると考えてたみたいだな。
「わかってるぜ。スピードで惑わせようってんだろ?」
「お酒に酔ってるっぽいのに考えてるね」
両腕を大きく広げてジワジワ近付いてくるトサ様。
これ顔面蹴り飛ばしたら簡単に勝負決まっちゃうじゃん。
「えーと、顔ががら空きですよ?」
「やってみろ」
ニヤッと笑うトサ様。
自信があるらしいけど、あたしが蹴ったら相当愉快な顔になっちゃうと思うぞ?
文句言われそうだな。
いや、逆にモテるようになるかも?
でも頭殴りました倒れましたじゃ、盛り上がるところがないじゃん。
大技じゃないと見てる人ガッカリだよなあ。
いかんいかん、これはつまんない勝ち方させてあたしのテンションを下げる罠に違いない。
そんな誘惑に負けたりはしないのだ。
「いくぞお!」
「来い! き、消えた?」
ダッシュしただけだってばよ。
素早くトサ様の後ろに回り込んで胴体をホールドする。
「バックを取ったくらいで勝ったつもりか? 片腹痛いわ!」
「舌噛むから喋らない! 頭防御して!」
「へ?」
持ち上げて真後ろへスープレーックス!
どおんという音がする。
もちろん手加減してるからね?
手を挙げてやじ馬達に挨拶!
「あいうぃーん!」
「「「「「「「「うおおおおおおお!」」」」」」」」
「「「「「「「「パチパチパチパチ!」」」」」」」」
よーし、ウケた!
大満足だ。
「ユーラシアさん!」
「御主人!」
「「「「「「「「素晴らしい!」」」」」」」」
「「「「「「「「尊い!」」」」」」」」
飛びついてきたルーネとヴィル。
どこ行ってもルーネが飛びついてくる展開は観客大喜びだな?
まあいいけれども。
「リフレッシュ! おいこら、トサ様起きろ!」
「はっ! おい、今トサ様どうしてた?」
「おねんねしてたぞ? 立ちなさい、一人称の面白い人」
よろよろと立ち上がるトサ様。
うーん、体内の魔力の流れに乱れがあるね。
いい機会だから試してみるか。
『ホワイトベーシック』を装備してと。
「キュア! どう? まだフラフラする?」
「い、いや。もう大丈夫だぜ。すまねえな」
「頑強なる辺境開拓民トサ様ふっかーつ! 皆、拍手!」
「「「「「「「「パチパチパチパチ!」」」」」」」」
軽く握手。
ふむ、頭打って魔力の乱れがあるケースは、あたしの『キュア』でも効くな。
覚えとこ。
「トサ様のおかげでちょっとしたイベントになったよ。ありがとうね」
「イベント? いや、ビックリしたぜ。あんたは一体何なんだ?」
「あたしはドーラの冒険者なんだ。間違えた、美少女冒険者なんだ」
「わざわざ言わなくても美少女なのはわかるぜ。しかし冒険者?」
「ドーラにはそーゆー商売があるんだよ。依頼を請けたり魔物倒したり、おいしいお肉を狩って食べたり魔境ツアー添乗員したりするの」
「え? 後ろの方わからねえ」
後ろの方はドーラ独自の事情だからかな。
帝国の辺境開拓民には想像しづらいのかも。
「あんたのレベルは冗談じゃねえんだな?」
「トサ様が見れば、あたしのレベルくらいわかるよねえ。冗談じゃないんだよ」
「スティーヴのレベルがえらく上がってるように感じたからな。てっきり昨日の酒が残ってるのかと思ったんだぜ」
あ、なるほど。
そーゆー理由で絡んできたのか。
『キュア』で二日酔いも抜けたかな?
ちょっとしゃっきりしてるわ。
「昼飯まだなんだろ? トサ様が御馳走してやるぜ」
「やたっ! ありがとう!」
◇
「……ってわけで、スイープのお頭は今、ガータンにいるんだ」
「スイープは色々世話焼いてくれるいい兄貴分でよ。くだらねえことでタルガを追い出されちまったから気になってたんだ」
「空の民のまとめ役として領主のヘルムート君に重宝されてるから、五年以内に市民権取得、一〇年もすると結構出世してると思うよ」
皆で昼食を取りながら、トサ様と話す。
タルガは魚料理がおいしいな。
カラシとトウガラシと何だろ?
スパイシーで変わった味付けだ。
「『アトラスの冒険者』か。面白えな」
「でもタルガも面白くなると思うよ」
「どういうことでえ?」
「帝国のドミティウス主席執政官閣下に、タルガと辺境開拓地の視察を行って欲しいって言われたんだ。ドーラの独立とラグランドの安定で外海の情勢が落ち着いたから、帝国は内海の方に力入れると思う」
「ええ? あんたドミティウス様と話できるのかよ」
「できるんだよ。ちなみにそこのルーネは閣下の娘、皇女様だぞ?」
「こ、これは失礼を……」
「いえいえ、こちらこそ昼食を御馳走していただいて、ありがとうございます」
恐縮してるトサ様に追い打ち。
「もしさっきのイベントで間違ってトサ様が勝ってルーネを拐かしたりしてたら、トサ様首ちょんぱだったわけだ」
「洒落にならねえ! 全く笑えねえ!」
アハハ、笑いごとだわ。
まー相手があたしだから、間違いなんて起きないわ。
「で、今度トサ様に会うにはどうしたらいいかな?」
「いつも大体タルガにいるぜ。言っちゃなんだがトサ様は目立つから、誰かに聞きゃわかる」
「今度タルガ以外の辺境開拓地の方も見たいんだ。付き合ってよ」
「さっきの視察って話か。もっとハンサムな男の方がいいんじゃなかったのかい?」
「今のトサ様はいい男だぞ?」
アハハと笑い合う。
「ごちそーさまっ! おいしかった! またいつかフラッと来るからね」
「おう、じゃあな」
「バイバイぬ!」
「マーク君もじゃあね」
転移の玉を起動して帰宅する。




