第157話:にっくにくにしてやんよ
「にっくにっくにし~てやんよ~だからちょおっと~うぇるだん~して~あげて」
バエちゃんがよくわからない詩を吟じるのはゴキゲンのサインだ。
ヴィルがバエちゃんに引っついてるのがその証拠。
お肉がジュウジュウいい感じに焼けてくる。
「これ、すごく薄切りなのね」
「歯ごたえがあってお肉自体の味が濃いからね。焼き肉なら薄切りがベストだって、現地の人が言ってた。でも煮込んでもすごく美味いよ」
お肉でここまで切り方に拘るのは初めてだな。
でもよりおいしい食べ方がいいから。
「あっ、ヴィル。アトムがいい気分かもしれないけど、側に寄るのはやめなさい。また酔っ払っちゃうよ。クララの近くにいなさい」
「はいだぬ!」
よしよし、ヴィルいい子。
バエちゃんが岩塩を振ったコッカー肉にかぷりと噛みつく。
「ああ、ほんとだ。ワイルドだけど臭みがない。甘塩が優しいわ」
「でしょ? でもこれ、向こうの人の御馳走でもあるからなー。あんまり獲ってこられないんだよね。コブタ肉はまた持ってくるよ」
「ありがとう。タレ付きだとコブタ肉もすごくおいしいわよ」
うむ、コブタ肉は万能。
脂の乗りが素敵でどう食べても美味いけど、焼き肉のタレとの相性が実にいい。
あっちではクララがヴィルとぎゅーしてる。
微笑ましいのう。
……一応言っておくか。
「『アトラスの冒険者』じゃないんだけどさ。あたしの他にもう一人精霊使いがいるんだよ」
バエちゃんが目を真ん丸くする。
「『精霊使い』の固有能力って超レアだって話だけど」
「らしいね。クエストで行った先で会ったんだ。面白い子だった。また会えるといいな」
精霊使いエルはバエちゃんと同じ世界の住人だ。
話をぼかしておく。
わざわざ話題を出したのは、バエちゃんに聞きたいことがあったから。
「バエちゃんとこの世界には精霊使いいないの?」
「わかんない。精霊も向こうでは見たことないし」
「そうなんだ? こっちでもそんじょそこらに精霊が生えてるわけじゃないしな」
「アハハ、生えてるだって」
少なくともエルが、向こうの世界で『精霊使い』の固有能力持ちとしてよく知られた存在だった、というセンはないようだ。
そしてエルを探しているということも今のところないみたいだな。
必要な情報は得られた。
これ以上突っ込むのは、今日はやめておこう。
ナチュラルに矛先を変える。
「昨日ギルドでフルステータスパネルだっけ? あれ使う機会があったんだけどさ。あたしの固有能力四つになってたんだよ」
「え? ユーちゃん三つ能力持ちだったよね。『精霊使い』と『発気術』と、状態異常抵抗のだったっけ?」
「そうそう、『自然抵抗』。理由はわからんけど『ゴールデンラッキー』っていうのが増えてた」
「固有能力の増減は稀にあるそうよ。ユーちゃんなら納得だわ」
「そお?」
何がどう納得なんだか、あたし自身がわからんのだが。
固有能力があたしの魅力に抗しきれずに寄ってくるってことか?
「『ゴールデンラッキー』って、すごく運がいいっていうのだったよね?」
「らしいね。いや、運のパラメーターが他人より高いってのは、ギルドカード見て知ってたんだ。でもそーゆー固有能力があるのは知らなかった」
バエちゃんが納得したように首を縦に振る。
「でもユーちゃんにピッタリだと思うの」
「レベルアップで変なレアスキル覚えるの、運がいいせいかもしれないんだ。皆結構使えるから嬉しいな」
バエちゃんがニコニコしてる。
「ごちそーさま。アトムとダンテの固有能力調べさせてくれる?」
「いいわよ。ついでにヴィルちゃんのも見る?」
「ヴィルの? あっ、面白そう!」
「じゃあこっちへ」
戦闘メンバーじゃないヴィルの固有能力を調べる発想はなかったな。
言われてみりゃ一番気になるからヴィルはトリだ。
まずアトムが青っぽい魔道のパネルに手を当てる。
すぐにたくさんの文字が浮かんできた。
「固有能力を知りたいんだっけ? 『土魔法』『魔力操作』『獣性』の三つよ」
「『魔力操作』は覚えるスキルから多分そうだろうって、クララが言ってたんだけど、具体的にはどんなん?」
「自分のマジックポイントを他者に分け与えることができる、だって」
「へー。『獣性』ってのは?」
「ええと、会心攻撃が出る可能性が高い」
「えっ?」
マジかよ。
アトムの主力攻撃は『薙ぎ払い』と『マジックボム』だよ。
クリティカル出ないやつじゃん。
「アトム、ごめんよ。とっとと固有能力調べとくべきだったね」
「姐御、いいってことよ」
「おお、男前だね」
アトムにはクリティカルありのバトルスキルを覚えさせておくのがいいな。
例えば『薙ぎ払い』よりも『五月雨連撃』とか。
マジックポイント自動回復のカードとセットで考えておこう。
「次、ダンテ君ね。パネルに掌合わせてくれる?」
「イエス、レディー」
こら、バエちゃん。
レディー言われたくらいでクネクネすんな。
「固有能力は『火魔法』『氷魔法』『雷魔法』『陽炎』の四つね。ダンテ君って、魔法を三系統も使えるんだ?」
「珍しいでしょ。『陽炎』ってどんな固有能力だろ?」
「狙われ率が低い、だそうよ」
言われてみると、ダンテってほとんど魔物の攻撃対象にならないな。
最後衛のせいだけじゃなかったんだ。
「ふーん、ためになる」
「真面目な顔してるとユーちゃんじゃないみたい」
「何を言ってるんだ君は。ちょっとあたしのインテリジェンスがこぼれてしまったからって」
「あはははははははは!」
笑い過ぎだろ。
「最後ヴィルちゃんね。ここぺたっと触ってくれる?」
「わかったぬ!」
パネルに文字が浮かんでくる。
どらどら?
「固有能力は『闇魔法』『マジックポイント自動回復四%』『いい子』の三つね」
「『いい子』? 何だそれ?」
謎能力来たぞ?
いや、ヴィルがいい子なのは紛れもない事実だけれども。
バエちゃんが詳細について教えてくれる。
「褒めたり頭撫でたりぎゅーしたりすると、パワーアップしたり状態異常から回復したりヒットポイントが回復したりする超レア能力、だって」
「冗談じゃなくてマジなんだ?」
「みたいねえ……」
まあいいや。
ヴィルはいい子であることが能力的にも証明されただけだ。
「バエちゃん、ありがとう。今日は帰るよ」
「うん、またね」
転移の玉を起動して帰宅する。
『いい子』。
実にヴィルらしい固有能力です。




