第156話:再びコッカーを狩りに
フイィィーンシュパパパッ。
「あっ、精霊使いさん」
うちの子達とコッカーを狩りにカル帝国・山の集落へ来た。
最初会った時に砂蜘蛛に襲われてた女性に出くわす。
「こんにちはー。今日はあんまり風が吹いてないねえ」
「穏やかな日ですよね。ところで精霊使いさんはどうされたんです?」
「コッカーのお肉を食べさせたい人がいてね。ちょっと狩りに来たの」
この前魔物狩りしたところがどうなってるか、様子を見たかったこともあるんだけどね。
でも人少ないな?
「今は南の盆地を整地してる人が多いですよ」
「困ってることないかな? あたしも見てくるね」
もう来年の耕作に備えて、手を入れ始めているんだな。
南の盆地へ。
「長老、こんにちはー」
「おお、お客人。ようこそ」
相変わらずどこから髪の毛でどこからヒゲだかわからんスタイルの長老が、高台の上から進捗状況を眺めている。
「魔物の討ち漏らしはいなかったかな?」
「なかったですぞ」
「よかった。それが一番心配でさあ」
「さようだったか。気にかけていただいて嬉しいですな」
長老の言葉が弾んでいるように聞こえる。
この土地に希望を見たからだろう。
「土地を均してるんだよね?」
「うむ。まず畑の面積を確保しないと話にならぬでな。これだけの広さがあれば、時間をかけて色々できそうではあるがの」
「うんうん、順調かな?」
「順調であるし、そうでないとも言える。大きめの灌木に苦戦しておっての。横にぐわっと広がっておるので根まで辿り着かんのじゃ」
切り株だけにすれば枯らして抜ける。
でも低い位置で周囲に張り出してるのでなかなか難しいらしい。
風が強い地域ではこういう生態の木が多いですとクララが言う。
「なるほど、ちょっと手伝ってくるよ」
「ボス、レインが近いね。二時間くらい」
雨が降るのか。
急がねば。
「手伝いに来たよー」
「おお、精霊使いさんか」
なるほど、幹まで全然届かないような木がいくつかある。
長柄の刃物に所持規制があるんじゃどうにもならんわ。
ちょっとずつ枝切ってくんじゃ時間がかかり過ぎる。
「クララ、下の隙間から『ウインドカッター』で幹を直接狙えないかな?」
「やってみます」
クララの風魔法が幹を切断、バサッと木の上部が転がる。
うむ、見事。
「客人、ありがとうよ」
苦戦してた木が次々と切り倒され、村人達が感嘆の声を上げる。
「ん? どうしたんだろ?」
何人か集まってる人がいるが?
「邪魔な大岩があって運べないんですよね」
黄の民の眼帯男よりも少し大きめの岩だ。
割って細かくすれば運べそうだ。
アトムが名乗りを上げる。
「あっしに任せておくんなせえ」
「うん、じゃあ任せた」
石や鉱物に一家言あるアトムのこと。
腹案があるのだろう。
何やらあちこちを調べた挙句、岩によじ登る。
「皆、少し離れて!」
「アースクロッド!」
おおう、あの大岩が真っ二つ。
『アースクロッド』は攻撃土魔法だが、アトムがこれ使ったの初めて見たな。
「アトム偉い!」
「へへっ、石にはここ叩けば割れるという『目』があるんでさあ」
ほう、大したもんだ。
同様に大きい欠片ごとに割り、運べるくらいの大きさにしていく。
石工職人のようだ。
「ありがとうございました!」
「これでイケます!」
「じゃねー」
村人の賛辞を浴びてこの前閉じた通路へ行く。
クララの『フライ』で跳び越え、さあコッカー狩りだ。
◇
「雑魚は往ねっ!」
盆地から麓側は渓谷になっていて風景が美しい。
荒野みたいな山頂部とは趣きが異なる。
でも住めるような平らなところがないな。
「レインね」
ついに降ってきた。
切り上げよう。
獲物を抱えてクララのフライで集落へ。
岩穴の家に入っていく。
「長老さーん、これ少ないけど皆で食べて」
「おお、ありがたいのう」
長老は喜んだが、すぐに困った顔になる。
「したが何の礼もできんのだが」
「べつにいいんだよ」
「盆地の整備も手伝わせてしまったのに……」
申し訳なさそうな長老。
本当にいいのに。
「あっ、じゃあ塩ちょうだい」
「塩?」
「向こうでコッカー肉を食べさせたい人がいるんだ。ここの塩と合わせて食べると最高においしいから」
「塩などでよければ」
小袋一杯の岩塩をもらう。
この塩オツな味がするんだよな。
ふつーの塩に混ぜ物しておいしくできないものだろうか?
「ありがとう!」
「御存じかも知れぬが、ミスティがこちらに来ましての」
「ミスティさんが? いつ?」
聖火教大祭司であるミスティさん。
こっちの信徒の様子を自分の目で確かめたくて来たのだろうか?
「精霊使い殿が去った翌日でした」
「やっぱりこっちの皆が心配なんだろうな」
「かもしれませぬな。あのビーコンとかいう石を念入りに調べて帰りましたわ」
……ほう、あの転移石碑をね。
「もし帝国の役人にあの石見つかったら、誰かの墓ですとか村を興した時の記念の石ですとかって誤魔化しておいてくれる? ドーラとこの村が繋がってることバレると、痛くもない腹探られそう」
「なるほど、わかりましたぞ」
「じゃあ、あたし達帰るね」
「うむ、お気をつけて」
転移の玉を起動して帰宅する。
◇
バエちゃんとこ行くまでにまだ時間がある。
クララがコッカーを捌いてくれている間に、畑番の精霊カカシとちょっと雑談だ。
「魚肥はな、乾燥させたやつを細かくすれば即効肥料として使える。が、オイラの管理も難しくなるんだよ。畑の隅にまとめて埋めといてくんな。うまく発酵したとこ見計らって栄養分だけ畑に回すから」
「うん、わかった」
さすがカカシ、畑のファンタジスタ。
ここは素直に言う通りにする。
「ところでカカシは凄草を見たことあるの?」
凄草は摂取すると全てのステータス値が上がると言われている超レア薬草だ。
カカシが欲しがってるやつ。
「ない。一度でいいから拝みたいもんだな」
「普通のステータスアップ薬草を育ててくれるんでも、十分ありがたいけどね」
カカシによる促成栽培で、既に最初植えた時より増えている薬草達。
これだって普通じゃ育てられないって話なのになあ。
「オイラも最高のものに挑戦したいんだよ」
「わかる。あたしも最高のツッコミにボケぶつけたいもん」
「え? それはわかんねえけど」
挙動不審な案山子って滑稽だな。
「凄草は必ずどっかで見つけて手に入れてくるよ」
「頼むぜユーちゃん」




