第1544話:レベル三〇は冗談じゃない
フイィィーンシュパパパッ。
「オニオンさん、こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「いらっしゃいませ、ユーラシアさん。大勢ですね?」
魔境にやって来た。
王道パワーレベリングの本場だからね。
こんなこと言ってるのあたしだけ?
「カラーズ~レイノス間の輸送隊の新隊員だよ。今日は掃討戦跡地に移民として来た皆さんなんだ。移民からも少しずつ売りものが出てきたからさ、そっちからも隊員募ろうってことになったの」
「いつものやつですね?」
「そうそう、いつものやつ」
「説明してくれ」
うむ、大分落ち着いたな、『訓練生』持ち君も。
オニオンさんが言う。
「皆さん、魔境へようこそ!」
「魔境?」
「魔境って、極悪ドラゴンとかがいる魔境?」
「ドラゴンはいるよ。特に極悪ではないけど」
ざわめく移民達。
帝国の人達はドラゴンを必要以上に意識するなあ。
悪書『輝かしき勇者の冒険』のせいか。
いや、今日の人達は読み書きできそうに思えないから、責任を押しつけちゃいけないやつかな?
『訓練生』持ちが諦めたように言う。
「二時間でレベル三〇と聞いて、尋常な手段じゃないんだろうとは思った。要するに経験値のバカ高い、超強い魔物を倒すんだな?」
「ピンポーン! 大正解でーす!」
さすがに辺境開拓民として戦闘経験のある人だな。
理解が早くて助かる。
「魔境の魔物は一番弱いやつでも、一体倒せばレベル一の人ならいくつかレベル上がるくらいなんだよ。中でもとっても経験値の高いタイプの魔物がいてさ。そいつを倒すとマジですぐレベル上がる。二時間でレベル三〇とゆーのは冗談でも何でもないんだ」
「あんたの実力はわかった。だがまさかマジでドラゴンに挑むわけじゃねえんだろう?」
「えーと、ドラゴンはメッチャ経験値高いってわけでもないから、あたしとしてはどうでもいいけど。皆さんはドラゴン倒さなくて満足できるのかな?」
「どういう意味だ?」
「ドラゴンを倒すとウケがいいから、最後帰る前に倒してくのが定番というか」
「ウケがいい、とは?」
あれ、通じない?
ウケがいいとか悪いとかって、ドーラの方言なのかな?
「倒すとすげえ盛り上がるんだってば。エンターテインメント的に外したくないかなっていう。あたしだって皆に楽しんでもらいたいし。でもイビルドラゴンとかは危ないから、普通のドラゴンだぞ?」
「エンターテインメント……普通のドラゴン……。実際に見ればわかるんだろう?」
「そーだね。わくわく魔境ツアーは体験型のエンターテインメントだよ」
オニオンさんが言い聞かせるように言う。
「皆さん、魔境にユーラシアさんのパーティーで倒せない魔物はいません。魔物と遭遇したら、とにかく防御していれば危険はありません。いいですね?」
「「「「「「「……おう」」」」」」」
大丈夫かなあ。
テンション下がってるから心配なんだが。
「行ってくる!」
「行ってくるぬ!」
「行ってらっしゃいませ」
ユーラシア隊及びふよふよいい子、不安げで不審げな者ども出撃。
◇
ベースキャンプから外に出てすぐに魔物出現。
「あ、もう出たな。オーガだ」
「で、デカい……」
「巨人の一種ではあるよ。でもほとんどドロップがないから好きじゃない」
「好き嫌いの問題なのかよ!」
「そりゃそーだよ。うちのパーティーはプロの冒険者だぞ? 実入りのいい魔物やおいしい魔物を倒すに決まってるだろーが」
経験値が高いとかね。
あたし達だけだと最近オーガはほとんどスルーしちゃう魔物だ。
でも移民連中の不安が増幅されてる感じではある。
早めに一体倒して落ち着かせた方がいいか。
「交戦しまーす。しっかり防御してください。決して動かないように」
レッツファイッ!
いつもの段取りで倒した。
「リフレッシュ! どうだったかな?」
「れ、レベルが上がった」
「魔法覚えた! 『サンダーボルト』だ」
「おめでとう! 皆さんは全員固有能力持ちでーす。スキルを覚えない能力もあるけど、レベル上がれば結構役に立つ場面は多かったりするからね」
「「「「「「「おう!」」」」」」」
「今の戦闘で、皆さんの防御は大変よかったです。今後も同様に防御してください。パニック起こして逃げようとすると餌食になるぞ? これは脅しじゃなくてマジだから注意ね」
「「「「「「「おう!」」」」」」」
よしよし、浮き足立ったところがなくなったぞ。
やりやすくなったなー。
魔力濃度の濃いエリアを目指してゴーだ。
『訓練生』持ちが話しかけてくる。
「レベル上げって、こういうことかよ」
「こういうことなんだ。オーガじゃ効率悪いから、もう少しまともなやつがいいな」
「効率悪いって。あんたが言ってた通り、レベル一のやつらはいくつか上がってるんじゃねえか?」
「レベル四、五にはなってるかな。でもレベルは段々上がりにくくなってくじゃん? その程度じゃレベル三〇にはほど遠いんだ」
「レベル三〇って、冗談じゃねえのかよ?」
だから冗談じゃないって言ってるだろーが。
「大マジだわ。あたしは冗談なんか言わないわ」
「御主人は冗談も好きぬよ?」
ヴィルを見て、ふと気付いたように『訓練生』持ちが言う。
「あんたは精霊使いだと聞いた」
「うん、ドーラが誇る美少女精霊使いだよ」
「戦闘メンバーの彼らが精霊だな?」
「そうそう。精霊は普通の人間とは喋らないんだ。親和性の特別高い人じゃないと。怒ってるわけでもスカしてるわけでもないから勘弁してね」
「……ということは、この飛んでいる子は精霊ではないのかい? 戦闘メンバーの子達とは系統が異なるぽいが」
「ヴィルは悪魔だよ」
「悪魔ぬよ?」
「……悪魔……」
引くなよ。
ヴィルが嫌がるだろうが。
「普通の悪魔は悪感情を好むんだ。だから人間に対しては嫌がらせみたいなことばっかりしてくる。でもヴィルは好感情好きのいい子だよ。人の嫌がることはしてこないから、可愛がってやってね」
「よろしくお願いしますぬ!」
「おう、こちらこそよろしくな」
「ヴィル、皆さんが興奮気味で魔物の気配がもう一つ掴みづらいんだ。上で警戒してて、もし急襲してくる魔物がいたら教えてくれる?」
「わかったぬ!」
ヴィルが元気よく飛んでいく。
よしよし、いい子だね。
皆さんを引き連れ、より魔力濃度の高く魔物の強いワイバーン帯を目指す。




