第153話:主犯と従犯
ピンクマンのデート事情を聞こうかと、食堂に場を移す。
マウ爺とソル君パーティーがいた。
「精霊使いユーラシアが新たなる仲間を引き連れてやってきたぞお! マウさん、お久しぶりでーす。ソル君達も」
「おう、魔法銃使いも一緒か。テーブルを寄せろ」
皆でよいしょっと。
「おい、ユーラシア。何だ、そのちっこいのは?」
振り向かなくてもわかる。
ツンツン銀髪の情報屋ダンだ。
いつもいいタイミングで現れるなあ。
「よろしくぬ!」
「ぬ? まあいいや。よろしくな」
ヴィルとダンが握手を交わす。
「で、いつ産んだんだ?」
「残念ながらあたしの子じゃないんだなー」
「じゃあ分身か何かか? 生意気そうな顔つきがそっくりだわ」
「ヴィル、塵にしちゃいなさい」
「ユーラシアに似て可愛いな」
「ありがとうぬ!」
笑いを堪えてマウ爺が割って入る。
「掛け合いはその辺でええじゃろう。その子は何だ? かなりハイクラスの存在であることはわかるが」
「悪魔のヴィルちゃんでーす」
「「「「悪魔?」」」」
「よろしくお願いしますぬ!」
ソル君パーティーとダンの声が揃うが、マウ爺には意外でもなかったらしい。
ちゃんと挨拶できるヴィルは偉いなあ。
「ほう、めんこい悪魔もいたもんだ」
「一般の悪魔は好みの悪感情を得るために、人間にとって不快なことをするんだ。でもヴィルは違うよ。嬉しい、楽しい、幸せみたいな好感情が好物だから、人間と仲良くしたい子なの」
食堂の大将や周りの冒険者にも聞こえるよう、大きめの声で話す。
少しでもヴィルが認知されますように。
「おいおい、悪魔に向かって『塵にしちゃいなさい』とか冗談でも言うなよ。シャレになんねえだろうが」
「大丈夫ぬ! わっちには御主人の本気とそうでない時がわかるぬ。半分くらい」
「半分かよ!」
ダンは弄りがいがあるなあ。
「でもユーラシアさんのパーティー、五人目でしょう? 転移の玉はどうしてるんです?」
すぐ転移の玉の使用制限に気付くとはさすがにソル君。
「召喚で呼べるけど、普段ヴィルは偵察の任務についてもらってるんだ。最初転移の玉四人までっていうの忘れてて転移事故起こしてさ。聖火教の礼拝堂に飛ばされてヴィルが捕まっちゃったの。可愛そうなことしちゃった」
「相変わらず面白い目に遭ってるな」
マウ爺が眉をひそめる。
「高位魔族が捕まる? 大祭司ミスティか?」
「うん、ミスティさん。話したらわかってもらえた」
アンが驚く。
「えっ? 聖火教って悪魔は絶対許さないと聞いたことがあるが?」
「どーも聖火教徒の悪魔に対する態度には、個々人でかなり差があるみたいなんだよね」
テンケン山岳地帯の集落の皆さんも聖火教徒だ。
動揺してたの最初だけで、結局ヴィルを可愛がってくれたしな?
「ミスティさんに許してもらったあともハイプリーストがギャンギャン喚いてたから、トイレの度にヴィルに覗かせたら観念した」
「「「「それはひどい」」」」
笑いに包まれる。
「で、ミスティさんに帝国本土の山の中の聖火教徒の集落の様子を見てきてくれって、『地図の石板』渡されてさ。クエストこなしてきた。帝国の聖火教徒は、迫害されてるってほどでもないんだけど、扱いが良くないの」
ピンクマンが反応する。
「最近、ドーラと帝国の関係が急速に悪化している。貿易船の行き来もかなり少なくなっていると聞いた。聖火教大祭司ミスティと言えば、ドーラ独立派のパラキアス氏と近い人物とのことだ。偶然でしかないかもしれんが、今帝国本土の様子を見てきてくれというのは、何かあるんじゃないかと勘繰りたくなるな」
「カールさんはよく御存じですねえ」
セリカが感心している。
ヴィルの報告でも、パラキアスさんとミスティさんの会談があったという話だった。
アルハーン平原の魔物掃討戦がどうして今だったのか、ということもある。
きな臭いな。
「レイノスの特に中町の話なんだが、帝国から物資が入らないから物価が上がっていてな。いわゆる上級市民の間に不満が広がってるんだ。帝国に直接納税してるのにどういうことだと。そこへ先日、『精霊様騒動』という謎の……」
ぶふっ、飲み物が変なとこ入った。
どーして精霊様の話が出てくるんだ?
さては、みたいな目でダンが見てくる。
「精霊? あんた、レイノスで何やらかしたんだよ」
「あたしだけのせいじゃない! アンセリも共犯だ!」
「ユーラシアさん、あんまりだろう!」
「そうです、我達はユーラシアさんの計画に乗っただけで……」
マウ爺が皆を宥める。
「落ち着け。まず主犯の言い分を聞こうではないか」
はい、主犯ユーラシア、神妙に供述いたします。
「大掃討作戦の六日前、まだソル君がギルドまで来てなかった時だね。うちのクララが使う大きな包丁が欲しくて、レイノスへ行ったんだ。レイノスは差別がある難しい町だって聞いたので、アンセリが心配してついて来てくれたの。ここまで間違いはないですね、共犯のアンさん、セリカさん」
「「間違いないです」」
「で、クララが亜人だって、上級市民に絡まれたんだよ。精霊が差別されるのも嫌だから、『精霊様』なる神様みたいな存在をでっち上げてとっちめてきたの。ここまでどうですか? アンさん、セリカさん」
二人が首を捻る。
ええ? 考えなくてもよくない?
スルーしてよ。
「……簡潔に言うとそう、なのかな……?」
「……間違いではないです。すごくたくさん人集まってましたけど」
ピンクマンがいらんことを言う。
「一時期レイノスは精霊様の話で持ち切りだったぞ。相当な事件だったんじゃないか?」
「どうしてピンクマンは事情に明るいの? あんたレイノスはあんまり関係なさそうに思えるんだけど?」
追求されるのも嫌なので話題を逸らしてみた。
「小生、レイノス下町で聞き耳を立てるのが趣味なのだ」
「そのピンクの格好で? 目立つでしょ」
「いや、黒フードで」
黒の民お得意の黒フードか。
メチャクチャ怪しいだろ。
極端だなあ。
「ユーラシアのことだ、どうせ派手にやらかしたんだろ?」
アンセリがこくりと頷く。
あ、ヴィルがマウ爺のとこ行った。
よさげな感情を得られるところを選んでるのかな?
「いいなあ、俺も現場で立ち会いたかったぜ」
「ダンは能天気だなー」
あたしも部外者だったら同じこと言ったかもしれんけど。




