第145話:赤の民の村へ
「ゼンは元気でやっとりますか」
「すごいやる気だよ。あたしもありがたいの」
カル帝国・山の集落にやって来た。
ゼンさんから預かった三枚のパワーカードを、ヒゲもじゃの長老クランさんに渡した。
長老はじっとカードを見つめている。
「これがあれば、魔物が来ても押し返せるであろう。お客人、御足労すまんことでしたな」
「いいんだよ。ゼンさんからの届け物があったり、向こうの聖火教関連で伝えるべきことがあったらまた来るから」
「うむ、お待ちしている」
というか、時々様子見たいな。
何故ならここにはおいしいお肉がいるから。
だけじゃなくて色々心配だからだよ。
南の盆地がうまいこと畑になるといいけどなあ。
転移の玉を起動して帰宅する。
◇
ふいー、結構せわしないな。
帰宅後、お肉を持って灰の民の村へ行く。
まず、サイナスさんに挨拶だ。
「サイナスさーん! お肉のお土産だよ。皆で分けてね」
「ありがとう、すまないねえ」
「嫌だねえお父っつあんたら。それは言わない約束でしょ」
「そういうのいいから」
あら拍子抜け。
消化不良って知ってる?
ずっと引っ張られても困るけど、もう少し付き合ってくれりゃいいのに。
「この肉って、この前の焼き肉親睦会の時と同じものかい?」
「そうそう。あの時は二種類のお肉持ってきたけど、これは脂の乗ってる方」
「見るからに美味そうだよなあ」
「もう片方のやつもサッパリしてておいしいんだけどさ。あっちは狩り過ぎると絶滅しちゃうんだよね。こっちのお肉は大丈夫だから、また時々お土産に持ってくるよ」
「助かるなあ」
お肉は平和の象徴であり、幸せの使者だから。
焼き肉親睦会で確信した事実だわ。
「部族間の話し合いってどうなってるかな? 進展あった?」
サイナスさんが柔和に笑う。
「極めて順調だ。灰・黄・黒が主導して、全部族が緩衝地帯に試験的に出店することに決まった。カラーズ各村間の交易開始だね」
「おお、やったあ!」
「三日後から始まるよ」
「早っ!」
随分話が進んでるじゃないか。
ビックリだ。
「カラーズが成立して一〇〇年、交流できなかったじゃん。今になってどーしてこんなにトントン拍子なん?」
「まあ、どこの部族もやりたかったことなんだよね。意地張っててできなかった事案が急に回り始めた」
「あたしのおかげだね」
「その通りだ」
「……素直に来られると恥ずかしいんだけど。もっと褒めてって言いたくなる」
サイナスさんは破顔する。
「ハハッ、今日は何か用があったのかい?」
「うん、デス爺と一緒に塔の村へ行った赤の民の女の子がいるんだけどさ。その子からの預かりものがあるから、赤の民の村へ行ってくる」
「ん? 君、西の移住先に行ったのかい?」
サイナスさんは少し驚いたようだ。
「クエストで塔の村にも飛べるようになったんだよ。向こうの状況もあらかたわかってよかった」
「そうか、あっちは『塔の村』って呼ばれてるんだな。『アトラスの冒険者』、便利過ぎないか?」
「いや、塔の村と繋がったのはたまたまだけどね。向こうお肉がなくて困ってたから、あたしがしばらくの間、持ってくことになった」
「得意技だな」
いつの間にかあたしがお肉ハンター扱いだ。
まあ肉狩りは好きだけれども。
「話変わるけど、緩衝地帯からレイノスの方へ強歩二時間くらい行ったところに、聖火教の大きな礼拝堂あるの知ってる?」
「ああ、あるな。聖火教がどうかしたか?」
「あそこ結構人の出入りあるんだけどさ。買い出しにわざわざレイノスまで行ってるんだって。店始まったらこっちに買いに来いって知らせてあげて」
サイナスさんが感心している。
「ユーラシアはあちこちに伝手があるんだね」
「『アトラスの冒険者』になったら急に知り合いが増えたな。でもあたし村に引っ込んでるより、関わりの多いほうが好きなんだよね」
あんまり灰の民っぽくない考え方かもしれない。
精霊とともにある灰の民は一般的に消極的だから。
「お客さんが多い方が交易も活発化するじゃん? 礼拝堂に連絡する件よろしく」
「わかった、知らせておく」
「主に欲しいのが食料品と蝋燭なんだって。蝋燭どこかの村で作ってないかな?」
「黒の民か緑の民かな……聖火教の蝋燭なら大きさに指定があるんだろう? 相談しないといけないね」
「その辺もよろしくお願いするね」
「ああ、任されたよ」
さて、サイナスさん相手の用は終わったし。
「赤の民の村行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
◇
「炎だねえ」
「炎ですねえ」
「炎だぜ」
「ファイアーね」
赤の民の村の門の前まで来た。
門が炎モチーフなのだ。
黄の民のバカでかい門といい黒の民のドクロ門といい、門には部族の特徴が出てるよなあ。
灰の民は地味というか何というか、見映えを全く気にしない傾向にある。
精霊の飾りでも載せておくべきなのだろーか?
村の中に入る。
赤の民は鍛冶・陶器・ガラスなどが得意で、あちこちから活気のある音や声が聞こえる。
黒の民の村と対照的だ。
「さて、何をすべきか」
手の中には『赤く燃えている』と書かれた木片が一つ。
どーしろとゆーのだ。
「里に届けてくれ、ってだけだったぜ?」
「里の誰にだよ? どこだよ?」
「フーとフェアーがワッツね」
クララが考えながら言う。
「レイカさんは、赤の民ならばこれで全てが伝わると仰ってました。赤の民のどなたかに見せてみては?」
「クララ先生の意見に従おうじゃないか」
レイカも誰でもいいから見せろっていってたしな。
どーもこういう大雑把なお使いは落ち着かないもんだ。
その辺を歩いてた男を捕まえて聞いてみた。
「こんにちはー。これを赤の民の村に届けてくれって頼まれたんだけど……」
怪訝な顔をしてた男の顔が木片を見てパッと明るくなる。
「あんた、有名な精霊使いユーラシアなのか!」
「見りゃわかると思うけど、かの有名な精霊使いユーラシアだよ」
「ほう、レイカは西にいるのか」
「……」
ボー然。
マジで赤の民は『赤く燃えている』だけで理解できるのか?
どないなっとんねん。
「えーと、レイカの御家族の方とかにこれを持ってった方がいいのかな?」
「いや、あんた、中央広場に来てくれよ!」
何が何やらわからん内に広場に連れてこられ、村人がたくさん集まってきた。
どーゆーこと、これ?
先ほどの男が声を張り上げる。
各部族に謎のコミュニケーション術があるわけではないです。




