第144話:二枚貸しだ!
――――――――――四〇日目。
「カカシー、行ってくるね」
「おう、ユーちゃん。畑は任せとけ」
畑番の精霊カカシによると、この前植えたステータスアップの薬草群は、もう株分けして増やせるとのこと。
早くね? と聞いたら、これらは魔力条件が適性ならば成長はかなり早いのだそうだ。
魔力条件を整えるのも、カカシの適切な管理があってこそだけれども。
直ちに株分けしたよ。
当面は食べずに増やす方針とする。
今日は赤の民の村に行く予定だ。
その前にお土産を調達せねば。
◇
「アリスー、こんにちは」
「あら、いらっしゃい。またコブタマンを狩りに?」
「うん。コブタ肉はおいしくて評判がいいんだ。食べる幸せを皆に分け与えたくて」
アリスは金髪碧眼、帝国宮廷風クラシックドレスと赤い靴を身につけた人形だ。
本の世界のマスターでもある。
「あなたはしょっちゅうここに訪れてくれるのね。嬉しいわ」
「何故ならここにお肉があるから!」
「ま、まあ、あなたの行動原理に口を出す理由はないけれど」
……アリスがソワソワしているように見える。
気になることでもある?
「何かあったの? あたしが悩みを聞いてあげよう」
「悩みというわけでもないのだけれど……。ドーラの近海にノーマル人は立ち入れないということは知ってるわよね?」
「ん? 唐突だね」
昔、暗黒大陸と呼ばれていた時代、ドーラに立ち入ることは一切できなかった。
ドーラ近海は海の一族の領域だったからだ。
一二〇年ほど前、海の一族の間で王の代替わりに伴う内乱が発生する。
ドサクサに紛れてカル帝国の探検隊がドーラ大陸に上陸し、植民地化することに成功した。
さらにあるノーマル人が海の一族の内乱に介入し、レイノスとその航路の航行を認めさせたという、伝説じみた言い伝えがある。
ドーラで海運や漁業が発達しないのは、現在でもドーラの近海が海の一族の領域であるからなのだと。
「本当かウソかは知らないけど、海に入っちゃダメってのは知ってる」
「本当よ。だけどカル帝国は海の一族の警戒網を回避する船を開発したわ」
つまりドーラ近海で海の一族を気にせず活動できるってこと?
あれ、すごくね?
「ドーラでもその技術を導入すれば、船で魚取ったりものを運んだりできるのかな?」
「多分ムリだわ。海の一族に気付かれず、小さな船がそっと行き来できるかってくらい」
「何だ、あんまり役に立ちそうじゃないな。でもアリスがわざわざ話してくれたってことは、重要なことなんだよね? ありがとう」
アリスは事実を語るけど、予想や思惑についてはほぼ語らない。
聞き手が判断しないといけないのだ。
アリスは微笑む。
「では、お気をつけあそばせ。良い肉を」
「良い肉を」
どんな挨拶だ。
◇
コブタマン二トンをクララが捌いている間に、パワーカード大好きっ子アトムを連れてアルアさん家に来た。
「アルアさーん、こんにちはー! 素材換金してちょうだい!」
「あんたはいつもけたたましいね。でもいいタイミングだったよ。最近、素材が不足気味なのさ」
うちのパーティーが掃討戦で目立ったから、パワーカードの引き合いが増えてるということに関係があるんだろうな。
イコールあたし偉い。
山の集落でもらった大量の素材を換金する。
「じゃーん!」
「ほう? いくつもレア素材があるじゃないか。やるねえ」
初めてのレア素材である『バロールアイ』『緑岩綿』のものを含め、交換対象カードがいくつか増え、一万ゴールド近い収入になった。
油断はできないが、ようやく金欠脱出だ。
残り交換ポイントは一一一三。
どう考えてももらい過ぎだよなあ。
山の集落の人達に還元してあげたいもんだが。
「ゼンはすごく熱心に働いてるよ。覚えも早い。あんたに話があるって言ってたから、作業場に行ってみな」
「りょーかいでーす」
作業場でコルム兄とゼンさんが話をしている。
「こんにちはー」
「やあユーラシア」
「もう客人って言うのもおかしいな。ユーさんでいいかい?」
「もちろん」
二人とも元気そうだ。
「昨日、塔の村に飛べるようになったから行ってきたの」
「塔の村とは、デス前族長達の移住先だな?」
「うん、あっちにも精霊使いがいてさあ。やっぱりパワーカードを使ってるんだよ。ダンジョンでたまにパワーカードを拾えるらしいんだけど、早く職人が来ないかって待ってる」
「そうか」
コルム兄はニコニコする。
必要とされるのが嬉しいのだろう。
「ゼンさんはどう? ちょっとは慣れた?」
「覚えることがやたらと多くて忙しいわ」
「あはは、暇よりいいよ」
「一つ頼まれてくれるかい?」
ゼンさんがゴソゴソして何かを取り出す。
「あれ、パワーカードじゃん。これがどうかしたの?」
「『スラッシュ』のパワーカードだぜ。コルムさんに作ってもらったんだ。うちの村に届けてくれんか」
数日後にここを去るコルム兄が、ゼンさんとその村の境遇に感じるものがあって製作したのだろう。
たとえ一枚でも、あの村には必要なものだ。
「わかった。責任持って届けるよ。アルアさーん、カード交換お願い!」
『ホワイトベーシック』と『ナックル』を受け取る。
「この三枚をゼンさんからだって、山の村に届ける。素材もらい過ぎだったし」
複数のカードがあれば村の安全度は増す。
特に『ホワイトベーシック』があるなら、少々のケガも大丈夫だ。
「そりゃあいけねえよ」
ゼンさんが困惑する。
「ユーさんには十分尽くしてもらった。村は未来を与えられたんだ。本来、あれっぽっちの素材と引き換えになるもんじゃねえ」
「じゃあゼンさんに二枚貸しだ!」
「え?」
「将来、ゼンさんがオリジナルのカードを作ったらあたしにちょうだい」
ゼンさんが目をしばたく。
「い、いいのかい?」
「貸しだよ。すんごいの作らないと許さないよ」
「甘えておきなよ。ユーラシアは気前だけはいいんだ」
「だけゆーな。ギャグセンスと女っぷりもいいんだよ?」
笑い声が重なる。
残り交換ポイントは九一三か。
かなり多くのカードと引き換えできるな。
あっ、あのヤバいカードが交換可能になってる!
「アルアさーん、交換レート表はもらって帰るね」
アトムと頷き合う。
今日は赤の民の村に行く予定だし、焦ることはない。
カードは逃げやしないのだ。
クララとダンテも交えてじっくり検討すればいい。




