第140話:赤い瞳の精霊使いとバイオレンスコケシ
「レイカに聞きたいことがあったんだった。ここ塔の村の精霊使いってどんな人?」
レイカが笑みを浮かべる。
「やはり気になるのか」
「そりゃあなるよ。情報交換しようと思って」
「私達と同じくらいの年齢の、赤い瞳の女性だ」
「あ、女の子なんだ。嬉しいな」
赤い瞳?
クララとさりげなく視線を交わす。
まさかバエちゃんと同族、つまり異世界の人間か?
いや、実際に会ってみないと何とも言えないな。
「私は彼女の敵らしい。ユーラシアも多分、敵だぞ」
「何それ、難しい子?」
あたしは警戒するが、レイカは大笑いしている。
「いや、相当面白いやつだよ。ユーラシアなら間違いなく彼女に興味持つし、問題なく扱えると思う」
あんたあたしの何を知ってるんだよ。
もっとも塔の村の精霊使いは、クララと仲のいい精霊コケシを連れている。
コケシみたいなクセの強い子とパーティー組んでるなら、面白い人なんだろうなあと思う。
「精霊を二人連れてるって聞いた。内一人は多分知らない子なんだ。ついでに挨拶しときたいしね」
「こっちの精霊使いの名はエルと言うんだ。そろそろ塔から戻る時間だと思うぞ?」
「エルね。ありがとう。あんたは焦らず養生するんだよ」
レイカに別れを告げ外へ。
せっかくだ、挨拶がてらアイテム換金しておこうかな。
道具屋へ。
「こんにちはー」
「あれ、誰かと思えばユーラシアじゃないか。こっちへ来たのかい?」
「今日は臨時だけどね。デス爺ほど自由じゃないけど、あたしもこっちへ移動できるようになったから、時々来ると思う」
「そうかいそうかい、大したもんだ」
冒険者の動向はどうなのかな?
「売り買いは活発だったりする?」
「いや、まだまだだね。募集で来た冒険者達も、まだ塔に入ってるパーティーはいないんじゃないかねえ」
ふむ、ヴィルの分析の通りだな。
まだ情報収集の段階か。
賢い冒険者なら当然の選択と言える。
だけど精霊使いのパーティーしか潜ってないなら、情報収集もままなるまい。
誰かがしびれを切らして塔に入るのを、皆して待ってるというところかな。
ヒカリとスネルの先行偵察の報告は皆が把握しているんだろうか?
「アイテムあるんだ。換金していっていい?」
「歓迎だよ。チドメグサや魔法の葉があればありがたいねえ。より付加価値の大きいポーションやマジックウォーターに加工したいんだが、材料が足りないんだよ」
「あるある、少しだけど」
消耗品を換金する。
なるほどな。
食堂や宿屋は人さえ来れば盛況だろうが、道具屋や武器屋はうまく回るまで時間がかかりそうだ。
「エルって子に会うにはどこに行けばいいかな?」
「エルちゃんを知ってるのかい? 本当に最初はただのお嬢さんでね、大丈夫かって心配してたけど、さすがにデスさんの見立てだねえ。毎日塔に入って、大分冒険者らしくなってきたよ」
エルも素人冒険者だったのか。
「ボチボチ戻ってくる頃合いだ。真っ直ぐ食事に行くことが多いから、食堂できっと会えるよ」
「ありがとう、行ってみる」
さて食堂は、と。
あの大きい建物か。
まだ食事処も一ヶ所しかないけど、発展すれば多くなっていくんだろうな。
「姐御、そのエルという精霊使い、すぐにわかりやすかね?」
「わかるでしょ。精霊連れの女の子なんて、世界に二人しかいないだろーから。ところでアトムダンテ。エルの連れているコケシっていう精霊はとんでもないやつなんだ。よくよく注意してないとダメだぞ?」
「へえ」「イエス、ボス」
クララが何か言いたそうな顔してる。
どーしてクララみたいな温厚な子があのコケシとふつーに付き合えるのか。
そっちの方が疑問だからな?
さて、食堂に入っていく。
時間が中途半端だからか冒険者の絶対数が少ないにも拘らず建物が大きいからか、中は閑散としている。
「おう、ユーラシアか。精霊三人連れとは見違えたぜ。肉取ってきてくれたんだってな。感謝するよ」
「エルって子が来たら挨拶したいんだけど」
「ああ、そういうことか。じゃあ奥の大テーブルにいろよ。もうすぐ来るはずだぜ? 何か注文してくれ。ドリンクは酒以外ならサービスしてやるから」
「ありがとう! じゃあコブタ唐揚げとサラダの大皿盛り合わせ、季節のハーブティー四人分お願い」
「おう、エルが来たらそっちへ通すから」
「はーい」
と、料理が出てくる間もなく、精霊使いエルが塔から戻ってきたようだ。
ナイスタイミング。
「おーい、エル! お客さんがお待ちだ」
ごく薄い紫の髪に大きく赤い目。
細かく小さなパーツのたくさんついている、上下に分かれたあまり見かけないタイプの服を着、えんじ色の丸い帽子を被っている。
瞳の色と服装から直感する。
バエちゃんと同族で間違いない。
人形みたいに整った顔立ちの美少女だが、どういうわけか表情は険しい。
「あたしはユーラシア、あんたと同じ精霊使いだよ。よろしく」
あたしをじっと見つめていたエルが言葉を発する。
「君は……敵だね」
「おっぱいの大きさだけで敵味方決めると、人類の半分が敵になるからやめとき」
「はうっ!」
図星か。
ユーラシア様のカンを舐めるなよ?
あんたの視線の方向で見当ついたわ。
「ねえコケシ、何なのこの子?」
詰草の精霊コケシは灰の民の村出身でうちのクララと仲がいいが、その性格は天と地ほど違う。
クララが癒し系ならコケシは撲殺系だ。
バイオレンスコケシに語らせるのはよろしくない気はしている。
でも面識があって状況を説明できるのは、この場でコケシだけなんだよなあ。
「今のはユーラシアさんが悪いです。せめて『女性の半分が敵』ならばダメージも小さかったのに、『人類の半分が敵』などと真実を語るから」
「はうっ!」
相変わらずコケシの言葉は容赦がないな。
でも面白いから乗ってやろ。
あたしもエンターテインメントには逆らえないのだ。
「本当のことでしょ。あたしもあるほうじゃないけど、その子にはないもん」
「はうっ!」
「板であろうと絶壁であろうと大平原であろうとないものはなかろうと! デリケートな部分に触れてはならないのです。たとえ触れるものなどないとしても!」
「……」
自分の主人を完膚なきまで叩き潰すコケシ。
オーバーキルにもほどがあるだろ。
あ、ヤバい。
エルがぴくぴくしてきた。
「クララ、『レイズ』お願い」




