第1388話:魔道研究所
「今日はいい天気でよかったねえ」
「うむ、海も凪いでおったしな」
タムポートから一旦ホームに戻り、杖職人ナバルのおっちゃんとヴィルとともに皇宮へ飛び、さらに魔道研究所へ行く途中だ。
宮廷魔道士マーク青年は、片眼鏡のおっちゃん渾身の魔道杖を喜んでくれるだろうか?
見る目だけはありそーなうっかり公爵が褒めてたから、大丈夫だろ。
魔道研究所の場所は、片眼鏡のおっちゃんもヴィルも知っていた。
「ところでさ。おっちゃん帝都に住んでたことあって、魔宝玉の価格知らなかったの?」
以前宮廷魔道士長に燿竜珠の杖を作った時や、マーク君の黄金皇珠の杖の注文を受ける時、まるで帝都の魔宝玉の相場がわかってなかったみたいなのだ。
「ハハッ。駆け出し杖職人に高級魔宝玉を用いた注文などなかったからな」
「おおう、もっともだ。ドーラは魔宝玉が安いから恵まれてるねえ」
「魔道杖の需要も少ないがな」
「帝国は需要が多いの?」
冒険者のいない帝国では、そんなに売れるもんじゃない気がするがな?
「帝国本土では、五〇歳以上の男性の正装は、杖を持つのが古くからの習わしだ」
「そーなの?」
「うむ。近年主流の帝国風スーツにゴテゴテした大杖が似合うとは言えないのでな。ステッキタイプが人気だが、魔道杖にも富豪層を中心にそれなりに引き合いがあったものだ」
「へー。魔法は使えんのだろうけど、ハッタリとかステータスとかで?」
「さようだな。現在の状況はわからんが」
「何だ。杖を使う習慣があるなら、ドーラから輸出する余地があるじゃん」
「え? さすがに魔宝玉をジュエルとした杖は売れないと思うぞ? 超絶美少女精霊使いよ」
ドーラの強みは魔宝玉だけじゃないんだな。
「おっちゃん、ステッキタイプの魔道杖だって作れるよね?」
「もちろん。しかしステッキタイプは、物理的強度を念頭に置かれることが多いのだ。魔道杖にしたところで需要がないのではないかな」
要するにいざという時武器としても用いるってことだな?
「常識を変えよう。盾の魔法を組み込もう」
「盾の魔法?」
あ、片眼鏡はまだ知らなかったか。
「ペペさんが開発した新魔法なんだ。一ターン相手のどんな攻撃もダメージ通らなくするっていう防御魔法」
「ほう? 面白いではないか」
「でしょ? やっぱり輸出用に作ってもらったんだ。消費マジックポイント小さいから、誰でも使えるよ。冒険者が使っても、大技が来るタイミングがわかる時なんかは有効だと思うけど」
「ふむ、身を守るための手段ということだな?」
「うん。馬車事故に巻き込まれそーになる寸前で、盾の魔法を使ったので無傷でしたってこともあり得るわけよ。おっちゃん今は水魔法杖で手一杯だろうけど、次の商品候補もあるんだぞとは覚えといて」
「うむ、承知だ」
杖職人も有望じゃないか。
新しい弟子来ないかなあ。
「着いたぬよ」
「ここかー」
ここホントに帝都なん? と思うほどの森の中だ。
貴族邸宅街からあんまり離れてないのにな?
建物はゴテゴテした装飾のない、シンプルな二階建て。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「はいはい、どちらさんかな?」
受付に誰もいない。
奥から出て来た、このくたびれた感じのグレーの蓬髪男も宮廷魔道士なのかな?
「マーク君いるかな? 注文の杖ができ上ってきましたよ」
「杖だと? どれ、見せてみなさい」
マーク青年のものなのに、何となく手渡しちゃってるナバルのおっちゃん。
いいのか?
「ほう、トネリコの杖か? 随分と余裕を感じさせる魔力緩衝量だな。黄金皇珠を用いながら貫禄負けしていない。なかなか美しいではないか。これほどのものを作る杖職人がいるとは」
「久しぶりだな。モプシュ」
「えっ?」
蓬髪男の目が見開かれる。
「ナバル? ナバルなのか? ドーラへ渡った?」
「この男前を見忘れたとは言わさんぞ」
「知り合いなん?」
「モプシュとは同じ師の下で杖作りを学んだ仲なのだ」
「ふーん」
「こちらのお嬢さんは?」
「ドーラが誇る超絶美少女精霊使いユーラシアだ」
「あのヤマタノオロチを退治したという?」
「そうそう。モプシュのおっちゃん、よろしくね」
注意してかるーく握手。
あ、マーク青年も来た。
「こんにちはー。杖完成したから届けに来たよ」
「このモプシュの鑑識眼にかなう、いい杖だ」
「これは世界樹の杖なのだ」
「世界樹? 世界樹とはトネリコなのか?」
「トネリコの変種だって」
「ほう、ドーラは面白いな!」
しげしげと新作杖を眺めるマーク青年がため息を吐く。
「これは素晴らしいですねえ。大事にしますよ。四万ゴールドでしたね。今すぐ持って来ます」
「何? 四万ゴールド?」
驚愕するモプシュさん。
わかる。
あたしも値段設定おかしいと思う。
「バカ安ではないか。黄金皇珠は持ち込みなのか?」
「ジュエル込みでの値段だ」
「どういうことだ?」
「ドーラは魔宝玉が安いの。黄金皇珠単品だと二万ゴールド。ビックリするほどお値打ちでしょ?」
「何と……ドーラが魔宝玉の本場だとは聞いていたが」
絶句してら。
片眼鏡が言う。
「樹種も豊富で、かなり様々なものが手に入るぞ。世界樹は訳ありのイレギュラーだがな」
「でも残念ながら、人口の少ないドーラじゃ魔道杖の需要があんまりないの。帝国からも注文取りたいから、価格の相場を教えてよ」
「……魔宝玉を使ったものだと、材料費の三倍といったところが目安だな」
片眼鏡のおっちゃんと頷き合う。
うん、宮廷魔道士長さんやマーク青年の話から想像できる範囲内だな。
標準的な売値が大体定まった。
「ドーラはいいところなのだな。正直ナバルは『輝かしき勇者の冒険』にかぶれただけだと思っていた」
「かぶれただけだぞ?」
「えっ?」
「何でもない。モプシュのおっちゃんも興味あったらドーラを案内するよ。あたし達また来るからね」
嬉しそうなモプシュさん。
帝国に輸出するルートさえ確立できれば、ドーラは杖職人にとって天国みたいなところかもしれない。
あ、マーク青年戻って来た。
「お待たせしました!」
納品完了。
マーク青年からおゼゼを受け取る。
あたしも黄金皇珠分の二万ゴールドと。
「では帰ろうか」
「じゃねー。今度評判とか聞かせてよ」
「バイバイぬ!」
とゆーかどんな研究してるか興味あるのだ。
転移の玉を起動して帰宅する。




