第135話:四〇秒で支度する
おいしい鳥の魔物コッカーの、本場バージョンの食べ方を教えてもらう。
鉄板が手に入りにくいこともあり、ここでは平たい岩を熱して焼き肉にするそーな。
「鉄板ほど早く熱せられねえんだけどな。焦げにくいしじんわり熱くなって旨みが逃げねえんだぜ」
「へー」
いろんな食文化があるもんだ。
「精霊使いさん、どうぞ」
「ありがとう」
コッカーの肉はしっかりした歯応えがあるから薄切りにするんだと思ってたけど、火が通りやすいってこともあるんだろうな。
どれどれ? あむり。
「う、うまひ……」
「そうでしょ、コッカー肉は最高よ」
ワイルドで濃厚な味と固めの歯応えが特徴のコッカー肉。
薄切りとマッチしてド直球の美味さだ。
塩も甘いというとオーバーだが、塩味がマイルドで旨みが強い。
なるほどなあ、お肉が美味けりゃ味付けはシンプルが至高か。
とゆーかこういう単純な食べ方こそ、塩自体が美味いこともかなり重要だな。
勉強になったわ。
「おーい、お客人、ちょっといいか?」
「ダメ、よくない。食べるのに忙しい」
苦笑する黒短髪の男。
笑うな、食べることほど重要なことなんてほとんどないのだ。
「五分待って」
「まあゆっくり食べてくれよ」
ふいー食べた食べた。
実においしかった、満足満足。
よく見りゃヴィルもあっちこっちで可愛がられてるじゃないか。
今日は大活躍だったもんな。
どうも聖火教というのは、絶対悪魔を受けつけないという教義ではない気がする。
ノーモア悪魔だったら、そもそも大祭司ミスティさんもヴィルを解放してくれなかったろうし。
で、黒短髪の男の用は何だろう?
「村人一同からの礼だ。もらってくれ」
素材の山だ。
こんなにたくさんの素材が集まってるのなんか見たことないんだけど。
いいのかしらん?
「嬉しいけど、もらい過ぎじゃない?」
「いやいや、南の盆地を耕作地にできるなら、それくらいの価値は優にある」
「久しく麓と交易できなくなっていてな。うちらが素材持っていても、換金できねえから意味がねえんだ」
もじゃもじゃ長老と黒短髪が口々に言う。
素材があっても村の役に立たないということは、昨日聞いてはいたけど。
「じゃあありがたくもらう」
「で、一つ相談があるんだ」
「何だろ?」
サービスしてもらったから少々のことは聞くぞ?
黒短髪が続ける。
「やっぱうちらにゃあのパワーカードってやつが必要みたいだ。手に入れたいんだが金はねえ。どうすりゃいいと思う?」
「おおう、随分と無責任に投げっ放されたぞ?」
アハハと笑い合う。
でもここまで清々しく言い切られると気分がいいな。
「パワーカードの工房で助手が抜けることになって、新しい人いないかって探してるんだよ。手先器用な人がいいんだけど、やってみる気ある?」
喜び勇んで黒短髪が立候補する。
「長老、うちが行きます!」
「この男ゼンはなかなか器用ですぞ。ぜひ紹介してやってくださらんか」
「もちろん! ゼンさんには昨日話したんだけどさ。パワーカードはドーラでも人気のある装備品じゃないの。職人の数が少ないんだよ」
黒短髪の男ゼンさんがアルアさんに弟子入りしてくれるなら、パワーカード使いのあたし達も嬉しいのだ。
「どうする? 今行く? あとにする?」
「四〇秒で支度しまさあ!」
「あんた達ここで待ってて。アルアさんとこ行ってくる」
うちの子達は村に置いて、身の回りのものだけ袋に詰めて持ってきたゼンさんを連れ、転移の玉でホームへ。
さらにアルアさん家へ飛ぶ。
フイィィーンシュパパパッ。
「アルアさーん、コルム兄、助手希望者連れてきた!」
アルアさんとコルム兄の喜ぶまいことか。
「君が掃討戦で大活躍したことが知られて、パワーカードの引き合いが急に増えたんだ。工房はてんてこ舞いさ」
「ゼンさんは帝国本土の山奥に住んでる聖火教徒でさ。帝国が武器を禁止にしてるから魔物退治もできないで困ってたの」
「パワーカードならバレずに所持できるって寸法かい? せいぜい気張りな」
「七日後、デス前族長が迎えに来るんだ。オレも西へ行かなきゃいけない。それまでゼンさんに教えられることは全て教えるよ」
「よろしくお願えいたしますぜ!」
こっちはオーケー、やったぜ!
再びホームからカル帝国・山の集落へ飛ぶ。
「ゼンさんを工房に置いてきたよ。すっごく喜んでもらえた」
「うむ、歓迎してもらえるのは何よりだ」
長老も喜んでいる。
「あたし達パワーカード工房にはしょっちゅう行くからさ。ゼンさんから言付け預かったらすぐこっちに連絡に来るからね」
「迷惑をかけるな」
「いやいや、あたしこそありがたいんだよ。人手不足で工房が動かなくなったら困っちゃうところだった」
「お客人」
急にシリアスな雰囲気だ。
炎に照らされるヒゲモジャ長老の顔が赤い。
「ここでの暮らしはどん詰まりであった。お客人が来るまでは、未来に何の展望も見出せなんだ。信仰を捨てたところで、もはや帝国に受け入れてもらえることはないだろうしな」
かもしれない。
役人すら来なくなったんじゃ、見捨てられてる可能性が高い。
相当聖火教徒は嫌われてるんだろうな。
「ところがミスティがこちらを気にかけてくれてることがわかり、またお客人が耕作地を確保してくれた。まだまだやっていけそうな見込みが立った。礼を言う」
希望を見出せたのは事実だろう。
しかし……。
「クランさん」
せいれいつかいのなぞめいたしんじつのことば、ひげだるまのはいふをつらぬけ!
「もしここの土地を捨てなきゃいけなくなったら、迎えに来るからドーラにおいでよ。いいところだよ」
「ハハハ、そうなったらよろしく頼むぞ」
「待ってる」
あたしの口調の意外な強さに、長老は少し驚いたようだ。
あたしの目を凝視して言葉を返す。
「うむ、わかった」
あたしは頷き、無言のまま長老クランさんと握手を交わした。
さて、もらうものはもらったし、腹もくちくなった。
帰ろうかな。
「じゃあ、あたし達は帰りまーす。皆ありがとう!」
「おーまた来いよ」
「元気でね」
「ヴィルちゃーん、ばいばーい」
「バイバイぬ!」
ヴィルが任務に戻ってゆくのを確認し、転移の玉を起動して山の集落から去る。
『クエストを完了しました。ボーナス経験値が付与されます』
あたしとクララとアトムのレベルが三二、ダンテが三一となる。




