第131話:長老、姪に会う
「こんにちはー」
「お客人方、よう我が身内をお助けくださった。礼を申し上げますぞ」
すげえのが出てきたぞ?
どこから髪でどこからヒゲだかわからんような風体の老人だ。
ヒゲだるまというあまりにも相応しい言葉が頭に浮かび、慌てて打ち消す。
この村の長老らしい。
「いいのいいの。たまたま居合わせただけなんだから」
「これは何と謙虚な。貧しい村故にこのようなものしか用意できませぬが、ぜひ御笑納くだされ」
素材をたくさんもらった!
やったぜ!
歓迎されてるのは間違いないけど。
「こんなにいいの? 却って悪かったみたい」
「何の、これは優れた戦士にこそ必要なもの。ところでドーラ大陸からいらしたとか。ひょっとして『アトラスの冒険者』ですかな?」
驚いた、何で?
現在の『アトラスの冒険者』は全員ドーラ人って話だった。
帝国で知ってる人がいるとしても、こんな山の中で出会えるとは思わなかったよ。
「正解でーす。でもどうして『アトラスの冒険者』を知ってるの?」
長老は笑みを見せる。
「やはり。昔、この村にも『アトラスの冒険者』がおりましたのでな」
「よかった。説明がややこしいから、どうしようかと思ってたんだよ」
こんな山の中に『アトラスの冒険者』がいたのか。
とゆーか転送魔法陣を設置する場所がないといけないから、田舎じゃないといけないのかな?
最後の帝国人『アトラスの冒険者』だったかも。
「ふむ、して、ドーラの誰ぞがこの地の聖火教徒の心配をしてくれている、とのことでしたかな?」
「うん、向こうの聖火教大祭司ミスティって人。見た目四〇歳になるかならないかくらいの女性なんだけど」
長老が首をかしげ、髪の毛がぞろっと動く。
メッチャ気になるヘアスタイルとゆーかヒゲスタイルとゆーか。
「大祭司ミスティ……いや、あの子が確かミスティという名だった……」
「やっぱり面識ある人だった?」
「わからんが、ミスティという名には心当たりがある。わしの姪っ子でな、『アトラスの冒険者』だった親に連れられて、幼い頃にここを旅立った」
何とビックリ。
ミスティさんと『アトラスの冒険者』との間には繋がりがあった。
なるほど、その関係で『地図の石板』を持ってたのかも?
「あたしはこの山の集落の様子を見てきてくれって言われたんだ。でも知ってる人なら直接会ってもらった方がいいかもな。長老、どうする? ミスティさんに会ってみる?」
「ハハッ、会ってみたいのは山々だが、今、渡航は制限されておるしの。おまけに聖火教徒には監視が厳しいのだ」
「あたしが転移で連れていけばいい」
長老の探るような視線と交錯する。
「……お願いできるか?」
「もちろん。あ、転移できる人数に制限があるから、うちの子達はその間ここに置いていっていいかな?」
長老は鷹揚に頷く。
「うむ、問題ない」
「決まりだね。じゃああんた達、ちょっと待ってて。あっ、やっぱりクララは来て。あの岩の道もう一度歩くの大変だわ」
「はい」
「よーし、行くよっ! 転移の玉っ!」
クララと長老を連れてホームに戻る。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
聖火教アルハーン本部礼拝堂前に移動する。
「こんにちはー」
入口の両開きの扉を開け、中へ進む。
「あっ貴様、精霊使いユーラシア! この聖火教を冒涜する者め、何しに来た!」
例のキャンキャン吠えるハイプリーストだ。
めんどくさいなーもー。
「冒涜なんかしとらんとゆーのに。ところでミスティさんいる? 会わせたい人がいるんだ」
「会わせたい人? そのむさ苦しいジジイか」
「そうそう。聖火教徒だよ」
ハイプリーストは険しい目でジロジロ見る。
「ダメだダメだ! 貴様の知り合いなんかにミスティ様を会わせられるか!」
「控えろっ!」
あたしは大声で怒鳴りつける。
「こちらにおわすお方をどなたと心得る! 恐れ多くもミスティ聖火教大祭司の伯父君にあらせられるぞ! ええい頭が高い! 控えおろうっ!」
あたしの大声で何事かと駆けつける聖火教徒達。
あ、しめた、ミスティさんもいる。
「ミスティさん。例の帝国の山の集落行ってきたよ。彼は集落の長老で、ミスティさんの伯父さんじゃないかって話なんだけど」
長老が歩み寄る。
「おお、確かにその涼やかな目元、面影があるわ。わしじゃ、クランじゃ」
ミスティさんの目が大きく開かれる。
「クラン……伯父様? 本当に?」
「お主がドーラの聖火教大祭司か。出世したの。白魔法の才能があったのじゃな。その才はハルトのパーティーメンバーとして磨かれたものか?」
「ええ。でも父様母様は行方不明になってしまって……」
積もる話もあるだろう。
二人きりにしてやろ。
「精霊使いさん、こちらへどうぞ」
修道女に奥の間へ通され、ハーブティーを出された。
「ありがとうございまーす。いただきまーす」
ふう、山の集落は寒かったから、熱い飲み物はありがたいな。
「あんなにはしゃいでる大祭司様は初めてです」
「伯父さんが無事だったことが嬉しいんだろうなあ」
でもあの山の集落は本当に貧しそうだった。
あんなところじゃ耕作もロクに捗らないに違いない。
迫害どうこう以前の問題じゃないかな?
「精霊使いユーラシア!」
んーまたあのハイプリーストか?
「何? 何か用?」
「今日はミスティ様に免じて許す!」
「いや、あんたに許してもらわなくてもいいんだけど」
「だからトイレの度にあの悪魔に顔出させるの止めてくれ!」
アハハ、そーいえばそんなこと言った気もする。
ヴィルマジでやってたのか。
「ごめんね。ジョークのつもりだったんだけど、あの子本気にしたみたい」
「謝るから許してくれ!」
「じゃ、外へ」
礼拝堂の中にヴィルを呼び出すのは、さすがに聖火教の教義上都合が悪いだろ。
ハイプリーストを礼拝堂の外へ連れ出し、ヴィルを呼ぶ。
「ヴィル、この人謝ったので、もうトイレの際に脅かさなくていいからね」
「わかったぬ!」
よしよし、物わかりのいいやつめ。
ぎゅっとしてやる。
「よーし、任務に戻っててね」
「はいだぬ!」
掻き消えるヴィルを見ながらハイプリーストが恐々言う。
「あんなんでいいのか?」
「あんなんでいいんだよ。悪魔にとって契約は絶対、取り決めは必ず守るから」
特にヴィルはすげーいい子だからな。
ウソなんか吐く気がしない。
ほっと胸をなでおろすハイプリースト。




