第130話:山の集落へ
フイィィーンシュパパパッ。
九番目の転送魔法陣からカル帝国・山の集落へ飛んだ。
聖火教大祭司ミスティさんにもらった『地図の石板』によって設置されたものだ。
「うおおおおおおお! 寒い!」
「ベリーコールドね!」
まあ寒いこと寒いこと。
いや、まだ一〇の月の頭だから、気温がメッチャ低いってことはないと思う。
でもドーラの平野部と帝国の山岳地帯では温度差が大きいわー。
風も強いしな、油断してた。
集落があるくらいの場所だから、山岳地帯ったってすげえ標高が高いってわけでもないんだろうけどな。
「荒野だね?」
「そうでやすね。素材はありそうでやすが」
荒野以外の何物でもない。山がちというか岩ばかりというか、高低差が大きくてメッチャ歩きづらそうだわ。
見るからに痩せた土で植物も少ない。
よくこんなところに人が住んでるもんだ。
いや、集落のあるところはもっと土も肥えてるのかもしれんけど。
特筆すべきは風の強さだ。
岩肌を舐める乾燥気味の風が厳しい。
煽られて岩場に落ちようものなら大ケガしそうである。
これ冬はたまらんだろうなあ。
「集落って、どこにあるんでしょうか?」
クララが疑問を呈する。
うーん、岩とゆーか岩壁ばかりで見通しがほとんど利かないな。
「行けるとこ行ってみるしかないみたいだね。出会い頭にいきなり魔物出現とかあるかもしれないから、パワーカード確認して」
「「「了解!」」」
リーダーらしい指示を出す、優秀かつ可愛いあたし。
ちなみに現在のカード装備状況はこうなっている。
あたし……『スラッシュ』『アンチスライム』『シンプルガード』『誰も寝てはならぬ』『オールレジスト』『ポンコツトーイ』『寒桜』
クララ……『マジシャンシール』『エルフのマント』『逃げ足サンダル』『ポンコツトーイ』『寒桜』『誰も寝てはならぬ』『光の幕』
アトム……『ナックル』『サイドワインダー』『シールド』『ルアー』『厄除け人形』『ポンコツトーイ』『誰も寝てはならぬ』
ダンテ……『火の杖』『プチエンジェル』『ボトムアッパー』『ポンコツトーイ』『寒桜』『誰も寝てはならぬ』『癒し穂』
以上に加え、『寒桜』一枚が予備としてある。
パワーカード『癒し穂』に付属している魔法『些細な癒し』によって、ダンテが全体回復持ちになったのは大きいかな。
もっともダンテが回復魔法をかけなきゃいけない場面なんかあって欲しくないが。
うちのパーティーは、戦い自体に喜びを見出すようなバーサーカー的感性を持ち合わせていない。
戦いは余裕を持って、勝つべきに勝つのが正しいやり方だと思うのだ。
「クララ、飛行魔法を使って上から見られる? 風に煽られて危なそうなら降りてきて」
「やってみます」
『フライ』、簡単に言うと飛んで進むことのできる風魔法だ。
クララがレベル三〇で習得した。
パーティーメンバーごと浮かすことのできる有用な魔法ではあるが、制御が結構難しいらしい。
最近クララはちょこちょこ練習している。
風が強くてコントロールが難しい状況であることを考えて、クララのみが偵察を行う。
「どう、イケそう?」
「高いところは風が強いですが、このくらいなら大丈夫です!」
「よーし、ムリしない程度にガイドして」
「はい。北へお願いします」
クララの案内に従い、北に注意深く歩を進める。
「フウフウ、ベリーベリーハードね」
「まったくねえ。足元は気をつけてね」
とはいえ、あちこち脆くて危ないなここ。
上歩いてる時は足場崩れそうだし、下歩いてる時は上から何か落ちてきそう。
今度来る時は道がわかるから、クララの『フライ』で行ったほうがいいかも。
風の強さ次第だが。
「あっ、ユー様、北約二〇ヒロに人がいます。女性が一人、魔物に襲われそうです!」
「急ぐけどちょっとこっち時間かかりそう。クララが先行して、魔物の後ろに回って牽制できる?」
「やってみます!」
『ヒロ』とは両腕をいっぱいに伸ばしたくらいの長さの単位だ。
二〇ヒロなんて真直ぐ行ければすぐそこだが、いかんせん足場が悪くて思うように進めない。
イライラするなあ。
焦る気持ちを抑えて前へ。
見えた! クララが上から魔物を挑発してる。
よーし、あとは平らな広めの土地だ。
襲われかけてた人に声をかける。
「よかった、大丈夫だったかな?」
「は、はい、あなた方は?」
「旅人みたいなもんだよ。話はあと! 魔物倒しちゃってからね」
「砂蜘蛛三匹です! ユー様の『雑魚は往ね』で問題はないかと」
「オーケー!」
クララと合流しレッツファイッ!
ダンテの実りある経験! どうもこの技緊張感が殺がれるな。砂蜘蛛の粘液攻撃! アトムの敏捷性が落とされる。もう一匹の砂蜘蛛の攻撃! アトムが受けるがさして問題はない。クララの乙女の祈り! 全体回復だ。最後にあたしの雑魚は往ねっ! よーし勝った!
「あ、ありがとうございました」
女性が礼を言う。
「ケガはないかな? こんなエサもなさそーなところに魔物が出るとは」
「いえ、いつもはこちら側に魔物が出ることはないんですけど、たまに迷い込んでくることがあって……」
「そーだったか。運が悪かったねえ」
「ええとあの、あなた方はどこから? ここは外と繋がっている道はないはずなんですけど」
誤魔化して信頼が得られるとも思えないので、あたしは最初から説明する。
「あたしはドーラ大陸の人間で、うちの子達は精霊だよ」
「えっ?」
まードーラ人が何でここにとは思うんだろうけど、事実なのだ。
「条件は限定されるけど、ドーラには長距離を瞬時に移動できる技術があると思って。ドーラの聖火教徒のトップの人に、帝国の信徒の様子を見てきてくれって頼まれたから来たんだ」
「は、はい」
腰が抜けてるのか混乱してるのか。
べつに取って食おうというんじゃないから脅えないでいいよ。
ちょっと落ち着いたかな。
「あなたは聖火教徒?」
「はい」
「よかった。帝国では聖火教の扱いがよろしくないらしいじゃない。帝国が渡航制限してからこっちの様子がサッパリわからないって、ドーラの聖火教大祭司が心配してるんだよ。様子を聞かせてくれないかな?」
「そ、そういうことでしたら、村へおいでください。案内いたします」
「ありがとう!」
女性の案内で村へ行く。
おお、ここからは道も広くて平らだな。
長さの単位はツカ(握り拳の横幅くらい。1ツカは約10cm)、ヒロ(1ヒロは約160cm)、強歩(早足で歩いたくらいの距離。強歩1時間は約5km、強歩1日は約50km)が使われます。




