第128話:ヴィル酔っ払う
フイィィーンシュパパパッ。
チュートリアルルームにやって来た。
「ユーちゃん、いらっしゃい」
「お肉と野草持ってきたから、焼いて食べよ?」
「ええ。あれ? ユーちゃん悪魔連れてくるって言ってなかったっけ?」
「あっ、そーだった!」
素で忘れてたよ。
赤プレートを取り出す。
「ヴィル、聞こえる? あたしんとこへおいで」
『了解だぬ!』
しばらくの間をおいて悪魔が降臨する。
「御主人の求めに応じ、ヴィル参上ぬ!」
高位魔族を目の当たりにしたバエちゃんが硬直する!
「か……」
「か?」
「可愛いじゃないのお! まさかクララちゃんよりちっちゃい子だと思わなかったわ~」
バエちゃんがクネクネしている。
悪魔ってことで警戒してたけど、どうやらツボらしい。
実際に会ってみりゃヴィルのキュートさには抗しきれまい。
バエちゃんも感覚派だから。
「人の愛に飢えてる子だからぎゅーっとしてあげてよ」
「わかったわ! ぎゅー」
「痛いぬ痛いぬ!」
「バエちゃん、ぎゅーは濃厚接触してあげてってことな。ほっぺたつねろってことじゃないから。女子力で理解して」
「ごめんなさい! ぎゅー」
「ふおおおおおおおおお?」
こらヴィル、声は何とかなんないの?
喜んでるのはわかるからいいや。
「な、なかなか気持ち良かったぬ」
「よかったね。よーし、じゃあお肉だっ!」
◇
「くいたかった~くいたかった~くいたかった~いえい、おにく~。あら、ヴィルちゃんは食べないのかしら?」
ヴィルがウロウロしているだけで何も食べていないことにバエちゃんが気付いたみたいだが。
「わっちはお腹いっぱいだぬ! 満足だぬ!」
「高位魔族は人の感情をエネルギー源として摂取するんだそーな。で、ヴィルは喜びとか達成感とかの嬉しい感情が好物なんだって。だから皆が腹一杯御飯を食べて幸せなら、ヴィルも幸せなんだよ」
「何ていい子!」
マジでいい子だからぎゅっとしたろ。
こんなにいい子なのに、悪魔だからという理由で人間と仲良くできないってのは理不尽だなあ。
偏見を持たずに素のまま見てくれる人ってのは案外少ないのかもしれない。
悪魔に限ったことではないんだろうけどな。
バエちゃんがインスタントスープの素というのを出してきたので、野草はスープに入れた。
お湯入れただけなのに結構美味いな。
いつも思うんだが、バエちゃんとこの世界の料理アシスト材料ってかなり充実してないか?
こっちの世界より食文化がうんと進んでいるとゆーことだ。
これはあたしの持論だが、食文化は平和で豊かな世の中じゃないと発達しない。
バエちゃんとこの世界はきっと戦争なんかないんじゃないかな。
実に羨ましい。
ドーラもそーゆー美味いものが溢れる国にならねばならん。
バエちゃんが首をかしげながら聞いてくる。
「ユーちゃんも持ってきてくれるお肉は、いつもおいしいわよね」
「でしょ? こっちでおいしいって定評のあるやつなんだ。じまーん!」
「これどうしてるの?」
どう、とは?
発言の意図がよくわからないんだけど。
「狩ってくるんだよ」
「買ってくるんじゃないんだよね?」
「えーと、お肉が魔物としてその辺を歩いてるじゃん? 倒してクララが捌いてお肉にするの。お肉イズお肉」
バエちゃんが驚愕の表情を見せる。
「クララちゃんが捌くの? すごっ!」
「いや、捌くのはあたしだってできるよ? クララが上手で速いから任せてるだけで」
「えへへー」
「そっちの世界の人スキル高っ!」
「ちなみにバエちゃんとこの世界だと、お肉をどうやって手に入れるの?」
「お店で買うの」
「こっちの世界も基本は同じなんだけど、買うと高いんだよ。新鮮なのを手に入れようと思うと大変だし。あたしも冒険者になるまで、お肉なんてもらった時くらいしか食べられなかったんだ」
自由にお肉を食べられるようになったことは素晴らしいことだ。
しみじみそう思う。
『アトラスの冒険者』になった時は、まさかお肉の恩恵があるとは思わなかったけど。
遠い目をするあたしにバエちゃんが言う。
「じゃあユーちゃんの故郷の人も、お肉をもらうと嬉しいだろうね」
「そうだなー。今度帰る時は持ってってあげよ」
ダンテが何げなく注意を促す。
「ボス、アトムがヴィルに酒勧めてるけど?」
えっ? ちょっと待って、ヴィル立てなくなってるじゃん!
「あっ、こらアトム。それは絵面的にダメだっ!」
「うーいーぬ」
「完全に酔っぱらってます……」
アトムが慌てて弁解する。
「いや、こいつ一口も飲んでませんぜ。あっしが飲んでいい気分になった感情を吸い取ってるだけだと思いやすが」
「ということは、あんたがかなり飲んでるんでしょ!」
「あっ!」
「そこまでにしときなさいよ」
「……へえ」
精霊の感情も摂取できるんだな。
精霊もまた知的な活動をしてるからか。
そして酔っていい気分になったのを吸うと寝ちゃうと。
ヴィルも幸せそうな顔してるから、まーいーや。
バエちゃんが心配そうに聞いてくる。
「感情を吸い取られて、こっちの情緒が乏しくなるとかはないの?」
「吸い取られるっていうか、共感するってのに近いんじゃないかな。憤怒好きの悪魔に魅入られて温厚になったとか、絶望の感情吸われて気分が軽くなったなんて聞いたことないもん」
「あっ、そうよねえ」
「ヴィルはね、人間と仲良くしたいけど、悪魔が人間に信用されるのはものすごく難しいって言ってたの」
クララの膝枕で寝ているヴィルを見ながら続ける。
「だから、なるべくいろんな人にヴィルを紹介してやろうと思うんだ」
「ヴィルちゃんもユーちゃんに拾われてよかったわねえ」
捨て猫みたいな言い草だな。
でも実際似たような境遇だったのかも。
ヴィルは他の悪感情好きな悪魔達とは、趣味も行動原理も合わないはずだ。
仲間外れにされて孤立していたとしても不思議ではない。
「さて、ごちそうさま。今日はおいとまするよ」
したが困った。
ヴィルをどうしよう。
転移の玉は四人までしか使えないしな?
「じゃあ今晩は私が預かろうか? 起こすの可愛そうでしょ」
「預かってくれると助かるなあ。ヴィルは自分で転移できるから、起きたら勝手に出て行くかもしれない。一応明日の朝、迎えに来るよ」
「わかった、じゃあね」
ヴィルをもう一度ぎゅっとしてバエちゃんに託した。
転移の玉を起動して帰宅する。




