第124話:悪魔ヴィルの任務
聖火教大祭司ミスティさんが懐かしげに、そしてどこか切なげに言う。
「遥か遠く、カル帝国本土のテンケン山岳地帯に繋がる転送魔法陣が設置される『地図の石板』です」
「へー、帝国に行けるようになるのか」
今まであたしの持ってた転送先は、チュートリアルルームと本の世界、ヴィルの家以外はおそらくドーラの中だろう。
帝国にも飛べるようになるのは有用かもしれないな。
頷くミスティさん。
「彼の地には貧しい聖火教徒が多いのですが、彼らと接触し、現在の状況を教えていただけないでしょうか?」
「わかった。任せてよ」
ミスティさんがホッとした様子になった。
テンケン山岳地帯とかゆー向こうの聖火教徒の様子が、相当気がかりなんだろうか?
あたし達だって、行けるところが増えるのは嬉しいのだ。
断る理由がない。
「よかった、私どもの信徒には『アトラスの冒険者』がおらず、この石板を使えなかったのです。山の人々が警戒して寄ってこない、あるいは攻撃されそうになるとかなら、様子を探ってくるだけで構いませんので」
「あれ、向こうってヤバめなの?」
「ではない、と思いたいのですが……」
ミスティさんは悲しそうな顔をして首を振る。
「帝国に国教はありません。比較的信教の自由がある国です」
「それだけ聞くと聖火教にも都合の良さそうな国に思えるけど」
「いえ、帝国で宗教と言えば、ほぼ汎神教の諸派なんですよ。聖火教は異分子でして。禁止こそされておりませんでしたが、元々聖火教は迫害の二歩手前くらいの状況ではありました。現在どうなのかということは全くわからないんです。帝国が渡航を許可制にしてから行き交う船も減って、交流も途絶えてしまいましたから」
「ふーん……とにかく行ってくるね」
「よろしくお願いいたします」
ミスティさんの取りなしで聖騎士以下七名に謝ってから礼拝堂を去る。
あのやかましいハイプリーストが、月夜ばかりだと思うなよなんて捨て台詞吐きやがるからムカッときた。
ヴィルにあの顔よーく覚えときなさい、個室トイレに入ったら脅かしてやりなと指示したら黙った。
礼拝堂の外に出た。
聖水の噴霧は止まってるな。
ヴィルをぎゅっとしてやる。
「ごめんねヴィル。いきなりおかしなところに転移して驚いたでしょ。あたしの持ってる転移の玉、四人までしか同時に飛べなくて、転移事故起こしたみたいなの。どうにかなんない?」
「じゃあこれを持っててくださいぬ」
赤いプレート状のペンダント?
マジックアイテムっぽいが。
「何、これ?」
「御主人がこれを持っててくれれば、わっちはいつでも御主人の温もりを得ることができるぬ。御主人はプレートに話しかければわっちと連絡が取れるし、わっちはその場所にワープすることができるぬ。例えば戦闘中にわっちをすぐ必要とする場合は、『召喚:ヴィル』を唱えて欲しいぬ。マジックポイントを消費するぬが、わっちはプレートの有無に関係なく、直接御主人の下に直ちに駆けつけるぬよ?」
「いつでも連絡できるのはメッチャ便利だな」
つまりあたしがこの赤プレートを持っていれば、ヴィルは常に好感情を摂取できるということらしい。
あたしはいつも大体機嫌がいいから。
加えてあたしからヴィルに指令を出すこともできるということか。
話を聞く限り、ヴィルは単独で転移できるっぽい。
単純に呼ぶんだと来るのに少し時間はかかるようだが、召喚魔法扱いならマジックポイントと引き換えにすぐ来ると。
転移の玉の制限があるし、戦闘は今までのようにヴィル抜きだな。
緊急時にすぐ呼べるオプションがあるとだけ覚えておくか。
「なるほど、わかった。精霊使いユーラシアは『召喚:ヴィル』を覚えた!」
「何だぬ?」
「ちょっと言ってみたかったの」
よし、これでこのクエストは完了だな。
結構大変だった気がする。
「あたし達はホームに帰るよ。着いたらさっきの赤プレートで呼ぶから来てね」
「わかったぬ!」
転移の玉を起動して帰宅した。
『クエストを完了しました。ボーナス経験値が付与されます』
レベル上がったか。
家に戻ってヴィルを呼び寄せ、処遇を決めることにする。
「ヴィルはどうする? この家に住む? それとも自分の住処の方が都合がいい?」
「わっちは御主人が赤プレートを持っていてくれれば、いつでも御飯食べてるのと同じぬ。場所はどこでもいいぬよ?」
どこでもいいならば……。
「よし、じゃあヴィルには偵察と情報収集を任せる」
「はいだぬ!」
「レイノスとカトマスはわかるね? さらに西域街道の果てに塔があって、そこに村を作ってるところがあるの。以上三ヶ所の様子を観察しておいて欲しいかな」
「西の塔? あの『永久鉱山』の塔かぬ?」
「そうそう! でもあまり近付かないでね。村長ハゲ爺は転移術のかなりの使い手だよ。あんたも魔力の通用しない空間とかに飛ばされたりしたら困るでしょ?」
ヴィルがげんなりする。
「勘弁して欲しいぬ……」
「普通の人間は悪魔よりうんと弱いけど、舐めちゃダメだよ。たまにとんでもない人がいるからね」
「はいだぬ!」
「あともう一人……」
今後のためにも、パラキアスさんの動向はいつも把握しておきたい。
何たってドーラのイベント全部に絡んでるような人だからな。
「『黒き先導者』パラキアスって人がいるの。浅黒い肌でいかにも強者のオーラ漂ってるから、あんたならすぐわかると思う。ドーラの最重要人物の一人で、この人中心に世界が動く気がするんだ。情報集めといてくれる?」
「わかったぬ!」
「で、この人の側には絶対に近付かないこと。本当に危ないから」
「り、了解だぬ!」
「よーし行っといで。くれぐれもムリしないようにね」
「はい、行ってきますぬ!」
ヴィルを送り出したあと、クララに御飯の用意を任せて、チュートリアルルームへ報告に行く。
「面白いことになったよ。悪魔を仲間にしたんだ。明日お肉持って遊びにくるから、その時紹介するね」
「え、悪魔? デビルっぽいやつ? デーモンっぽいやつ?」
おーおー、何なん?
違いがわかんねえ。
バエちゃんも混乱してるようだ。
「大丈夫だよ、いい子だから」
「そ、そお? まあユーちゃんが言うなら」
「楽しみにしてて」
よし、今日はこんなところだな。
明日は確認しなきゃいかんことが結構ある。
普通に呼ぶ時は赤プレートのあるところに来る、『召喚:ヴィル』を使った時は唱えた私のところに来るという違いがあるみたい。




