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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第1210話:慌てるウシ子

「あっ、リリー様!」

「こんにちはぬ!」


 パワーカード屋から戻ると、リリーと黒服がいた。

 ラッキーだな。

 リリーが起きてくるのが今日は若干早い。


「ピット殿とユーラシアではないか。どうしたのだ? こんなところで」

「こんにちはー。ピット君をあちこち案内してるんだ」

「ドーラの案内か?」

「まあ。『ケーニッヒバウム』店主フーゴーさんの頼みで。でもフーゴーさんのニュアンスだと、変わった体験させてやれって意味みたい」


 頷くリリーと黒服。

 ドーラでは帝都じゃ味わえない刺激的な体験ができるよ。


「で、どうしたの? 今日起きてくるの早いじゃん」

「我も地下にチャレンジするのだ。そのために三一階に行かねばならぬ」

「ウシ子のところ行くのか。あたし達もついてっていい?」

「うむ、歓迎するぞ」


 黒服が明らかにホッとした顔になる。

 心配だったんだろうな。


「ピット君、この塔のてっぺんには悪魔が住み着いてるんだ。悪魔との付き合い方はコツがいるから、教えてあげるよ。うちのヴィルはいい子だから参考にならないの。ヴィルはウシ子と会わない方がいいかな?」


 ちょっと首をかしげるヴィル。


「ザガムムはこの塔を自分のテリトリーだと考えてると思うぬ。わっちが行くと気を悪くするかもしれないぬ」

「やっぱそーか。じゃあヴィルはプリンス達のところで可愛がってもらっててくれる? あたし達ももう三〇分くらいで戻るからって」

「わかったぬ!」

「あとで連絡するからね」


 ワープで消えるヴィル。


「じゃ、行こうか」


          ◇


「あっ、チャラ男! 久しぶり」


 塔の入り口フロアに、ピンクのモジャ髪の男がいる。

 ここで案内人みたいなことしてる、名前は確かケン。

 パラキアスさんの悪の手先(笑)。


「やあ、皆さんいらっしゃい。そちらは初顔だね?」

「ピット君。帝都の大店の子だよ。リリーが地下に挑戦したいらしいから、三一階行くんだ。あんたもおいで」

「えっ? 何故?」

「あんたが『外交官』の固有能力持ちって知ったから。能力が悪魔にも有効か知りたいの」


 ヴィルで確かめてもいいけど、ヴィルは大体誰にでも愛想がいいからな。

 ウシ子に会わせた方がハッキリするだろ。

 不審げな目付きになるモジャ男。


「……誰に聞いた? パラキアスさんもオレの固有能力については知らないはずだ」

「そーだったのか。実は『アトラスの冒険者』の脱落者名簿をもらったんだよ。今後ドーラを発展させるために、有用な人材を発掘しようと思って」

「ハハッ、ウルトラチャーミングビューティーはオレを有用な人材と見てくれているのかい?」

「今後亜人との交易を進めようと思ったら、あんたの能力がキーになるじゃん? 『外交官』にどの程度の効果があるのか知りたくなるわ」

「か、かなり大胆なことを考えてるんだな」

「考えるだけはタダなんだぞ? でも考え過ぎるのは頭ぷしゅーってなるから好きじゃない」


 あたしは基本的には頭を働かせるよりカンで動く方がいいのだが。

 どーもそれだけだと物事うまく運ばなさそう。

 考えてるところを見せておくとハッタリが利く、と理解している。


「わかった。お供しようじゃないか」


 三一階へ。


          ◇


「ウシ子、こんにちはー」

「あっ! あなた、いいところに! 助けて欲しいのん!」

「えっ?」


 何慌ててるんだよ。

 せっかく悪魔との付き合い方を教えてあげようと思ってるのに、初っ端から予定外なんだが。


「どうしたの?」

「魔王様から召集がかかったの!」


 全員が息を呑む。

 最悪は魔王が対人類戦争を始めようとするケースだが?


「よし、落ち着いて深呼吸しようか。吸って~吐いて~吸って~吐いて~吐いて~吐いて~吐いて~」

「死んじゃうのん!」


 以前ヴィルも死んじゃうって言ってたな。

 悪魔は案外素直だ。


「最初から話してみなさい。場合によっては力になったげるから」

「魔王様が魔物退治をするらしいのん」

「魔物退治?」


 あたしの知らない案件みたいだな。

 しかし?


「おかしいじゃん。どーして魔物退治ごときで魔王が召集かけるのよ?」

「詳しいことは知らないのん。ワタシのところに届いた連絡がそれだけなのん」

「普通に考えりゃ、魔王でもてこずる魔物なのか数が多いのかどっちかだよね。魔物退治自体がブラフでウシ子を誘き寄せる罠だってことも考えられるけど」


 ただウソ吐く魔王だと魅力が半減だな。

 ウソじゃないとするなら?


「ウシ子も参加するんだ?」

「したくないのん」

「わかる。得がなさそうだもんねえ」


 実に理解しやすい考えだな。

 ウシ子が続ける。


「断るにしても使者を追い返す実力がいるのん。嫌々参加するのでも、魔王様が手伝いが必要と思ってる魔物を相手にするだけの実力がいるのん」

「実にごもっとも。で?」

「あなたはすごいのん! 手伝ってもらいたいのん!」

「そんな面倒なことができるか」


 ウシ子が絶望的な顔になるが、こんなん下手にウシ子手伝ったら魔王と対立しかねないじゃないか。

 バカなことに巻き込むのはやめとくれ。

 でもメソメソするウシ子も放っておけないしなあ。


「自分で処理しなさい。代わりにあんたのレベルを一〇上げてやろう」

「えっ?」


 目をパチクリするウシ子。


「そうしたら自分で何とかできる?」

「できるのん!」

「ちょっとこれ触ってみ?」


 ギルドカードに触らせる。

 レベル五七か。


「よし、レベル七〇まで上げてやる。でも条件があるよ」

「な、何なのん?」

「今後人間と敵対しちゃダメだぞ。それから無茶だと思うこと以外、あたしの言うことは聞きなさい。いいね?」

「わかったのん」

「もしウソ吐いたらひどいぞ? 世界中にウシ子は約束も守れない最低の悪魔だって言いふらすからね?」

「ひいいいいいい! わ、わかったのん!」


 よし、これでもし魔王対人類の戦いになったとしても、ウシ子が敵に回ることはない。


「じゃ明日レベリングね。朝に迎えに来るよ。こっちの用があるんだったわ。リリーと黒服さんが地下に挑戦したいんだって」

「そうなの? 頑張ってなのん」

「もう一つ質問。このピンクのモジャ髪男、普通のノーマル人と比べてどう感じるかな?」

「……あれ、少し親しみやすい気がするのん」

「『外交官』っていう固有能力持ちなんだ。悪魔にも有効みたいだな」


 知見は得られた。


「ウシ子じゃあね」

「待ってるのん!」


 塔から脱出。

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