第1208話:固有能力は重要といえば重要
フイィィーンシュパパパッ。
「やあ、いらっしゃい。チャーミングなユーラシアさん」
「ポロックさん、こんにちはー。ピンクマン久しぶり」
「こんにちはぬ! 久しぶりぬ!」
バーナード君をレイノスに送り届けてから、ギルドにやって来た。
ピンクマンがソロ活動か。
サフランはどうしたんだろ?
ラボかな?
ポロックさんがピット君に気付いたようだ。
「そちらはどなたかな?」
「帝都の大店の店主のお孫さんピット君だよ」
「初めまして。ピットと申します」
「これは御丁寧に」
ピンクマンが疑問に思ったようだ。
「結構なレベルじゃないか。また魔境レベリングか?」
「うん。『また』って言われると、ピット君がスペシャルな体験をしたという意識が薄れてしまうかもしれないけどその通り」
「ユーラシアさんはしょっちゅう魔境レベリングなんて危険なことしてるんですか?」
「危険じゃないわ。店主のフーゴーさんに、刺激的な目に遭わせてやってくれって頼まれたんだわ」
「お爺様はそんなこと言ってない!」
そーだったかな?
ダイレクトには言ってないかもしれないけど、世の中にはニュアンスってもんがあるじゃん。
あたしは心の機微に敏感な美少女だぞ?
「ピット君は何かの固有能力持ちだから調べに来たんだ」
「はいはい。ちょっと待っててね」
ポロックさんがフルステータスパネルを起動する。
本来鑑定士で調べるとおゼゼのかかることが、ここだとタダだからな。
「こちらに掌を当ててくれるかな」
「はい」
ピット君が青いパネルに手を触れると文字が浮かび上がる。
「レベル二五。固有能力は『コスモ』だね」
「『コスモ』って聞いたことないな。どんなやつ?」
「混乱・魅了の無効化だ」
地味だが悪くない。
誤魔化されたり誑かされたりするのをある程度防げそう。
「商人としていい能力だと思うよ」
「ええ、ありがとうございます」
ニコニコするピット君。
いつもそーゆー顔してれば小ズルく見えないのに。
ピンクマンが言う。
「大店の坊っちゃんなのに、自分の固有能力を把握していないのか?」
「帝国の人はあんまり自分の固有能力知りたがらないみたいなんだよね。知りたがらないってのは違うか。知る機会がほぼなく、必要性が薄いとゆーのが正しいな」
「何故だ?」
色々理由はあるんだろうが。
「帝国は基本的に一般人の武器所持禁止だから、兵隊さん以外はレベルアップの機会なんかないじゃん?」
「ああ、大部分の固有能力は、レベルを上げないと役に立たないということか」
「自分で自覚できないような固有能力を持ってることを知ったって、しょうがないからじゃないかな。育てられないし。『鑑定』『サーチャー』『道具屋の目』みたいな見抜く系の能力か、最初から魔法使えるような強く発現した属性魔法使いくらい? 自分が固有能力持ちだと把握してるのは」
「該当者はごく少数だな。しかしそれこそ兵士などでは固有能力持ちが有利だろう?」
「有利なんだけど、固有能力が重視されない社会じゃ鑑定士が食べていけないじゃん」
「鑑定する術すらないのか」
「貴族向けの鑑定士みたいな人はいるらしいの。でも鑑定料は法外だってよ」
考えるようにピット君が言う。
「……固有能力、重要ですね」
「重要なケースは多いねえ。例えば『ララバイ』っていう固有能力があるんだよ。今日イシュトバーンさん家で会った、片目隠すような髪型の警備員が『ララバイ』持ちなんだけど。彼は離れた位置からでも他人を眠らせることができるの。あんなのがドロボーに入ったら、『ケーニッヒバウム』魔宝玉コーナーの用心棒じゃ太刀打ちできないぞ?」
顔色が変わるピット君。
「『ケーニッヒバウム』くらいの影響力の店になると、憲兵だか警察だかと繋がりも大きいんでしょ? ちょっと頭回ればそんなとこ好き好んでドロボーに入ろうとしないだろうけど、隙は見せるべきじゃないと思うね」
「なるほど……具体的に対策はどうしたらいいでしょうね?」
「『ララバイ』持ちの? 睡眠耐性付きのアイテム持ってりゃいいよ。ギルドに売ってるから買ってく?」
「おいくらですか?」
ピンクマンが言う。
「睡眠無効だけのマジックアイテムは置いていないな。睡眠無効とマジックポイント自動回復二%のペンダントが二五〇〇ゴールド、睡眠・暗闇無効が四〇〇〇ゴールドだ」
「睡眠無効付きのパワーカード『サイコシャッター』『誰も寝てはならぬ』ってのもあるよ。ともに一五〇〇ゴールド。ただしパワーカードは起動してないと効果ないし、持ってる得物によっては干渉する可能性があるから要注意だよ」
考えてる考えてる。
実際は『ララバイ』持ちなんて、レベル上がんなきゃ使いものにならないだろうけどな。
ノアやフリッツが稀有な例外なのだ。
「まー帝都の事情は知らんから、ドロボー対策は今の状態で十分なのかもしれんけど」
「でもユーラシアが侵入したら止めようがないだろう?」
「当たり前じゃん。あたしだったら皇宮だろうが施政館だろうが止まんないわ。てか何で品行方正な美少女精霊使いがドロボーしなきゃなんないのよ?」
ピンクマンはあたしを何だと思っているのだ。
わざわざ問題起こしてメリットなんかないだろーが。
いや、メリットがデメリットを上回ればドロボーもあり得るとゆーことだな?
「レベル上がれば明らかに有用な固有能力持ちっているじゃん? 今日のバーナード君の『日和』もだけど」
「ボクも思い知りましたよ。今日の大きな収穫です」
「帝都でまだ固有能力重視の考え方がないなら、先んじて固有能力ビジネスやったっていいんだぞ? まず鑑定士雇ってさ」
「……そうか。必ずしも店の業務に携わることはない。何でも屋でも人材派遣でもいいから……でもレベルアップが問題になるな」
「兵隊とか戦闘員育てるなんて物騒な目的でなければ、あたしが引き受けてもいいよ。ピット君くらいまでのレベルアップだったら、一人当たり一万ゴールドでどうだ」
ピット君すげー考えてますね。
商売が好きだなあ。
『ケーニッヒバウム』の跡取りだけのことはある。
ドーラとあたしの得になることなら手伝ってやんよ。
「ありがとう。今日は帰るね」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動して帰宅する。
さて、次はピット君を塔の村にでも連れてってやるか。




