第109話:ラブ警報
ピンクマンが不思議そうな顔をする。
「サフラン? 族長宅か? 何故?」
「サフランは酢とか醤油とか作ってるじゃん? 明後日の焼き肉親睦会で、調味料の用意を担当してもらってるの」
今日は手伝いもいるはずだから特に問題もないと思うけど、一応状況も確認しておきたいしな。
ダンが聞いてくる。
「サフランって、呪術師の村の女の子か?」
「うん、黒の民の族長の姪でね。この前の掃討戦にも黒の民代表で参加しててさ。それで知り合ったんだ。黒いロングドレス着てた子なんだけど」
「ああ、いたなあ。変に目立ってたわ」
「えっ、あの時サフラン来てたのか? 戦闘の心得はまるでないだろう?」
ピンクマンが驚く。
「でも最後のデカダンス戦、抜群のタイミングでいい支援魔法くれたよ。すげー助かった」
「あっ、あの『マナの帳』か!」
「何でそこまでわかってるのに気付かなかったんだよ。おっかしいだろ」
「小生、ずっとペペ様を見てたゆえ……」
変態紳士の二つ名に恥じないサイテーのブレなさ。
却って感心するわ。
まったくこいつは。
「えーと、サフランは……」
いるとすると屋敷じゃなくてラボの方だろうか?
裏に回ってみる。
あ、ラボに誰かいるな。
「こんにちはー」
「はーい」
サフランが出てくる。
「カ、カールさん?」
ん? んんんんん?
トーンの上がった声。
これ以上ないくらい大きく見開かれた目。
口元を両手で押さえるも隠し切れない顔の赤み。
これは恋するオトメというやつなのでは?
ダンに耳打ちする。
「ラブ警報発令中なのでは?」
ニヤニヤ。
「ラブ刑法に照らし合わせたいな」
ニヤニヤ。
ピンクマンがサフランに話しかける。
「ああ、サフラン。君が先の掃討戦に参加していたと聞いた。ケガはなかったか?」
くうっ! 相手を気遣う思いやり。
ポイント高いぞ。
もっともピンクマンは黒眼鏡外せばハンサムだし博識だし、ランク上位の男かもしれない。
呪われし者(幼女好き)が致命的ではあるけど。
「いいえ、ユーラシアさんが助けてくださって……」
「ああ、ユーラシアにはいつも世話になるな」
いつもって何だ、ペペさんのことか?
こら、サフランが誤解してんだろーが。
違うぞ、あたしは何とも思ってないからな?
サフランその目付きやめろ。
「ピンクマンが黒の民の村出身だって知って、さっき連れてきてもらったんだ。せっかくだからサフランのとこ寄って調味料のこと確認しとこって、誘ったんだよ」
「ありがとうございます」
再びピンクマンにハートの視線を向けるサフラン。
ふう、何とかフォローできたぞ。
冷や汗かいたわ。
「ピンクマン、素敵な二つ名……」
サフランも『ピンクマン』が素敵だと思うのか。
黒の民のセンスはマジでわからねえ。
二つ名は『ピンクマン』じゃなくて『変態紳士』だからな?
「おい、『ピンクマン』の何が素敵なんだ?」
「さあ? 案外『変態紳士』も素敵と思うのかも知れないね」
ダンが不安そうに聞くが、あたしだって知らんよ。
黒の民の村はミステリーゾーンだって理解しろよ。
「調味料の方はどう?」
「問題ないです」
「ピンクマンも明後日の焼き肉親睦会来るってさ」
サフランの顔がパッと明るくなる。
もうちょっとサービスしてフォロー入れとくか。
「サフランの作った調味料がすごくイケるんだよ。焼いたお肉につけて食べるとすごくおいしいの。期待していいからね」
「マジか! 楽しみだぜ」
空気読めよダン。
欲しいのはあんたの返事じゃねえよ。
「小生も楽しみにしているぞ」
「……はい」
ハート目のサフラン。
うむ、面白いものが見られたから良しとしよう。
「じゃあ帰るね」
「はい」
サフランのラボを出、ダンとピンクマンに別れを告げ、ホームに転移する。
そーかー、ピンクマンとサフランが楽しみなのかー。
ニヤニヤ。
◇
――――――――――三一日目。
今日は茸舟の月、いわゆる一〇の月の一日だ。
あたしが『アトラスの冒険者』になって一ヶ月が経過したことになる。
クララと二人であのでっかいネズミ何とかしたいねって言ってたのが、懐かしく感じる。
今や四人パーティーで、ほぼ上級冒険者のレベルだもんな。
人生って勢いがつくと不思議に方向が決まるもんだ。
ギルドでダン、ピンクマンと落ち合い、フレンドであたしのホームに連れてきた。
「この辺りで待ってて。そこの踏み固められて黒っぽくなってるところは、転移の玉で飛んでくるところだから入らないでね。黄・黒・灰三村の台車が北から来るはず。来たら待っててもらって。行ってくる!」
転送魔法陣から本の世界へ。
ダンテの言ってたアレを確認せねば。
現在はエントランスホールの椅子に座っている、本の世界のマスターである金髪人形アリスに話しかける。
「ねえ、アリス。ここで戦ってても魔物の数は減らないってうちの子が言うんだけど、それは本当?」
「ええ、本の世界は『永久鉱山』ですから。素材も魔物も失われた資源は補充されるんですのよ」
やはり『永久鉱山』なのか。
ダンテの考えが当たってたな。
本の世界はお肉狩り放題エリアと決まった!
「ありがと。明日焼き肉パーティーがあるんだ。お肉を調達しに来たの。コブタ狩ってくるね」
「行ってらっしゃい」
『雑魚は往ね』大車輪の活躍だ。
積み上げたコブタマンとともに転移の玉で帰宅。
あんぐり口を開けるダンとピンクマンに指示する。
「これ、各村の台車二台計六台に分けて乗せて。もう一度、今度は洞窟コウモリ狩って来るから、その分の台車一台ずつは残すように」
ダンとピンクマンが呆れたように言う。
「これで足りないのかよ……山だぞ山」
「コブタマン、弱い魔物ではないと聞くが……」
「強いか弱いかはどうでもいいけど、おいしいお肉だよ。重要なのは味」
苦笑する二人。
「ユーラシアの『雑魚は往ね』がデタラメなスキルなのは知ってる。とはいっても簡単過ぎやしねえか?」
「デカダンス戦でメッチャ経験値入ったんだ。すっごいレベル上がってさあ、楽に戦えるようになったの」
「なるほど、人形系レア魔物の経験値は高いからな。デカダンスほどの上級人形系ともなればさぞかしであろう」
「あんたらのレベル、今いくつなんだ?」
「全員二八になった」
「「二八?」」
ダンとピンクマンが驚いて声を上げる。
でもレベルほどの実力がないことはわかってるよ。
あと一ヶ月でユーラシアのパーティーはレベル九九カンストします。
無双状態の始まりです。




