第106話:天は肉の上に人を造らず
「どうしてこんなに簡単に事が運ぶのだ!」
「そんなに喜んでくれると、あたしも頑張った甲斐があるなあ」
「喜んでない!」
「そお?」
黄の民の村からの帰り道で、クロードさんのテンションが変に高い。
喜んでないとするなら、焼き肉親睦会への期待感が高まり過ぎて辛抱たまらんのかな?
気持ちはよーくわかる。
あたしも楽しみだから。
「焼き肉親睦会への期待感が高まり過ぎて辛抱たまらんわけでもないっ!」
「あれ、クロードさんエスパー?」
「あんたの得意げな顔を見れば何を考えているかくらい理解できる!」
黒の民はフードを常用しているせいか、洞察力があるなあ。
うちの子達とサフランが笑ってるわ。
せっかく焼き肉パーティーが決まったんだから、もっと喜べばいいのに。
「まあまあ。天は肉の上に人を造らず、肉の下に人を造らずと言うからね」
「言わないよ!」
軽くスルー。
「こんなに大事になるとはなあ」
「大事にしたのはあんただよ!」
「クロードさんのツッコミはなかなか鋭いね。感心した」
やっぱ族長になるくらいの人は、何か取り柄があるもんだ。
ジト目で睨んでる(多分)クロードさんを思いっきりスルーして、サフランと話す。
「もうちょっといろんな調味料があるとよかったなあ」
「例えば? アターシも調味料には興味があるの」
ほう、サフランがやる気になってるか。
「醤油があると脂っこい焼き肉にピッタリのタレが作れるんだよ」
「醤油あるわよ。アターシが作ってるの」
「うそっ!」
酢だけじゃなくて醤油まで作ってるとは、マジでサフラン有能だな。
醤油も黒の民の村で手に入るのか。
カラーズ間交易が実現すれば、食生活が格段に豊かになるじゃん。
「醤油に磨り下ろしたニンニク、ショウガ、ゴマと砂糖を入れて混ぜるといいんだけど、材料揃いそう?」
「砂糖はないけど蜂蜜なら」
「蜂蜜高くない? いや、砂糖も高いけどさ。甘みがあればいいんだよ、何かの果汁とかでも」
サフランが首を振る。
「せっかくユーラシアさんがここまで進めた話ですもの。アターシも全力を尽くすわ」
「おお、サフランありがとう!」
クロードさんサイナスさんにも聞かせるように話す。
「ねえサフラン、いずれ醸造工場を作ってよ」
「え? 工場なんて大げさな」
「皆が買うようになれば今のラボじゃ全然足りなくなるんだよ。幸い土地はいくらでもあるんだから」
「……この前の掃討戦があった?」
「うん、いずれ入植者が入るって話じゃん? 入植者だって耕作が得意な人ばかりじゃないだろうし、働くところが必要だと思うんだ。いきなり自給自足だなんて、干乾しになる人が大量生産されちゃうよ」
クロードさんサイナスさんも微かに頷く。
「入植者が居ついて大消費地になればそっちにも売れるしね。調味料を売るとなると、容器のことも考えなきゃいけないなあ。早めに赤の民を抱きこまないと」
赤の民は陶磁器やガラスの工芸が得意なのだ。
カラーズ各村は互いにあんまり交流がなく、価値観も違うため、伸ばしてきた得意分野が異なる。
でも得意分野があんまり被ってないって、交易するなら都合がよくね?
ドクロ門を潜って黒の民の村に戻る。
お、今度は何人も注目してくれてるじゃないか。
「おーい皆聞こえるかーっ! 今帰ったぞおーっ!」
慌てて家から飛び出してくる人多数。
危ないよ、気をつけてね。
「黄の民の村の了承取れました。黄・黒・灰三村合同焼き肉親睦会は明後日の昼でーす! お肉たくさん用意するから、来たい人は来てね!」
「「「「「「「「うおおおおおおおおお!」」」」」」」」
「ついては黒の村には調味料を用意してもらいます。一〇人ばかり、サフランを手伝ってあげてください」
「はい!」
「俺が手伝います!」
「私も!」
男多くない?
サフランモテるのか?
『ファッショナブルかつ華やかな少女』って伊達じゃないな。
「じゃあ、あたし達は帰るよ。明後日会おう!」
「「「「「「「「うおおおおおおおおお!」」」」」」」」
帰ろうとした時、黒フードの男数人に(皆黒フードなのだが)声をかけられた。
「な、なあ、精霊使いの人。あんた冒険者なんだろ? ちょっと意見を聞きたい」
「何だろ?」
「あんたは売れるものは他所に売るといいと言った。呪術グッズは売れるものだろうか?」
「ほー呪術グッズ。詳しく聞かせて」
「例えばこんなものなのだが」
リーダー格であろう男は懐からドクロのペンダントを取り出す。
またドクロか。
「マジックポイント二%回復のアクセサリーだ。これ試作品なんだがもらってくれ。どうだろう?」
「効果は間違いないわけね? ドクロじゃなきゃダメなの?」
「効果は自信がある。ドクロは……これ以上格好いいモチーフはないだろう?」
黒の民のセンスだったか。
じゃあオブラートに包んで。
「こんなもの売れるかっ! 冒険者は命を賭けて戦うこともあるのっ! ドクロじゃ縁起が悪過ぎるでしょ!」
「お、おう……」
男達は意気消沈したようだ。
「でも効果自体は悪くない」
「え?」
「これいくらで売るつもりだったの?」
男達は少し話して答える。
「四〇〇ゴールドで売れれば損はない」
「一五〇〇ゴールドで売ろう」
「え?」
男達は驚く。
最近あたしもこの手のものの相場がわかってきている。
一五〇〇ゴールドなら十分売れると見た。
「小売価格が一五〇〇ってことよ? あんた達が卸す価格は一〇〇〇ゴールドくらいになるかな」
「十分過ぎるよ」
「オーケー、じゃその辺で交渉してくる。ただこれ、冒険者向けのアイテムになるから、あんまり数は売れないと思うよ。もっと一般向けのは作れないのかな?」
男達は途方に暮れたように顔を見合わす。
「一般向けって言われても……」
「例えば運のパラメーターをちょこっと上げるとか」
「そんなのは造作もないが」
「絶対に売れるアイデアがある」
「え?」
「でもまだムリか。レイノスに販路がないもんな。精霊の月までには何とか……。まあいいや。これ知り合いに使ってもらって、ショップの意見も聞いてくるよ。多分ドクロやめろって話になるから」
「ドクロなしならもう一〇〇ゴールド安くても儲けが出る……」
「ドクロにどんだけ手間かけてんだよ!」
いや、精緻なドクロだけれども!
男達の工房の位置だけ教えてもらい、灰の民の村への帰路に就く。




