第4話 校長と勘違い
アンが去ったあと、私はもう一度名簿を開いた。
『Unknown』
顔写真が無い生徒はもう一人いた。
「ルナ・・・」
彼女はかの有名な魔法使いの一族。
クロイツ家のご息女だった。
「レイとルナ」
公的な写真が存在しない二人。
その理由は実際に二人に会って分かった。
「顔が似すぎている」
それは二人が血縁者であることを意味していた。
「・・・」
私が引き出しから一枚の紙を取り出す。
その紙には一人の少女のプロフィールが書かれていた。
けれど、この少女は魔法学校の生徒ではない。
そして、この子に関しても写真は手に入らなった。
レイとルナ同様、クロイツ家が隠蔽したのだろう。
「ミカ」
彼女はルナの双子の妹ということになっている。
そして、彼女は姉のルナと違い。
魔法が使えない。
「魔法使いとは悪魔の王である魔王と交わった女性の子孫である・・・」
ゆえに、魔法使いになれるかどうかは血筋で決まる。
そんな魔法使いの家系からまれに魔法が使えない娘が生まれることもある。
私の孫娘――アンのように。
「けれど、双子で片方が魔法が使えない例はこれまで存在したことがなかった」
魔法が使えるルナと魔法が使えないミカの双子の姉妹。
それは魔法使いの歴史上において初の出来事・・・完全なイレギュラーな事態だった。
「一応、ミカに関しては後天的に魔力を失ったと資料にあるけれど・・・」
完全に眉唾だった。
「ミカは初めから魔法が使えなかった」
私はそう考える。
根拠はある。
ルナによく似た少女――レイの存在である。
「十年前。ひとつの村が山賊と魔物の手によって滅んだ」
生き残ったのは騎士団に保護されたレイとカイトの二人だけだった。
他の生き残りはいない。
「騎士団が到着したとき。村を襲ったはずの山賊と魔物も含め全員が死んでいた」
村人たちは山賊と魔物によって殺された。
それは間違いない。
「けれど、山賊と魔物を殺した犯人が分かっていない」
通りすがりの正義の味方が殺した?
だとしたら、遅すぎる。
村人たちは、村から逃げだしたレイとカイト以外は死んでしまったのだから。
「ただ、一つ分かっていることがある」
それは山賊と魔物の殺され方から分かった事実である。
「彼らは魔法で殺された」
「そして、十年前。二人を保護した騎士団。その中にはルナの母親であるクロイツ家の娘が所属していた」
村で惨劇が起こったその年にクロイツ家の娘は騎士団を辞めた。
そして、ルナの双子の妹であるミカの存在を明かした。
「クロイツ家いわく・・・」
ミカはある日を境に魔法が使えなくなった。
今更、男装しても悪魔の目を誤魔化せないと判断し、存在そのものを抹消し隠した。
そして、六歳の誕生日を迎えたため存在を公表した。
「あまりにも、お粗末な嘘の筋書きだ」
しかし、それは事実として受け入れられた。
クロイツ家の圧力によって真実は捻じ曲げられ、嘘は事実となった。
「あの村の惨劇はクロイツ家の陰謀」
それが私が出した結論だった。
ただ、その目的は分からない。
クロイツ家が惨劇を起こしてまでしたこと。
それは・・・
「レイとミカを入れ替えた」
その意図は分からない。
けれど、それは疑いようのない事実である。
「レイの家は魔法使いの血筋ではない」
レイは一般家庭の子だった。
「魔法使いは魔法使いの家系でしか生まれない」
顔がそっくりで魔法が使えるルナとレイ。
ルナの双子の妹で魔法が使えないミカ。
「本当はレイがクロイツ家の娘で、ミカが一般家庭の娘・・・」
だから十年前の惨劇で・・・
「レイはクロイツ家によって生かされた」
「カイトが助かったのは偶然でしょうね」
カイトはレイを背負って逃げた。
だから、ついでに助かった。
「私は真相を知るために魔法学校に通いたがっているカイトに提案を出した」
王都内のボランティアをする。
『そうすれば、魔法学校の一般クラスに入学させてあげる』
この制度は元々あった。
そこに、私はカイトをねじ込んだ。
「カイトが一緒に過ごした幼馴染は本当にレイだったのか。ミカの方ではなかったのか」
もちろん、そのまま聞いたわけではない。
そこはきちんと濁して悟られないようにした。
「けれど、カイトは間違いなくレイが幼馴染だと言った」
カイトの記憶はクロイツ家によって操作されている?
もしくは、惨劇が起こる前からレイとミカは入れ替わっていた?
「クロイツ家・・・あなたたちは何を企んでいる」
同じ魔法使いとして、クロイツ家を放っておくことは出来なかった。
「私はクロイツ家の企みを監視するために・・・」
レイとルナの二人を魔法学校に迎え入れた。
「クロイツ家はそれを受け入れた」
私の敵意に気付いていない?
それとも気付いた上で泳がせている?
「本当はミカも魔法学校に入れたかった」
けれど、断られてしまった。
彼女は魔法が使えないからと。
「一般クラスなら魔法が使えなくても問題ないと打診した。それでも駄目だった」
本人の・・・意志だからだと。
「私はルナとレイに何かあるのだと思っていた。でも、本当は・・・」
ミカを手に入れるのが目的だった?
「分からない。あのクロイツ家が村人たちを殺し、あげくの果てに実の娘を捨ててまで魔法の使えない彼女を手に入れたが理由が!」
・・・。
「もし、本当にミカが目的だとしたら・・・」
私がルナとレイを魔法学校に入れて監視する計画は何の意味も無かったかことになる。
「全ては無駄だった・・・」
それはあまりにも受け入れがたい事実だった。




