第1話 ルナとベル
「あれ?ここはどこ?」
ルナが目を覚ました。
「ルナちゃん!」
アリスがルナに抱きついた。
「はわわ、アリスちゃんがこんな間近に!」
突然の出来事にルナがテンパった。
「いやー、目を覚まして良かったよ」
「ああ、本当にな」
目を覚ましたルナを見て、レイと俺が安堵する。
俺たちは今、病院の病室にいた。
意識を失ったルナは病室のベッドで寝かせられ、俺たちは彼女が目覚めるのを待っていた。
「お医者さんは体に異常は無いって言ってたけど・・・」
「原因不明の気絶の方が怖いよな」
うーん、とレイと俺が頭を悩ます。
「わ、私なら大丈夫。心配かけてごめんね」
そんな俺たちを見て、ルナが安心させようと笑う。
「信じていいの?・・・ルナちゃん」
アリスが涙を浮かべながら聞いた。
よっぽど、ルナのことが心配だったらしい。
「うん。私は大丈夫・・・あっ」
ルナが何かを思い出したように、服の胸元を開けた。
「ルナちゃん!?」
突然、胸をさらしたルナにアリスが驚く。
「はい。男のカイトは見ちゃ駄目だよ」
レイが俺の目を手で塞ぐ。
「はい。はい。分かりましたよ」
俺が言う。
レイはいつものように俺の演技・・・男のふりに付き合ってくれた。
「これは・・・人形?」
アリスが言った。
「うん。この子はベルちゃん。いつも一緒なの」
ルナが言った。
「胸元を開けたのと何の関係が?」
目が塞がれていて状況がよく分かってない俺が聞いた。
「肌身離さず一緒にいるために、普段から胸の谷間に隠してるの」
「大きな胸の有効活用だね!・・・僕にも少しわけてくれない?」
大きな胸を見て興奮したレイがアホなことを言った。
「うん。寮の部屋に戻れば他にも人形が・・・」
「いや、欲しいのは胸だよ」
「えっ」
ルナの驚く声がした。
「レイちゃん。ルナちゃんが困ってる。セクハラは私とカイトにだけにして」
アリスが注意した。
「了解。善処するよ」
レイが悪びれもせずに言った。
「ベルちゃんは大丈夫?」
ルナが人形に話しかけた。
「ええ、少し・・・いや、すごく驚きましたがもう大丈夫です」
んん?
誰かが喋った。
でも、今の声って・・・
「今、喋ったのはルナだよな?」
目の見えない俺が質問した。
「あー、そうだね。ルナ、胸を隠してもらってもいいかい?」
レイが言った。
「あっ、ごめん・・・うん。もう大丈夫」
「よし、カイト。もういいよ」
レイが俺の目から手を離した。
そこにいたのは・・・
「はじめまして。私はベルと言います。よろしくお願いしますね」
人形で口元を隠したルナだった。
「ええと、これって?」
「人形のベルちゃんがカイトに挨拶をした」
ルナが言った。
「カイト・・・?」
ルナが再びで人形で口元を隠した。
そして首を傾げた。
恐らくベルが俺の名前に疑問を浮かべたということだろう。
「どうした?俺の名前に何か?」
俺が聞いた。
「い、いえ。そちらの彼女は?」
ベルがレイを見て言った。
「僕はレイだよ」
レイが答えた。
「・・・そうですか。失礼しました」
ベルが頭を下げた。
「改めまして、私の名前はベル。こちらの人形という設定です」
ベルが口元の人形を俺たちに見せつけた。
「俗に言うイマジナリーフレンドというやつだね」
レイが言った。
「イマジナリー・・・」
「フレンド?」
俺とアリスが聞きなれない言葉に首を傾げる。
「空想上のお友達・・・実在しない架空のお友達のことだよ」
「実在しない友達?」
意味がよく分からなかった。
「うーん。例えば、カイトが犬を飼いたいとする」
レイがたとえ話を始める。
「でも、親が許してくれない・・・ああ、ママのことは忘れてね。あくまで、たとえ話だから」
「それくらい分かってるから続けてくれ」
「親が許してくれない。でも、どうしても犬を飼いたい・・・さあ、どうする?」
「隠れて飼うとか?」
「そういことじゃないよ」
レイが俺の答えに呆れた。
(他にどうしろっていうんだよ!)
俺が頭を悩ます。
「私、分かったわ」
アリスが手を上げる。
「はい、どうぞ。アリス」
「犬の代わりを用意したのよ」
「正解!」
レイがアリスに花丸をあげた。
「えっ、猫でも飼い始めたのか?」
いまだに内容を理解できていない俺が聞いた。
「カイト・・・イマジナリーフレンドのこと忘れてない?」
レイが呆れがら言った。
「カイト、カイト」
アリスが俺の名前を呼んだ。
「ここでいう代わりは生き物じゃないの」
「生き物じゃない?」
いち早く答えにたどり着いたアリスが俺に説明する。
「つまりね。犬の人形に名前をつけて本物の犬として扱ったのよ」
「あー、なるほど」
ようやく、俺がピンときた。
「そう、人形に名前をつけて、まるで本当に生きているかのように扱う。それが空想上のお友達・・・イマジナリーフレンドさ」
レイが話す。
「まあ、人形は無くてもいいんだけどね。ただ、あった方が分かりやすいし、妄想がはかどりやすいというメリットがあるね」
レイがイマジナリーフレンドに関して解説する。
「私は・・・妄想の存在ではありません」
ルナ・・・ベルが頬を膨らませ否定する。
「ふふ、ごめんよ。ほら、カイトも謝りな」
「俺はベルが妄想だなんて一言も言ってねーよ!」
レイはなぜか俺にも謝らせようとする。
「でも、レイちゃん。詳しいのね」
アリスが言った。
「確かに、そうだな。意外だ」
もしかして、レイは本当に頭がいいのかもしれない。
「ふふ、実は僕にもイマジナリーフレンドいるんだよ」
レイが胸を張って言う。
「へー、意外だな。犬を飼いたかったのか」
あとで、ローザさんに・・・
いや、これからは寮暮らしだった。
犬を飼うのは無理そうだ。
「いや、違うよ。人間だよ」
犬じゃなかったらしい。
「アリスとカイトって言うんだ」
「私!?」
「俺たちは妄想じゃねーよ!」
アリスと俺が驚いた。
「いや、そうじゃなくて。二人に会えなくて寂しい時に妄想の二人と話しているんだよ」
レイがさらっとやばいことを言う。
「な、なんか、悩みでもあるのか?」
「私たちで良ければ話を聞くわ」
・・・。
俺とアリスは今、喋ってない。
「うわー!?レイが俺たちのふりをしながら独り言を!?」
「レイちゃん!現実に帰ってきて」
アリスがレイの体を揺さぶる。
「レイちゃん。アリスがレイちゃんを呼んでいるわ」
「なんだって?ありがとう、アリス」
レイが妄想のアリスに礼を言う。
すでに末期のようだ。
「よし、医者を呼んでくる」
俺が病室を飛び出そうとする。
「ごめん。ただの悪ふざけだからやめて」
レイが冷静になった。
「不謹慎だから、まじでやめろよな」
俺がレイを注意した。
「ごめんなさい」
レイが素直に謝った。
「ごめんね。嫌な思いをさせて、ルナ・・・ベルちゃん」
アリスが申し訳なさそうに言った。
「いえ、別になんとも。私は妄想ではありませんから」
ベルは譲らなかった。




