第5話 血濡れの少女
救えなかった。
「はあ、はあ」
瓦礫を持ち上げようと手に力を込める。
持ち上がらない。
「駄目だ・・・子供の俺じゃ・・・」
五歳の子供に持ち上げられる重さじゃなかった。
「そうだ。大人だ。誰か・・・」
俺が村の大人たちに助けを求めようと振り返った。
「・・・」
死んでいた。
みんな死んでいた。
「グギャアア」
魔物に殺された。
生きているのは・・・俺だけ?
「・・・っ」
唇を噛み締める。
「レイを・・・助けなくちゃ」
目をそらした。
死んでいった人たちから。
『ズルッ』
手が滑った。
手が濡れていた。
血で真っ赤に濡れていた。
「・・・」
俺の血じゃなかった。
瓦礫が血に濡れていた。
『ポタポタ』
瓦礫の下に血だまりができていた。
瓦礫に押しつぶされたレイの血だ。
「・・・っ!」
手遅れだった。
俺には救えない。
救えなかった。
「子供には無理だったんだ」
弱音を吐く。
「俺が大人だったら」
両目から涙が零れ落ちていく。
「せめて、あのお兄さんと同じ十六歳だったら・・・」
レイを救えたのだろうか?
「カイト!逃げてください!」
旅人のお兄さんの声が聞こえた。
「えっ」
俺が声のした方に振り向いた。
「・・・」
お兄さんが倒れていた。
お兄さんの体からはおびただしいほどの血が流れていた。
「・・・」
お兄さんの隣には血まみれのナイフを持った誰かが立っていた。
「お、お兄さん!」
俺が叫び声をあげる。
俺の目にその誰かは映っていなかった。
「そんな、お兄さんまで・・・」
追いつかない。
目の前の現実に。
自分が追い付かない。
「お兄さん。お兄さん・・・」
俺の体は動かない。
ただ、同じ言葉を繰り返すだけ。
目に映るのはお兄さんの死体だけ。
それ以外は映らない。
「・・・」
誰かが無言で近づいてくる。
俺の目にその誰かは映らない。
見る余裕がない。
「助けて・・・カイト」
レイが俺の名前を呼んだ。
俺の目にレイが映った。
彼女もお兄さんと同じように死んでいく。
「あっ、あっ」
俺には何もできない。
大好きな二人が死んでいくのをただ眺めることしかできない。
「・・・」
誰かが俺のすぐそばまできた。
俺は気づかない。
「マオー!」
マオが叫ぶ。
そして俺の服の裾を引っ張った。
「マオー!!」
マオが俺に逃げろと言っている。
「・・・」
俺は動かない。
マオの声は俺に届かない。
マオの姿は俺の目に入らない。
俺の目には大好きだった二人の変わり果てた姿しか映らない。
「・・・」
誰かがナイフを持った手を上げる。
そして・・・
俺に向かって振り下ろした。
『ザシュ』
血しぶきが飛んだ。
辺りが真っ赤に染まる。
俺の体も真っ赤に染まった。
ダイヨンショウ コワレタショウジョヘン。
カン。




