第5話 お兄さんと旅の目的
「ねえ、お兄さんの名前はなんて言うの?」
「それは秘密です」
その返答は初めて会ったとき・・・一か月前と同じだった。
「一か月も経ったんだからそろそろ教えてよ」
「うーん。時間の問題じゃないんですよね・・・」
旅人のお兄さんが困った顔をする。
「実はですね。私は逃げているんです。だから、見つからないように名前を残さないようにしているんです」
お兄さんは人差し指を口に当てて、シーと言う。
どうやら、内緒の話らしい。
「何から逃げているの?」
「この世で一番大切な人から」
お兄さんが悲しそうな顔をしながら言った。
「どうして、逃げてるの?」
「事情があって一緒に居られなくなったんです。だから、逃げなくちゃいけないんです」
「その大切な人はずっとお兄さんを追いかけているの?」
お兄さんには悪いけど、もしそうならお兄さんを引き留めてその人に差し出そうと思った。
「いえ、追いかけてはいません。それは間違いないですね」
お兄さんが言う。
「えっ?じゃあ、なんで逃げてるのさ」
「いやー、逃げる必要はないと頭では分かっているんですが・・・逃げてないと落ち着かないんですよね。まあ、一種の脅迫観念ですね」
「変なお兄さん」
俺がお兄さんに言った。
「ふふ、そうですね。変ですよね」
お兄さんがおかしそうに笑った。




