第7話 裏切者
あれは、私がライトさんに協力することに決めた翌日のこと。
私はアリスさんを監視するために屋上に向かおうとした。
すると、入口の扉の隙間から屋上を覗いているレイさんを目撃した。
レイ『じ~』
レイさんは無言で扉の向こうにいるアリスさんとカイトくんを覗いていた。
そんなレイさんの顔はほころんでいて……子供を見守る親のようだった。
*
それから数日……私とレイさんは屋上の入口でアリスさんとカイトくんのラブラブカップルをのぞき見しながら一緒にお昼を食べる野次馬コンビとなった。
レイ「カイトは僕の弟なんだ」
ある日、レイさんが私に打ち明けた。
アン「あっ、そうだったんですね」
その言葉に私は納得した。
あの目は親ではなく、姉が弟を見守る目だったのかと。
でも、その視線の先にはカイトくんだけではなくアリスさん――いえ、マオさんもいた。
きっとレイさんにとって、マオさんもまた大切な家族――妹なのだろう。
アン「羨ましいですね。カイトくんとマオさんは自身を愛してくれるお姉ちゃんがいて」
レイさんには、弟か妹が欲しいと言ったけど。
あれは嘘だった。
本当はレイさんのようなお姉ちゃんが欲しかった。
ずっと、傍で……見守ってくれる姉が……。
このことを直接、レイさんに言うことは出来なかった。
単純に恥ずかしかったから。
アン「レイさんは魔王って知っていますか?」
レイ「ああ、知っているよ。この前、カイトとマオが遊んでいたゲームに出てきたからね」
アン「実はその魔王は……現実に存在するんです」
私がライトさんとの秘密をレイさんに打ち明けた。
私にはレイさんからマオさんを……彼女の大切な妹を奪うことは出来なかった。
だから、マオさんは魔王じゃないと思い込もうとした。
けれど、レイさんは……
レイ「まあ、十中八九、魔王だろうね」
あっけなく、マオさんを魔王と言い放った。
レイ「マオのことを騎士団に話したら殺す」
そして、魔王であるマオさんを守る選択をした。
本当に……羨ましい。
姉に愛されているカイトくんとマオさんが。
アン「もし、私が魔王だったら、あの人はどうしたでしょうか?」
考えるまでもない。
あの人はためらいなく、私を殺すだろう。
なにせ、あの人は根っからの正義のヒーローだからだ。
家族を捨てることすらいとわないほどの。
アン「ライトさんならどうでしょう? きっと……守ってくれますよね」
私が根拠のない願望を口にする。
声『ライトも家族を捨てて騎士になったんだろう?』
アン「……!」
嫌な声がした。それは私の心の声だった。
声『お前もいずれ捨てられる。お前を愛する人間なんていない』
アン「違う! 違う! ライトさんはその人じゃ……」
本当にそうだろうか?
私はライトさんのことを何も知らない。
ライトさんもあの人と同じように私を……
ライト『僕は――出来損ないのいらない人間なんだ』
アン「……ああ、そうでした」
ライトさんは家族を捨てたんじゃない。
ライトさんが家族に捨てられたんだ。
アン「だから、私が拾ってあげるんです」
私がライトさんさんの家族の分まで……
アン「ライトさんを愛します」
私の決意は固い。
何があっても私はライトさんの味方で……
声『彼を裏切って魔王の存在を隠したくせに?』
アン「…………あっ、あああああ!!!」
私が裏切った。
ライトさんを裏切った。
……裏切ってしまった。
でも、でも……
アン「彼女たちの仲を引き裂くなんて私にはできない!」
どうすれば……どうすれば……
ライト「大丈夫かい? アン?」
ライトさんが私の手を握った。
アン「……あっ」
私の意識が現実に戻ってくる。
そこはいつもの喫茶店だった。




