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魔法学校の悪役令嬢  作者: ああああいい
第15章 ヒーロー編―後編―
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第5話 ヒーロー誕生

 レイは、みんなのヒーローだった。

 困っている人がいれば放っておけない。そんな奴だ。

 挙句の果てには、怪我した魔物まで助けようとする始末。

 本当に変わっている。……だからこそ、レイはヒーローなんだ。

 人間も魔物も隔てなく、助ける。

 それは、善悪に縛られない――本物のヒーローのように思えた。


 しかし、そんなレイにも欠点はあった。

 みんなのヒーローは、誰か一人のためだけに時間を費やすことはできない。


旅人「うーん、美味しい。カイトの入れるコーヒーは格別ですね」


 旅人のお兄さんが俺の入れたコーヒーを褒めた。


カイト「いやー、そんなに褒めたってコーヒーしかでないよ」


 俺が照れた。

 そうだ。俺には旅人のお兄さんがいる。

 俺は今、必要とされているんだ。

 そのことが何よりも嬉しかった。



   *



 かつての俺はレイのようにみんなを助けられる人間になりたかった。

 でも、駄目だった。俺はレイのように上手くやることが出来なかった。

 けれど、村の人たちは、そんな俺に……


村人「カイトちゃん。手伝ってくれてありがとうね」


 お礼を言うのだ。

 俺は助けるどころか、迷惑をかけてしまったのに……。

 逆に相手に気を遣わせてしまって、俺は複雑な気持ちになった。

 俺は……レイみたいにはなれない。

 親友であるレイ――憧れのヒーローとの乖離。

 俺は苦しんだ。苦しんで。苦しんで。



ニャン太『僕はニャンダフル。強きを挫き、弱きを守る。正義の味方ヒーローだ』


 アニメの主人公が名乗った。


カイト「正義のヒーロー……」


 俺はテレビの中のヒーローにすがった。


ニャン太『覚悟しろ! 悪魔め!』


 アニメのタイトルは「超次元ヒーロー ニャンダフル」。

 のちの長寿シリーズ――超次元シリーズの一作目。

 それは、主人公のニャン太が本物の「正義」を見つける物語――。

 そういう触れ込みの作品だった。

 しかし、実際の内容は……



旅人「カイト……? そこにいるんですよね?」


 旅人のお兄さんが不安そうに聞いた。

 お兄さんは目が見えないから、声をかけてあげないと俺が今何をしているのか分からない。


カイト「あっ、ごめん。ぼ~っとしてた。今、新しいコーヒーを入れるね」


 俺が慌ててコーヒーを淹れにいった。



   *



 ――俺は幸せだったんだ。

 旅人のお兄さんと一緒に過ごした日々は宝物のようだった。


カイト「お兄さんは目が見えなかった」


 自分より確実に劣った部分がある人間。


カイト「こんな俺でも役に立てる!」


 満たされる自尊心。

 果たされるヒーローになりたいという願望。


カイト「俺はみんなのヒーローにはなれない。でも、お兄さんだけのヒーローにはなれる!」


 そう、あのアニメで見たヒーローのように……誰か一人のためのヒーローに。


カイト「しかも、お兄さんの正体は男の魔法使い! お兄さんは特別な存在だったんだ!」


 そんなお兄さんの『特別な存在』になれたら、俺も……


カイト「うひひっ、」


 歪んだ笑みがこぼれる。


 ヒーローになりたかった? ――違う。

 俺はただ――


少年「優越感に浸りたかったんだ」


 五歳の俺が、今の俺を見ていた。


少年「何がお兄さんだけのヒーローだ。現実を見ろよ」


カイト「現実……」


 ポタリ。ポタリ。


 血が滴る音がする。


 ――グサッ、グサッ。

 

 誰かが何度も『何か』にナイフを突き立てた。


旅人「…………」


 『何か』と目が合った。それは旅人のお兄さんだった。

 お兄さんはピクリとも動かない。とっくの昔に死んでいた。


カイト「あ、あ……」


 俺はお兄さんを助けられなかった。

 俺は『お兄さんだけのヒーロー』にすらなれなかった。


レイ「助けて……カイト」


 瓦礫の下敷きになったレイが助けを求めた。

 でも、俺にはレイを助ける力はなかった。


カイト「う、あ……」


 壊れる。俺の心が壊れ……。


?「うあああぁああ!!!」


カイト「!?」


 俺の悲しみを吹っ飛ばすような悲痛な叫び声が聞こえた。


カイト「……!」


 ぎゅっ。


 俺はその叫び声の主を抱きしめた。


?「ごめんなさい。ごめんなさい」


 その声の主の手は真っ赤に染まっていた。


?「殺して……ごめんなさい」


 声の主は人を殺した罪悪感で苦しんでいた。


カイト「大丈夫……俺がついているよ」


?「あなたが……?」


 声の主が俺を見た。

 そして――


?「…………スゥー、スゥー」


 声の主が俺の腕の中で眠った。

 その表情はさっきと打って変わって安らかだった。

 どうやら、俺に抱きしめられて安心したようだ。


カイト「君は一体……」


 眠っている彼女は、白い肌に、白い髪――そして、角の生えた鬼の少女だった。


 ――カツン、カツン。


 足音がする。ナイフを持った悪い人間たちが近づいてくる。


カイト「これ以上、奪われてたまるか……」


 鬼の少女を守るように、力強く抱きしめる。


カイト「俺……『僕』はおまえらを殺すヒーローだ!」


 そして、ここに――新たな『人殺し(ヒーロー)』が誕生した。

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