第4話 憧れのヒーロー②
十年前のあの惨劇の日に、生き倒れていた僕――レイとカイトは、騎士団の騎士であるオルガさんに助けられた。その後、僕はオルガさんの元に押しかけて無理矢理、弟子となった。
これから語るは、そんな僕とオルガさんのある日の稽古の様子だ。
*
レイ「どうして、オルガさんは騎士になったの?」
剣のお稽古の休憩中。
僕がオルガさんに聞いた。
オルガ「これから生まれてくる大切な人を守るためだったかな」
オルガさんが当時を思い出しながら言った。
レイ「えっ、オルガさんって、子供がいたの!?」
オルガ「さあ? どうだろうね?」
オルガさんがはぐらかす。
オルガさんは騎士団の団長を務めているから自身の弱点となる――家族については内緒にしていた。
だから、僕もオルガさんの家族のことはよく知らない。
レイ「でも、騎士団に入ったら、その大切な人に会えなくなっちゃったんじゃないの?」
オルガ「そうだね。今は、ほとんど会えてないや」
レイ「それじゃあ、意味ないどころか。逆効果じゃ……」
オルガ「……知ってしまったんだ」
オルガさんが遠い目をする。
オルガ「大切な人を守る力を手に入れるために、騎士を目指してその過程でこの世界のあちこちに苦しんでいる人たちがいることを」
オルガ「私の大切な人と同じ……年端も行かない子供たちも含めてね。私にはそれが他人ごとに思えなかった」
オルガさんが剣を掲げる。
オルガ「この世界には必要なんだ。悪が恐れおののくほどの本物の――正義が」
オルガさんは自身の決意を僕に打ち明けた。
オルガ「実はね……。私の大切な人はレイと同い年なんだ」
レイ「えっ、僕と同い年ってことは……」
僕がオルガさんの年齢を計算する。
レイ「オルガさんって子供のときに女の人を孕ませたの!?」
オルガさんの性欲の強さに僕が驚いた。
オルガ「どこでそんな言葉を……」
レイ「友達が見せてくれた深夜アニメで!」
オルガ「アニメの規制にも力を入れるべきか……」
レイ「やめて! そんなことしたら、友達が泣いちゃうよ!」
僕が慌てて止める。
アリス(妄想)『うわ~ん。レイちゃん……。アニメが見れなくなっちゃったよ~』
僕が涙を流すアリスを想像した。
オルガ「ごめんよ……。レイ」
レイ「えっ、いや、初めてを僕に捧げられなかったことをそんなに謝らなくても……。オルガさんのことは好きだけど。それは恋愛感情とかではないし……」
オルガ「誰も私の童貞の話はしてないよ。あと、私の大切な人が私の子供だとは言ってないからね」
レイ「えっ、まさか……ロリコン?」
もしかして、僕も狙われている?
オルガ「……違うよ。ただ、謝りたかったんだ」
オルガさんは頑なに何に対しての謝罪かは言わなかった。
でも、見当はついた。
レイ「あの日……オルガさんがいなければ僕とカイトはあのまま生き倒れて死んでた。だから、オルガさんは僕たちを救ったヒーローなんだ。――本当にありがとうございます」
僕がオルガさんに心からのお礼を言った。
オルガ「でも、私がもっと早く駆け付けられていれば、君の家族も……村の人たちも死なずに済んだんだ」
オルガさんはあの惨劇を止められなかったことを悔いていた。
でも、それはオルガさんのせいじゃない。
ヒーローは事件が起こってから……遅れて駆け付けることしかできない。
レイ「えいっ!」
僕がオルガさんの頬を掴んで無理やり笑顔を作らせる。
オルガ「れ、れひっ?」
オルガさんが驚いた顔をする。
レイ「オルガさん。言ってたよね。『ヒーローは逆境のときほど笑う』って」
レイ「感謝されたときも胸を張って笑ってよ。僕はあなたの笑顔が大好きなんだ。今は作り物の笑顔でも、いつかオルガさんが心から笑えるように僕もお手伝いするから」
僕がオルガさんの頬から手を離した。
オルガ「レイ……うん。そうだね。ありがとう」
オルガさんがいつもの作り笑いをした。
レイ「それじゃあ、そろそろ稽古の続きをお願いします」
僕が剣を握りしめる。
これは誓いだ。
オルガさんの理想とする――
悪がヒーローを恐れて悪いことができない――
人々が平和に暮らせる世界の実現。
その手助けをすると――。
*
子供の世迷言とは言え、実に馬鹿げた誓いだと自分でも思う。
だって、そうだろ?
なにせ、僕自身がその――悪魔なのだから。




