第23話 天才役者―前編―
?「ご主人~~!」
ユキノ「良かった。
無事で本当に良かった」
メイド服を着た女の子と
ユキノが熱い抱擁を交わす。
カイト「なあ、レイ。
あのメイドの子は誰なんだ?」
俺がレイに聞いた。
レイ「あの子は『ドラ』。
ユキノの専属メイドだよ」
カイト「へ~、そうなんだ。
無事に再会できて
ほんと良かったな」
俺が抱き合う二人を見て言った。
ユキノ「これも全部、
レイくんとカイトくんのおかげだ。
本当にありがとう」
ユキノが俺たちに感謝の言葉を告げた。
ドラ「ありがとうございます」
ユキノに続いてドラがお礼を言った。
ドラ「レイさんに……え~と……」
カイト「カイトだ。
よろしくな」
俺が名前を名乗った。
ドラ「カイトさん……
本当にありがとうございます」
ドラが深々とお辞儀する。
カイト「その……
感動の再会のところ
申し訳ないけど……
君のご主人にはまだ
やってもらうことがあって……」
そう、マンドラゴラを見つけて
ゾンビになった人たちを助けるという
重要なミッションが残っている。
ユキノ「カイトくんの言う通りだ。
ドラちゃん、
設定を書き換えさせてもらうよ」
ドラ「分かりました。
ご主人」
ドラがユキノに背中を向けた。
ユキノ「~~~~」
ユキノがドラの背中を手でなぞりながら
何やら呪文を唱えている。
カイト「えっ、まだマンドラゴラ
見つかってないけど……」
レイ「マンドラゴラなら
目の前にいるじゃないか」
カイト「はっ?」
俺が辺りを見回す……が、
それらしいものは見つからない。
カイト「悪い……
マンドラゴラ見たことなくて……
植物なんだよな?」
教室のどこにも植物は見当たらない。
レイ「水三十五リットル。
炭素二十キログラム。
アンモニア四リットル……」
レイが急に呪文のような
何かを呟き始める。
カイト「ちょっと待て。
何言ってるか分からん」
ユキノ「人体の構成成分だよ。
私は天才だからね。
人間の体を作ることなんて
たやすいのさ」
ユキノがレイの呟きの内容を答えた。
レイ「……設定の書き換えは済んだのかい?」
レイが質問をした。
ユキノ「ああ、これでゾンビが
増えることはもうない」
ユキノが答える。
カイト「だから、待ってくれって!
もしかして、マンドラゴラの正体は……」
ドラ「自己紹介が遅れました」
俺の言葉を受け、
ドラが自己紹介を始める。
ドラ「私の名前はドラ。
マンドラゴラです。
この人間の体は
ご主人様が作ってくださいました」
カイト「人間の体を……作る?
一体どうやって……」
ユキノ「もちろん、魔法さ。
さきほどレイくんが
話してくれた材料を元に
受精、着床、妊娠、成長……
といった本来の過程をすっ飛ばし
『人体』という結果を獲得したのさ」
カイト「ま、マジか……」
魔法って想像以上に
なんでもありなんだな……
……。
…………。
生徒?「う、うっ」
倒れていた元ゾンビの生徒が
目を覚ました。
カイト「大丈夫か?」
俺が生徒に手を貸す。
ゾンビ「ガブッ」
手を噛まれた。
カイト「ゾンビじゃねーか!」
俺が手をブンブン振り回す。
ゾンビ「うぅ~」
ゾンビは俺の手に噛まれたまま
離れようとしない。
『トンッ』
ゾンビ「うっ」
レイがゾンビをみねうちで気絶させる。
カイト「助かった……
ありがとな、レイ」
俺がレイにお礼を言う。
レイ「カイト……
体調は?」
レイが心配そうに聞く。
カイト「少し痛いけど、
大した怪我じゃ……」
そこで俺が気付く。
カイト「ゾンビに噛まれたから
俺もゾンビの仲間入りじゃん!
……あとは任せた! レイ!」
俺はレイに全てを託し
ゾンビになった……
カイト「……あれ? ならない?」
ゾンビに噛まれたはずなのに
ゾンビにならない。
ユキノ「さっきも言ったろう。
これ以上、ゾンビが増えることはないと」
さも当然の結果だと言わんばかりに
ユキノは今の光景を見ても冷静だった。
カイト「えっ?
いや、でもさっきのあいつ……
どう見てもゾンビのままだったよな?」
ドラ「そうですよ! ご主人!
治ってないじゃないですか!」
俺とドラが疑問を口にする。
ユキノ「私は『ゾンビの増加は止まる』
と言ったんだ。
ゾンビになった生徒を治せる
とは言っていない」
ユキノが悪びれもなく言い放った。
レイ「やっぱり、君は……
悪だったんだね……」
『カラン』
レイが鞘から剣を抜いた。
そして、剣先をユキノに向けた。
ユキノ「そんなことをすれば、
ゾンビを治す方法は
永遠に失われることになる……
それでもいいのかい?」
ゾンビを治す方法が……失われる?
カイト「ゾンビを治す方法は
ちゃんとあるのか!?」
ユキノ「ああ、もちろん。
そのための方法は
既に私の頭の中にある」
ユキノが自身の頭を指さした。
ユキノ「ただ、この方法を実現するには
時間がかかってね……
それでも、まあ……
半年あればいけるだろう」
カイト「は、半年!?」
そんな長い間、
ゾンビになった生徒は
このままだって言うのか!?
ユキノ「私も心苦しくはあるが、
仕方ないんだ。
もちろん、全て済んだ暁には
きちんと法で裁かれるつもりだ」
ユキノが自身の心苦しさを
演出するために胸を押さえた。
ユキノ「けれど、今はゾンビになった
生徒たちを救うために少しばかりの
猶予をいただきたい」
初めて会ったときからそうだった。
ユキノの言葉遣いも所作も……
その全てが……どこか演技がかっていた。
ドラ「ご主人……
本当にそれしか方法がないの?」
ドラの目からは涙が零れ落ちていた。
ユキノ「……本当にすまないと思っている。
でも、私でもこれ以外の方法は
思いつかなかったんだ」
ユキノが申し訳なさそうに
ドラから目を逸らした。




