第9話 保存できる幸せ
探索から数日が経ち、ようやく筋肉痛も取れてきた。
放送室には少し余裕が戻り、二人の声にもどこか軽さがある。
「探索って大冒険だったけど……こうして放送してると、やっぱり日常に戻る感じするな」
「……でも、もう“普通の日常”じゃないわよ」
それでも、缶詰を開ける音や湯を沸かす音、雑談に混ざる笑い声が、確かに彼女たちの“日常”を形作っていた。
今日は特別な事件も冒険もなし。
小さな発見や、どうでもいい会話がマイクを通じて流れていく。
「……こちら、終末ラジオ放送局。気づけば探索からもう五日経ちました」
レイの落ち着いた声が、いつもの放送室に響く。
「おー、筋肉痛もやっと治ったしな!もう階段で泣かなくて済む!」
マリが胸を張る。
「……泣いてたのは事実なのね」
「だって!あのリュック、めっちゃ重かったんだぞ!」
二人は笑い合いながら、机の上の缶詰を指差す。
「さて、今日は特に事件もなし。だから話題は……保存の効くお菓子」
「おー!いいねぇ!やっぱり終末でも甘いもんは必要だろ!」
「まぁ、気分転換には大事かもね」
⸻
「代表的なのはビスケット。乾パンもそう」
レイが指を折って数える。
「あとチョコレート。保存に気を使えば結構もつ」
「なるほどなるほど……あとはグミ!アメ!ラムネ!」
「子どもの遠足の話じゃないんだから」
「え?終末って、ある意味ずっと遠足だろ?」
「……そのテンションでいられるの、ある意味才能ね」
マリは机の引き出しから、こっそりしまっていたビスケットを取り出した。
「実はな、探索のときに拾ったんだ!保存も効きそうだし」
「……見つけたのに黙ってたの?」
「サプライズってやつだ!」
「……信じられない」
それでもレイは、ビスケットを受け取ると小さく微笑んだ。
⸻
「さて……次は何しようか」
「そしたら、いつもの“妄想お便りコーナー”でもやりますか!」
マリが勢いよく宣言する。
「今回のお便りは〜!ラジオネーム・甘党サバイバーさんから!
“終末世界でひとつだけ好きなお菓子を確保できるなら、何にしますか?”」
「私は……チョコ。疲れたとき、必ず助けになるから」
「おー、王道!私はね……ポテチ!」
「油と塩分で三日目には後悔するわよ」
「でも食べたいもんは食べたい!欲望に忠実なサバイバー!」
「その結果、すぐに水不足になる未来が見える」
⸻
「……とまぁ、今日はのんびりした放送でした」
レイがまとめに入る。
「やっぱり、保存が効くってだけでありがたいのよね」
「そうそう!甘いもんとしょっぱいもんがあれば、人類は生きていける!」
「根拠、どこにあるのよ……」
二人の笑い声が、荒れ果てた街に優しく響いた。
マリ「なぁレイ、非常食にポッキーってどう思う?」
レイ「……あっという間に食べ尽くすわね」
マリ「いや!ちゃんと一本ずつ大事に食べる!」
レイ「……それ、逆にストレス溜まらない?」
マリ「ぬぅ!理想と現実の差がここにも!」
――次回、また小さな発見があるかもしれない。




