第8話 探索の余韻
初めての探索を終え、放送室には少しの安心感と疲労が漂っていた。
缶詰やペットボトル、そして“奇跡の一本”を手に入れた二人。
今日の放送は危険な話よりも、振り返りと休憩がメイン。
「もう遠足から帰ってきた子どもみたいだな」
「……むしろ疲れすぎた大人でしょ」
そんなやりとりをしながら、レイとマリはまたマイクに向かう。
荒廃した世界の中で、ラジオだけはいつも通り――少しユルめの日常放送が始まる。
「……こちら、終末ラジオ放送局。今日は、ちょっとのんびりお届けします」
レイがマイクに声を乗せる。
横ではマリが缶詰のラベルを眺めていた。
「いやー!昨日の探索は疲れたな!でも戦利品の缶詰たち、並べるとテンション上がる!」
「……その割に、帰ってきた直後は床に突っ伏してたけど」
「だって全力で冒険してたからな!勇者マリ、探索完了!」
「勇者が缶詰とジュース一本で満足するのね」
二人の笑い声が放送室に響いた。
⸻
「振り返ってみると、結構うまくいったんじゃない?」
レイがリュックの中身を確認しながら言う。
「缶詰三つ、ペットボトル四本、カップ麺少々……そして奇跡の一本」
「おー、あのジュースな!まだ開けてないから楽しみ倍増だ!」
「……本当に乾杯用にするつもり?」
「もちろん!未来に希望を残すんだ!」
レイは肩をすくめながらも、少しだけ笑った。
⸻
「じゃ、今日もニュースいってみようか」
マリが軽く咳払いをして声を張る。
「ニュースその一!探索帰還!勇者マリと参謀レイ、無事に凱旋!」
「……参謀って何よ」
「頭脳派ポジションだろ?私が勇者だから」
「はいはい」
「ニュースその二!戦利品の缶詰、レイがちゃんと仕分けして保管完了!」
「……当たり前でしょ」
「ニュースその三!マリ、筋肉痛で階段がつらい!」
「それニュースにする必要ある?」
⸻
「さて……次は何しようか」
レイがマイクの前で小さくため息をつく。
「そしたら、いつもの“妄想お便りコーナー”でもやりますか!」
マリが机に手を叩きながら元気を取り戻す。
「今回のお便りは〜!ラジオネーム・缶詰コレクターさんから!
“もし缶詰に新しい味を作れるとしたら、どんな味がいいですか?”」
「私は……レモン味の水煮とか。さっぱりして食べやすいと思う」
「ほほう、現実的!私はね……寿司缶!」
「寿司って、生ものよ?」
「じゃあ、寿司味の缶詰!」
「……酢飯の缶詰なんて聞いたことないわよ」
「いやいや、未来の技術ならできるかもしれん!」
「終末後に未来を持ち出すのね」
⸻
「とまぁ、こんな感じで今日ものんびり放送でした」
レイがまとめに入る。
「次の探索はもう少し先ね。今は休む時間」
「おー!休養も冒険の一部だな!」
「……違うけど、まぁいいわ」
机の上には、戦利品の缶詰と“奇跡の一本”が並んでいた。
開ける日はまだ先。それが少しだけ、心の支えになっていた。
マリ「なぁレイ、“奇跡の一本”って名前つけようぜ!」
レイ「……ただの缶ジュースよ」
マリ「いやいや!“希望のジュース”とか“ラストドリンク”とか!」
レイ「名前でハードル上げると、飲んだ時がっかりするわよ」
マリ「……やめろ!夢を壊すな!」
――次回、また少し未来の話を。