第6話 初めての支度
放送の間隔は数日。
そのたびに少しずつ日常が削れていき、気づけば食料も底をつき始めた。
「そろそろ、準備をしなきゃな」
レイとマリの放送室にも、そんな空気が漂っている。
今回はいつもの雑談……というより、近場のコンビニやスーパーに向けて“初めての探索”に挑むための準備回。
装備はできるだけ身軽に、でも可能な限り持ち帰れるように。
真剣にリストを作るレイと、相変わらずおちゃらけるマリ。
終末の日常に、小さな緊張と冒険の予感が混じる。
放送室の隅に、リュックと埃をかぶったアウトドア用品が並べられていた。
次の放送は出発準備編――二人にとって、初めての“大移動”に向けた放送だ。
「……こちら、終末ラジオ放送局。今日は準備の音をお届けします」
レイがマイクに声を落とし、足元のリュックを整えながら言った。
「いやー、冒険前ってワクワクするな!まるでRPGの最初の村を出る瞬間だ!」
マリは張り切って缶切りを腰のポーチに差していた。
「……装備に缶切りを誇らしげに入れる人、初めて見た」
「いやいや、サバイバルの生命線だぞ?剣より強い!」
「戦えないでしょうに」
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「じゃあ、準備リストを読み上げるわよ」
レイが手元のノートを開く。
「まず、リュック。身軽に動ける大きさ。
次に、水筒。浄水タブレット付き。
あと、軍手と懐中電灯。電池は予備も」
「おーい、マリの持ち物紹介コーナーもやるぞ!」
マリはリュックをひっくり返し、中身を一つずつ放送机に並べていく。
「カロリーメイト!予備の靴下!おやつのラムネ!そして……必殺、鳩よけの傘!」
「……最後のは必要?」
「絶対必要!前回ベランダで追いかけられただろ!」
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「まあ、近場のコンビニとスーパーが目標だから……最小限でいいわね」
レイは真剣に地図を広げていた。
「徒歩圏内、往復二時間以内。缶詰と飲料を中心に回収。
ただし、帰りはできるだけ荷物を減らすこと。運搬に余裕を残しておきたい」
「おー、さすが冷静キャラ!私は……とりあえず、ペットボトルは両脇に抱えて走れる準備万端!」
「……すぐ転んで割りそうね」
「ひどい!」
二人の声には、緊張感と同時に少しの楽しさも混じっていた。
未知の探索だが、どこか遠足の準備に似ていた。
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「ニュースは……今日は“準備状況報告”でいいかしら」
レイがまとめる。
「ニュースその一!レイはリスト管理に余念がありません!」
「ニュースその二!マリは無駄にテンションが高いです!」
「おい!それニュースじゃなくて悪口だろ!」
二人は顔を見合わせ、笑った。
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「じゃあ、ここで“妄想お便りコーナー”にいきましょうか」
レイがマイクを軽く叩く。
「今回のお便りは〜!ラジオネーム・パーティ編成中さんから!
“もしRPGの冒険に出るなら、どんな役割を選びますか?”」
「私は……僧侶かしら。回復ができるのは強いわ」
「おー、実用的!私はもちろん勇者だ!」
「勇者?剣持ったこともないくせに」
「いやいや!勇者は気持ちが大事なんだ!ラスボスは缶詰だ!」
「……食べ物にされる前に、ちゃんと回収しなさい」
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「さて、準備は整ったわね。次回は、いよいよ探索」
レイが静かに宣言する。
「うおー!いざ、コンビニとスーパーの大冒険へ!」
「ただの買い出しよ」
「夢を壊すなー!」
二人の声が、準備されたリュックと一緒に放送室に響いた。
マリ「レイ、探索で絶対いるものって他にある?」
レイ「……冷静さと慎重さ」
マリ「おー、じゃあ私はテンションと勢いでカバー!」
レイ「……どっちも事故の原因ね」
マリ「ぐはっ!?」
――次回、初めての食料調達へ。