第5話 そろそろ腹が鳴る頃
前回から五日後。
いつもの調子で放送をしていた二人だが、レイの言葉がふと重くなる。
「食料の在庫が、そろそろ心もとないわね」
やがて彼女たちは、初めての調達に出ることを決める。
放送局の床に、空っぽになった缶詰が転がっていた。
五日ぶりの放送。だが今日の空気は、どこか腹ペコの匂いがしていた。
「……こちら、終末ラジオ放送局。聞いてる人がいたら、こんばんは」
レイが淡々とマイクに声を乗せる。
「なぁレイ、ついに冷蔵庫の中が“氷と謎の汁”だけになったんだけど」
マリはぐぅ〜っと腹を鳴らして机に突っ伏した。
「……それは冷蔵庫じゃなくて、ただの箱ね」
「箱の中身が“絶望”ってオチだぞ!」
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「そろそろ、調達に出ないとダメね」
レイが冷静に現状をまとめる。
「食料、医療品、あと服も限界。特にマリは同じTシャツばかり着てるし」
「バレた!?いやだって洗濯サイクルとかもう無理だし!」
「聞いてる人がいたら、ご愁傷さまね……鼻が」
「やめろー!リスナーは匂いまで届かねぇから!」
二人の声が放送室に響き、空っぽの缶詰を笑い声が転がしていった。
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「ではここで、今日の“終末ニュース”です!」
マリが両手を広げ、勝手にニュースっぽい声を張り上げる。
「ニュースその一!近所の自販機を叩いたら、まだ缶コーヒーが一本落ちてきました!」
「……アンタ、それニュースというより泥棒自慢じゃない」
「いやいや!世界が終わったらみんなフリードリンクよ!」
「コーヒー一杯でこのテンション……もう末期ね」
「ニュースその二!鳩が増えてきて、ベランダが大変なことに!」
「フン掃除、お疲れさま」
「いや、逆に鳩を育てて非常食に……」
「やめなさい」
レイの冷たい一言で、マリの“非常食計画”は終了した。
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「ニュースも終わったし、次はどうする?」
「そしたら、いつもの“妄想お便りコーナー”いきますか!」
マリが手を挙げて元気よく宣言する。
「今回のお便りは〜!ラジオネーム・空腹サバイバーさんから!
“もし明日、好きなだけ食べられるなら何を食べますか?”」
「……おにぎり。塩だけでいい」
レイの答えは簡素だが、切実さが滲んでいた。
「しぶいな!私はもちろん……寿司!焼肉!ケーキ!あとラーメン全部!」
「欲張りすぎよ」
「だって夢くらいデカく見たいじゃん!」
二人はしばらく「寿司がいい」「いや焼肉だろ」と言い合い、結局答えは出なかった。
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「そろそろまとめましょうか」
レイが締めに入る。
「そろそろ調達に出るべきね。次の放送は……たぶん、出発準備の報告になるわ」
「おお!いよいよ冒険の始まりってやつだな!」
「……単に食料が尽きただけよ」
「夢を壊すなー!」
笑い声と腹の虫が、同じタイミングで鳴り響いた。
マリ「なぁ、探索で寿司って見つかるかな?」
レイ「……腐ってるわね」
マリ「じゃあ焼肉!」
レイ「……腐ってるわね」
マリ「じゃあ……乾パン」
レイ「それは残ってるでしょうね」
マリ「夢がなさすぎる!!」
――次回、ついに食料調達編スタート。