第32話 レイとマリの自己紹介
誰も聞いていないかもしれない。
けれど、声に出すことで存在を確かめられる。
今夜は「誰か」に向けてではなく、自分たち自身を語る時間。
「こんばんは、こちら終末ラジオ放送局」
落ち着いた声でレイがいつものように開幕を告げる。
「どーも、マリです。今日はねー、自己紹介なんてものをやってみようかなと!」
「……いまさら感あるけど」
「ほら、長く聞いてくれてる人も、最近聞き始めた人もいるかもしれないしさ」
「……聞いてる人がいれば、の話よ」
「そこは希望持っていこうぜ!」
マリが楽しげに言うと、レイが小さく肩をすくめる。
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「じゃあまず私から! マリ、19歳。走るの大好きで元・陸上部。短距離専門だったけど、砲丸とかハンマー投げとかも少しかじってたんだ」
「……投げるのは今でも役立ちそうね」
「だろー? 狩猟するときに使えたりして!」
「……投げる前にまずは当てる練習からね」
「あと、家庭菜園が趣味で。パンデミック前はベランダにプランター並べて、トマトとか育ててたんだよな。今はその経験が役立ってる!」
「駐車場の畑、あんたがいなきゃ芽も育たなかったでしょうね」
「へへっ、でしょ? 将来の夢はね、理系大学に進んで電気とか機械を学んでみたかったんだ。電気回路とか組むのにワクワクしてさ」
「……その夢は叶わなかったけど、あのとき買ってた教材や参考書が今でも役立ってるってのが、なんか不思議だよな」
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「じゃあ次は私ね。レイ、20歳。マリよりちょっとだけ年上」
「お姉さん風吹かせやがって〜」
「事実よ」
レイが小さく笑って続ける。
「高校ではアーチェリー部に入っていたの。的を狙って弦を引くときの静けさと集中が好きだったわ。冷静さは、そこで養ったと思う」
「確かにレイって、あんまり慌てないよな」
「……マリが慌てすぎるのよ」
「ひどっ!」
「で、私も理系志望で。電気工学を学びたかったの。発電とかエネルギー管理とか、ちょっとマニアックかもしれないけど」
「うん、ラジオ局で機材直せるのはそのおかげだな」
「正しくは独学の積み重ねだけど……少なくとも“何をどう動かすか”の発想はそこで身についたわね」
「好きな食べ物は……甘いもの。チョコとか」
「よっしゃ、全国のリスナー! チョコ送ってくださーい!」
「……宛先不明で戻ってくると思うけど」
「いやいや、夢はタダだって!」
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「で、性格は……どうだろう。私は慎重派で、マリは……」
「元気担当!」
「……つまり突っ走る役、ね」
「いやいや、走るのは得意だから任せとけって」
「……その勢いで何度私の心臓を止めかけたか」
「ははは、数えきれないな!」
放送室に二人の笑い声が広がった。
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「それで今日もニュースはあるの?」
レイが問いかけると、マリがにやりと笑う。
「あるとも! カボチャができましたー!」
「……ほんとに?」
「ほんとほんと。立派に実ったんだよ。これでハロウィンだな!」
「……仮装はできないけど、料理くらいなら」
「パンプキンスープ、カボチャプリン!」
「プリンは難しいんじゃない?」
「挑戦あるのみ!」
マリ「なぁレイ、私たちの紹介……ちょっとは伝わったかな」
レイ「ええ。たとえ誰も聞いてなくても、声にすれば残るわ」
マリ「じゃあ次は、チョコとカボチャを募集だな!」
レイ「……現実的じゃないお願いはやめなさい」
マリ「ははっ、夢見るくらいタダだろ!」
ふたりの笑い声が、夜の放送局に柔らかく響いていた。




