第31話 巨大な箱の中で
普段は未来を見ているようで、実はいつも過去にしがみついているのかもしれない。
笑い飛ばす日々の裏に、消えない記憶がある。
それでも語るのは、ただ一緒にいるから。
「こんばんは。こちら、終末ラジオ放送局」
レイが落ち着いた声でマイクに向かう。
「今日はちょっと特別。北にあるって噂のショッピングモールを探索してきたんだ」
マリの声が少し弾んでいる。
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出発の朝、二人は拠点の駐車場に停めてある荷車を点検した。
レイがしゃがみ込み、車輪を回して確認する。
「……やっぱり出かける前にチェックは大事ね」
「任せるよ。私は荷物詰めとくから」
マリは笑ってバックパックに食料と水を詰め込んでいた。
立ち並ぶ人の気配のない住宅群を北へと進む。
静まり返った街並みを抜けると、やがて大きな建物の影が見えてきた。
「ほんとにあったんだなぁ……」
マリが呟く。
外から見たときは目立たなかったが、近づけば確かにそこには巨大な箱のような建物が広がっていた。
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モールの中は静かだった。
ガラスの割れたエントランスから差し込む光で、吹き抜けのホールがうっすらと見える。
かつての賑わいは跡形もなく、埃だけが床に降り積もっている。
「広すぎるな……今日は全部は見れそうにないね」
レイが周囲を警戒しながら呟く。
「うん、浅いとこだけでも十分だよ」
まずは衣料品フロアへ。
ラックは倒れ、服の多くは埃をかぶり、虫に食われてボロボロになっていた。
それでも探せば、まだ使えるジャケットや厚手のシャツが残っている。
マリは色褪せたけど暖かそうなコートを見つけて「これ、着れそうだね!」と笑顔になる。
次に日用品のフロアへ。
懐中電灯や電池はほとんど持ち去られていたが、まだ使える洗剤やロープが手に入った。
「悪くない収穫だな」
レイはメモを取りながら、荷車に品を積んでいく。
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その時だった。
ふと後ろを振り返ると、マリの姿が見えない。
「……マリ?」
声を潜めた瞬間――
ガシャーン!
遠くのフロアで、金属の棚が崩れるような大きな音が響いた。
埃が舞い、静かな空気がざわめく。
「マリか!?」
レイが声を張るが、返事はない。胸の奥がざわつき、足が自然と前に出る。
「もう……勝手に逸れないでよ……」
不安を飲み込もうとしたその時。
別の通路から勢いよくマリが飛び出してきた。
両手に何かを抱えて、得意げな笑顔を浮かべている。
「ジャジャーン! 見てこれ!」
「……あんた、ほんと心臓に悪い……!」
レイは大きく息を吐き、ようやく肩の力を抜いた。
マリはケラケラと笑いながら「いいもん見つけたから許して!」と胸を張る。
――奥で鳴った音の正体はわからないまま。
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その後も二人は食料品売り場や雑貨フロアを軽く回った。
缶詰はさすがに空っぽだったが、瓶詰めや調味料は多少残っていて、ありがたく荷車に積み込む。
廃墟の中に、まだ人の痕跡が残っているのを感じさせる瞬間だった。
「思ったより広いね……これ、全部見るのは相当かかるよ」
レイが見上げながら呟く。
「だね。今日は浅いとこだけで十分だよ。また来よう」
マリも頷く。
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夜、放送室に戻ると、二人はマイクに向かって座った。
「そんなわけで、探索はそこそこの成功。
新しい服とか、ちょっとした日用品をゲットしました!」
マリが弾む声で伝える。
「でも奥の方はまだ全然手つかず。次に行く楽しみができたわ」
レイが付け足す。
「それじゃ、今日のニュースは?」
レイがマリに向かって尋ねる。
「はい! 今日のニュースです。
拠点の畑、今回も侵入はありませんでした!
それと、今日は足跡も周りになかったんだよね。
……これで少し安心できそうです!」
「それはいいニュースね」
レイの声に少し安心が混じる。
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「こうして振り返るとさ、ただの買い物みたいだったよね」
マリが笑う。
「でも、荷物はずっしり。立派な冒険だったわよ」
レイが肩を竦める。
「また次の探索が楽しみだな」
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放送は、ゆるやかな余韻とともにフェードアウトしていった。
マリ「いやー、やっぱドヤ顔のタイミングは完璧だったな」
レイ「心臓に悪いからやめてって言ってるでしょ」
マリ「でもさ、釣具だよ? これでご飯の幅が広がるって!」
レイ「……確かに、楽しみではあるわね」
マリ「でしょ? 次は絶対魚釣り回だな!」
レイ「それはまた、次のお楽しみよ」




