第3話 雨漏りのリズムと信号機
五日ぶりの放送。
廃墟の屋根から落ちる雨漏りの音が、妙に心地よいリズムを刻んでいた。
街角では信号機がまだ点滅を続け、誰もいない交差点を律儀に守っている。
放送局の天井から、ぽたり、ぽたりと水滴が落ちている。
五日ぶりの放送だが、今日はやけにBGMがついてきた。
「……こちら、終末ラジオ放送局。聞いてる人がいたら、こんばんは」
いつもならレイが言うはずのセリフを、マリが妙に落ち着いた声で語りかける。
「うわ、なんだその声!真面目ぶってると気持ち悪いな!」
今度はレイがふざけ調子で返す。
二人の役割は、今日はなぜか入れ替わっていた。
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「雨漏りの音って、不思議と心地いいよね」
マリが真顔で言う。
「おー!リズムに合わせて踊れそうだ!」
レイは椅子をガタガタ鳴らして、勝手にセッションを始めていた。
「……ほんと、今日は落ち着きがないわね」
「お前が真面目すぎるんだよ!」
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「それじゃあ、ここで“終末ニュース”!」
レイが元気いっぱいに声を張る。
「ニュースその一!交差点の信号機がまだピカピカしてました!」
「文明の名残ね。律儀に働き続ける姿は、ちょっと感動するわ」
「青になったとき、堂々と渡ってやったぜ!」
「……誰も見てないのに?」
「いや、亡霊に見られてるかもしれねぇだろ!」
マリが呆れながらも、ノートに「信号機・まだ稼働」と書きつけていた。
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「ニュースも終わったし、次は何しようか?」
「そしたら、いつもの“妄想お便りコーナー”でもやるか!」
レイが妙に張り切って宣言する。
「……自分で妄想って言っちゃうんだ」
「いいんだよ、正直で!じゃあいきます!今回のお便りは〜!」
レイがわざとらしく咳払いして、紙を広げるふりをする。
「ラジオネーム・水たまりダイバーさんから!
“雨の日って、何をして過ごしますか?”」
「本を読むわね。紙は意外と雨に強いし、まだ雑誌が残ってる」
「うわ〜真面目!私はもちろん雨漏り演奏だ!題して“シンフォニー・オブ・雨漏り”!」
「……完成する前に天井が抜けそうね」
「おおおい!夢を壊すなー!」
雨音に混じって、二人の笑い声が響いた。
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「さて、今日の放送はこの辺で」
「いや〜、役割チェンジも悪くないな!」
「……私としては、落ち着かないわね」
「よし、次も私が真面目担当な!」
「それは絶対にやめて」
雨音をBGMに、放送はゆっくりと終わっていった。
レイ「いや〜、真面目なフリって疲れるな」
マリ「私の役割の大変さ、少しは分かった?」
レイ「いや、マリはフリでも真面目になれないでしょ」
マリ「おい!今の発言はお便りコーナー行きだぞ!」
――次回もお楽しみに。