29話 冬支度リストと小さな楽しみ
寒さに備える準備は、生きるためだけじゃない。
少しでも笑える時間を増やすためのもの。
そう思えば、冬の訪れもほんの少しだけ待ち遠しくなる。
「こんばんは。こちら、終末ラジオ放送局」
レイが落ち着いた声で語りかける。
「今日はね、そろそろ“冬支度”の話をしてみようかと思って」
マリが、いつもより真剣そうに言葉を続けた。
外の風は少しずつ冷たさを増してきている。
この街に来る前に何度も、彼女たちは冬を越した経験がある。
焚き火と毛布、そして互いの体温でどうにかしのいだ、あの厳しい季節。
「前のホームセンター探索で、薪代わりになる木材とか、分厚いブルーシートは確保できた」
「でも羽毛布団とか、ちゃんとした防寒着はやっぱりないんだよな」
レイが小さく息をつく。
「だからモールに行こうって話になったんだ」
マリが少し笑う。
「食料以外にも、冬を少しでも快適に過ごすものがあるかもしれないしな」
二人はリストを並べて確認する。
毛布、寝袋、厚手の衣類、調理器具の予備……。
どれも“生きるために必要なもの”ではないかもしれない。
それでも、冬の夜を少しでも楽に、少しでも明るく過ごすために欲しいものだ。
―――
「さて、お待ちかね!妄想お便りコーナーの時間です」
マリが急に元気な声を出す。
「今回のお題は、『必要は無いけどあったら嬉しい冬用品』!」
レイも少し苦笑しながら便乗する。
「私は……こたつかな」
「うわ、それずるい!あったら絶対出られなくなるやつだろ!」
マリがすぐに食いつく。
「でも想像してみて。外は雪、部屋は寒い……でもこたつに足を突っ込んで、熱いお茶を飲むの」
「……あぁ、最高すぎる」
「でしょ?」
マリは顎に手を当てて考える。
「私は……ホットカーペットかな。床が冷たいと心まで冷えるんだよな」
「確かに。布団よりも優先したくなるかも」
「でも電気は足りないから、まあ妄想で我慢だな」
二人は思わず笑ってしまった。
―――
「そういえば、ブランドの冬服とか残ってないかな〜」
マリが思い出したように明るい声で言う。
レイは少し笑って肩をすくめた。
「……今さらブランドなんて意味ないって思ってたけど」
「けど?」
「けど、あったら……少し嬉しいかもね」
「だろ? お揃いとか着れたら最高じゃん」
「……寒い冬でも、ちょっとは楽しくなりそうね」
二人の声は、放送室に小さな温もりを灯した。
マリ「こたつもホットカーペットも無理だからさ、結局焚き火しかないんだよな」
レイ「でも、妄想するだけでちょっと暖かい気がしない?」
マリ「……うん。じゃあ次は、こたつにみかんを置く妄想でもするか」
レイ「みかん、あったっけ?」
マリ「……無い!」
レイ「夢が一瞬で終わったわね」




