26話 廃墟の落書き発見
言葉は、壁に書かれても消えない。
誰かがここにいた証拠は、時に落書きの形で残る。
それを見つけた時、時間を超えて声が届く気がした。
「こんばんは。こちら、終末ラジオ放送局」
レイの声は、秋の空気のように少し澄んでいる。
「今日は探索で面白いもんを見つけたんだよな」
マリが軽く笑いながら付け足す。
「廃墟の壁にさ……落書き」
「そう。もうペンキも剥げてるんだけどね、まだ読めるのよ。『がんばれ!』って」
レイが目を細める。
「なんか子どもっぽい字だったな」
「そうね。小学校の高学年くらいかしら。太いマーカーで勢いよく書いた感じ」
「……ここに人が生きてたんだな、って思った」
放送室に少しだけ、しんみりとした空気が漂う。
けれどマリは肩をすくめた。
「でもその横に、『○○参上!』って落書きもあってさ」
「ふふっ。真剣に励ましの言葉を書いた隣で、それ?」
「いやぁ、なんか笑っちゃって」
二人は同時に吹き出す。
「時代も状況も関係なく、人ってこういう痕跡残すのね」
「そうだな。……ある意味、一番“人間らしいニュース”だよな」
マリが小さく咳払いをする。
「じゃ、今日のニュース行くか!」
レイがうなずく。
「今日のニュースは――風が冷たくなってきました!」
「……いや、それニュースか?」
「立派なニュースよ。だって息が白くなったんだから」
「まぁ……確かに冬が近いって実感したな」
「でも、まだ空気が澄んでて気持ちいいのよね。歩いてると落ち葉の匂いもするし」
「そうそう、カサカサ音がして、足元がちょっと楽しくなる」
二人の声は、まるで散歩の延長線上にある会話のようだった。
「さて……次は何しようか?」
「そしたら、いつもの妄想お便りコーナーでもやりますか!」
レイが手元の紙をめくるような音を立てる。
「ラジオネーム・“落書きの勇者”さんからのお便りです」
『壁に「参上!」って書いたのは実は僕です。どうしたらカッコよく見えますか?』
マリは吹き出した。
「いや、どうしようもねぇだろ!」
「ふふっ。でもね、“がんばれ”と並んでたら、なんかカッコよかったかも」
「いやいや、ただの悪ノリだって」
「でも……そういう無駄な痕跡って、後から見た人を笑わせるのよ」
放送室は、晩秋の空気とともに、温かい笑い声に包まれた。
マリ「なぁ、もしオレらがここを離れる時が来たら、何か残していく?」
レイ「そうね……壁に“おつかれさま”って書いていくわ」
マリ「ははっ、渋いな」
レイ「じゃあ、あなたは?」
マリ「……でっかく“参上!”って」
レイ「ふふっ。やっぱりそうなるのね」




